日本酒の蔵元を招いたスペシャルディナーを開催することも。
左から大小屋 4代目 奥田信泰氏、櫻川 3代目オーナーシェフ 山本智史氏、黒龍酒造 8代目 水野直人氏
インバウンド需要が拡大する今、各地でガストロノミーツーリズムの動きが盛んになってきています。ガストロノミーツーリズムとは、その土地の気候風土が育んだ食材、習慣、伝統、歴史に根ざした食を楽しみながら旅することで、観光庁(国土交通省)が推進しています。滋賀県でも信楽ガストロノミーツーリズムの新しい動きがあり、メディア向けの取材ツアーに参加してきました。
一流を極めた豪華な3者によるそろい踏み
日本六古窯の一つでもある滋賀・信楽において1874年に創業し、信楽焼の伝統を受け継ぎつつ時代にあわせた革新的な焼き物も生産している「大小屋」(おおごや)。1970年の大阪万博時には、岡本太郎画伯の「太陽の塔」も制作したことで知られる老舗窯元。世界文化遺産に登録されている富岡製糸場の、絹糸の生産に使われた陶製製糸鍋を生産した歴史もあります。
そんな「大小屋」が2024年4月に創業150周年を記念し、約4,000坪の敷地内に十割蕎麦「東雲」(しののめ)をオープンしました。宮大工が建てたという和風建築の粋を極めた建屋や、秘密の自家精製の水で仕上げた十割蕎麦が今、注目されているのです。
「東雲」の夜の外観。匠の技が宿る日本の伝統建築美が印象的(撮影:JIL STUDIO)
新蕎麦の季節が到来する秋からは、これまでの昼営業に加え、完全予約制でディナー営業もスタートします。「ミシュランガイド京都・大阪」で、10年連続で1つ星を獲得している「日本料理 櫻川」(京都・木屋町)の調理人が「東雲」にわざわざやってきて、「櫻川」の日本料理テイストが加わった上質で贅沢なコース「十割蕎麦 東雲×日本料理 櫻川~匠の饗宴~」(26,450円、37,950円の2種、税サ込)を提供。その予約が11月5日(火)よりスタートします。(ご予約・問合せ電話:0748-83-2220)
「十割蕎麦 東雲×日本料理 櫻川~匠の饗宴~」37,950円のコースイメージ
超有名店のシェフがわざわざ出張してくるというだけでもかなり珍しく豪華な内容ですが、取材日には福井から黒龍酒造の8代目蔵元 水野直人氏も特別ゲストとして駆けつけられました。蔵元自らお料理に日本酒をペアリングされたスペシャルなコースを皆で堪能しました。
豪華なそろい踏みにメディアたちが興奮したことは言うまでもありません。今後もお客様のご要望に応じて、このような日本酒の蔵元を招いたスペシャルディナーを開催することもあるのだそう。
陶芸の美、極上の旨み、酒の芳醇。五感で愉しむ
「匠の饗宴」26,450円コースのイメージ。これにお菓子と抹茶も付く
それでは「匠の饗宴」(26,450円のコース)の一部をご紹介。前菜(下写真を時計回りに)は酢橘釜 すじ子醤油漬け、大徳寺麩クリームチーズ射込み 菊菜白和え 紫ずきん(枝豆)、秋刀魚肝幽庵焼き 銀杏松葉刺し、牡蠣煎り出し柚子ポン酢。
大徳寺麩クリームチーズのまろやかさや、牡蠣の旨みを堪能したところに「黒龍 純米大吟醸 吟風」の上品な香りとスムーズな口当たりが調和。信楽焼らしい土のザラザラした風合いが感じられるうつわで、釉薬(ゆうやく)や焼成法など、熟練した職人の技術により「緋色」の技法を表現した1点もので提供されました。
秋を表現した前菜。信楽焼らしく土の風合いが感じられる温かみのあるうつわ
向付けは鯛、鬼鯵 山葵、花穂紫蘇、土佐醤油。上品で繊細な鯛の刺身などに、「黒龍 大吟醸 しずく」を合わせて。酒造りの搾り工程で、もろみに圧力をかけずに自然に滴り落ちる雫のみで採取した、贅沢で繊細な風味の大吟醸。洗練されたうまみの取り合わせに思わずため息がもれます。
黒龍酒造のある福井県は、越前ガニに代表されるようにカニの名産地。もともとカニの繊細な旨みに合わせて開発されたお酒なのだとか。上品な白身魚にもとてもよく合います。
左が鯛と鯵の先付け。右が車海老と松茸の煮物椀
煮物椀は木の葉真薯(銀杏、車海老) 松茸 柚子。秋らしく贅沢に松茸が使われています。酒米 五百万石を使用した「黒龍 クリスタルドラゴン」の清らかで、透明感のある上品な味わいが、海老や松茸の繊細な旨みを一層引き出しています。
水野社長によると、このお酒は飲食店専用のもので、一般家庭では味わえない貴重なものだとか。食材だけでなくお酒のありがたみも心に沁み入ります。
左がからすみ蕎麦、右が「ビードロ」
技法で緑に色づいた陶器に盛った松茸巻き焼き
おしのぎは、からすみ蕎麦。「大小屋」で独自に精製したという秘密の水を使った十割蕎麦は、十割とは思えないほど喉ごしが良く、適度なコシがあり、噛むほどに蕎麦特有の香ばしさが鼻に抜けます。これを風味がとびきり豊かなごまだれで味わいます。この日は特別にからすみもかけてあり、贅沢なおいしさでした。
陶芸は土と水の調合、火との格闘で生まれる美。蕎麦もまた蕎麦の粉と水の調合から生まれる美味。水の扱いに精通した陶芸の窯元「大小屋」だからこそ、難易度の高い十割のそばに挑戦できたと、奥田社長は説明してくれました。遠方からわざわざ行く価値のある、唯一無二の美味しさです。
サプライズで屋外炭火焼!そのライブ感がたまらない
焼き物はかます松茸巻き焼き 酢橘、蓮根煎餅。店外で何やら煙が上がっていると思ったら、「櫻川」の山本智史シェフが屋外の炭火でお魚を焼いているではありませんか!広大な「大小屋」の敷地内だからこそ、周囲を気にせずにできる贅沢な料理。思わず屋外に出て、みんながスマホで撮影。夜空に月が輝き、遠くで鈴虫が鳴いていました。
「櫻川」の山本智史シェフによる屋外での炭火焼の演出も一興
「東雲」ではお客様のご要望に応じて、こんな屋外サプライズも用意してくれるそう。松茸をかますで巻いた香ばしい焼き物は、独特な「ビードロ」の緑色が入った信楽焼のうつわに盛られて提供されました。
「九頭龍 燗たのし」はぬる燗。ちょうどその日は、登り窯の隣で楽焼の「ひき出し楽」を取材させていただいた日で、その出来立てのおちょこで、夜はお酒を味わうという貴重な体験までさせていただきました。感無量…。
この日の登り窯は約1200℃まで熱せられていて、火の中の陶器は透き通って見えた
炊合せは小蕪、ぐじ、九条葱。そして栗飯蒸し 茗荷赤だし。最後は菓子・プリンと抹茶まで付きます。今回は日本酒とのペアリングでしたが十割蕎麦に合うワインや、敷地内で収穫したジュニパーベリーを使ったオリジナル・クラフトジンやオリジナルウィスキーも提供しているようです。
「東雲」の店内。
信楽焼の中でも大変希少な「灰かぶり」の作品をはじめ、
店内のいたるところに陶芸作品が展示されている
「大小屋」の近隣には信楽温泉の宿もあり、琵琶湖の湖畔にまで足を伸ばせば、眺めの良いホテルなどもあります。オーバーツーリズム気味の京都や大阪に比べ、ゆったりと贅沢に過ごせるでしょう。
アクセスは京都駅からタクシー5人乗りで約1時間、料金は1台あたり約1万5000円(要予約)。もしくは京都駅から快速電車で約15分、滋賀県の石山駅からタクシーで約35分で到着します。ディナーは完全予約制ですが、ランチは予約なしで気軽に立ち寄れます。
「東雲」に隣接している「大小屋」には1万点以上もの陶芸作品が展示販売されており、絵付けやろくろ回しなどの陶芸体験も楽しめ、カフェレストランなどもあり1日中過ごせます。来年、大阪・関西万博などで関西に行かれる方など、ぜひ滋賀まで足を運んでみてはいかがでしょう?多言語メニュー表も完備なので外国人のお客様も安心です。信楽ガストロノミーツーリズムで新しい美食体験をぜひ!
【東雲/大小屋 店舗データ】
所在地 :滋賀県甲賀市信楽町勅旨2349(「大小屋」隣接、駐車場80台)
アクセス:<車>
新名神高速道路の場合、信楽インター出口 信楽市街方面へ5分
名阪国道25号線の場合、壬生野インター出口 丸注経由で25分
<電車>
JR琵琶湖線 草津駅 経由 草津線 貴生川駅 下車乗り換え
信楽高原鉄道 信楽駅下車 徒歩17分、
JR琵琶湖線 石山駅からタクシーで35分
<バス>
帝産バス JR琵琶湖線 石山駅 乗車 陶芸の森前下車 徒歩1分
【十割蕎麦 東雲】
店名 :十割蕎麦 東雲
客単価 :昼 約1,500~約3,000円、夜 9,200円、
コース26,450円~37,950円 応相談
営業時間 :11:00~15:30、17:00~21:00
※蕎麦がなくなり次第終了
※夜は完全予約制で、ご要望に応じてご予算や
営業時間はカスタマイズ可能
定休日 :金曜日 不定休の場合もある
規模 :約1,000坪 約26席
開店年月日 :2024年4月1日
ディナー予約:0748-83-2220
【大小屋】
定休日 :年中無休
体験 :手びねり体験1,980円、ろくろ体験3,850円、絵付け体験2,200円
営業時間:(平日)10:00~17:00/(土・日・祝日)10:00~18:00
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≪筆者プロフィール≫
▪滝口智子
国際きき酒師&ソムリエ
飲食ライター歴20年の食いしん坊バンザイ!記者&PRプランナー。
日本酒やワインなどもこよなく愛す。