【現地レビュー】便利すぎてやめられない?注文から“10分”で日用品が届く、インドのクイックコマースの実情
日本では即配サービス、いわゆる「クイックコマース」の撤退が相次ぎ、クイックコマースの未来には疑問符がつけられることが多い。
しかし、インドではすでにクイックコマースが生活に深く浸透し、急速に成長している。
今回はインドのクイックコマースの概観と今後の見通しについて、インド在住の筆者が実際に利用した体験談も交えながら伝えていく。
10分で配送!?盛り上がるインドのクイックコマース市場
クイックコマースとは、注文から配達までの時間を極限まで短縮した配送サービスのことだ。想像してみてほしい。必要な商品が、わずか10分で手元に届くという世界。インドではすでにこれが日常の一部になりつつある。
クイックコマースの背後には、人口密集地域に「ダークストア」と呼ばれる倉庫が設置され、効率的な物流ネットワークが構築されている。そのため、たとえば水一本や急ぎで必要な日用品、生鮮食品も、注文後わずかな時間で届けられる。これによって消費者は時間を有効に使えるようになり、便利な生活が実現しているのだ。
注文してから届くまでの時間は地域や時間帯によってもまちまちだが、大都市の中心部であれば10分以内で届く場合も多い。以下は筆者がよく使うクイックコマース「Blinkit(ブリンキット)」の、ある日の夜7時頃のスクリーンショットだが、最上部にお届け時間が「8 minutes(8分)」と表示されている。
現在、インドのクイックコマース市場は4つの主要企業がシェアを占めている。その中でも圧倒的な存在感を放っているのが、フードデリバリー大手Zomato(ゾマト)が運営する「Blinkit(ブリンキット)」だ。市場シェアの約46%を占めている、業界リーダーである。
Blinkitに続いて、Swiggy(スウィギー)が運営する「Instamart(インスタマート)」、新興企業の「Zepto(ゼプト)」、そして財閥のタタ・グループ傘下のBigBasketが運営する「BBnow」とシェアを占める。
品揃えは運営元、また地域によってある程度異なると思われるが、スーパーマーケットで買いたいと思うようなものはほぼ買えるような印象だ。筆者が住むバンガロール中心部で「Blinkit(ブリンキット)」が提供している商品を例に挙げると、野菜や果物、肉などの生鮮食品や、水やジュース、お菓子などの各種食品、シャンプーやトイレットペーパー、洗剤などの日用品、電化製品など多岐にわたる。
一度使ったらやめられない!筆者のクイックコマース体験
クイックコマースの魅力は、そのスピードと利便性にある。筆者も週に3回程度はクイックコマースを使い、水や日用品を購入している。
今では日常的に利用するクイックコマースだが、最初に利用した時の感動は特に大きかったのでそのエピソードを紹介したい。
初めて利用したのはある日の夕食時だった。家で夕食を食べている最中に、必要な調味料が切れていることに気がついたのだ。通常ならば諦めるか、他の調味料で代用するしかないが、その時クイックコマースを試してみることにした。
レストランからのフードデリバリでよく利用しているSwiggy(スウィギー)のアプリを開き、その中にあるクイックコマースコーナー「Instamart(インスタマート)」から調味料を注文してみたところ、わずか10分足らずで調味料が届けられたのだ。
この「食事中に注文したら食事中に届いた」という体験に、筆者は感動を覚えた。
また、最近も「クイックコマースに本当に助けられた」と感じたエピソードがある。出先でMacbookの充電器を忘れ、バッテリーが危険な状態になってしまった。気づいた時にはもうパソコンの充電はゼロに近い。しかし急ぎで取り組みたい仕事があり、家に戻ったり電器店に買いに行ったりする余裕はない状態だった。
ネットで調べたところ、出力ワット数が高いアダプターがあればMacbookを充電できそうなことがわかった。クイックコマースの「Blinkit(ブリンキット)」で出力ワット数が高いアダプターを急いで探してみたところ、必要十分なものを発見。注文したところ、驚くべきことに9分で手元に届いたのだ。
正直、最初は「本当にこんなに早く届けてもらう必要があるのだろうか?」と半信半疑だったが、一度その利便性を体験すると、もうやめられない。クイックコマースは、消費者の日常生活を変えるポテンシャルを持つサービスなのだ。
急成長とともに課題も浮き彫りに
もちろん、クイックコマースには課題もある。
その最大の問題の一つが、配送員への過剰なプレッシャーだ。短時間の配送を求められるため、多くの配送員がスピードを重視した危険な運転を行い、結果として交通事故が増加するリスクが高まっている。
確かに、筆者の近所でもクイックコマースの配送員が交通ルールを無視して急ぐ姿がしばしば目撃される。これにより、配送員の安全性はもちろん、街の安全性の低下にもつながる可能性がある。深刻な問題だと言えよう。
また、クイックコマースの急成長は、インドの伝統的な小規模小売店である「キラナストア」にも影響を及ぼしているという議論もある。これまで地元の顧客を支えてきたキラナストアが、クイックコマースの台頭により売り上げを奪われ、地域経済や雇用に負の影響を与えているとの指摘だ。
このように、クイックコマースの利便性の裏には、配送員の安全や地域経済への影響といった新たな課題が浮上している。今後の成長においては、これらの問題への対応が求められるだろう。
新規参入で競争激化、さらなる進化に期待高まる
課題もある一方で、インドのクイックコマース市場はさらなる拡大が期待されている。最近、業界第3位のZeptoが6億6,500万ドルの資金を調達し、2025年3月までにダークストアの数を2倍以上に増やす予定だというニュースも報じられた。
さらに、世界的な企業であるAmazon Indiaと、そのライバルであるFlipkart(フリップカート)も最近インドのクイックコマース市場への参入を果たした。両者ともに既存の強力な物流ネットワークと幅広い顧客基盤を武器に、この市場でのシェア獲得を狙っている。
こうした動きが示すように、インドのクイックコマース市場は、新たなプレイヤーの参入で競争が激化する中で、さらなる進化を遂げる可能性が高い。消費者のニーズを瞬時に満たすクイックコマースの未来には、まだまだ多くの可能性が広がっている。今後も、インドのクイックコマース市場の成長からは目が離せない。
【著者プロフィール】
滝沢頼子/株式会社hoppin
東京大学卒業後、UXコンサルタントとして株式会社ビービットに入社。上海オフィスの立ち上げ期メンバー。
その後、上海のデジタルマーケティング会社、東京のEdtech系スタートアップを経て、2019年に株式会社hoppinを起業。UXコンサルティング、インドと中国の市場リサーチや視察ツアーなどを実施。インドのバンガロール在住。
ウェブサイト: https://techable.jp/
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