ミイナ・オカベ、日本初ショーケース実施 北欧の風を感じる心地よいライブ届ける

ミイナ・オカベ、日本初ショーケース実施 北欧の風を感じる心地よいライブ届ける

 「魅力的な声にずっと寄り添っていたい」など、SNSで絶賛する声がやまずに話題となった【SUMMER SONIC 2024】でのステージから一夜、日本にルーツを持ち、コペンハーゲンを拠点に活動するシンガーソングライター、ミイナ・オカベの日本初となるショーケース・ワンマン公演が、8月19日に東京・代官山のSPACE ODDにて開催された。

 チケットはソールドアウトしたということもあり、会場は後方までオーディエンスで埋め尽くされていたものの、通常のライブにある緊迫感がまったくなく、リラックスした雰囲気。それぞれが自由な時間を満喫している空気に包まれるなか、ミイナが3人のバンドメンバー(ギター、ベース、ドラム)とともに、ステージに登場。「かわいい」という歓声に照れくさそうな表情を浮かべながらも、落ち着きを感じさせる姿で23年に発表された配信限定アルバム『Spinning Around』に収録された「Waiting Is A Waste」と、昨年リリースされた日本デビュー・アルバム(海外では21年)『ベター・デイズ』から「I’m Done」をパフォーマンス。ドリーミーな雰囲気のあるアコースティックをベースにしたサウンドにのせ、アンニュイな佇まいで歌う彼女の声からは、心地よい波動が生まれていたというか。ジメジメとした東京の夏を忘れ、ミイナが暮らす北欧の心地よい風を感じることができた。

 続いて「私は幼い頃からたくさんの日本の音楽にも親しんでいて影響を受けています」と語り、サマソニのステージでも話題を呼んだaikoの「カブトムシ」(99年)を、英語を交えてカバー。原曲では大切な人と過ごすこの瞬間を生涯忘れることはないという思いが伝わる内容であるが、彼女が繰り広げる陶酔的かつノスタルジック(懐かしい)匂いがするサウンドやヴォーカルによって再構築されると、遠い日の〈花火〉を眺めているような。過ぎ去ってしまった甘い思い出を、愛おしく感じている姿が見えてきた。

 そんな名曲の余韻に浸るなか、現在制作中という2ndアルバムから「Harsh」を公開。これまでの柔らかな光に包まれたアコースティック・サウンドというイメージとはひと味異なる、力強いグルーヴが響くR&Bテイストな楽曲。響くミイナの歌声も特色である透明感を残しつつ、よりエモーショナルなものに変化し、かっこいい(ハーシュな)ナンバーに仕上がっている。アルバムの仕上がりが楽しみになったナンバーだ。

 その後、彼女もギターを手にし、バンドと(途中でベーシストと接触するハプニングもありながら)セッションをしながらパフォーマンスする楽曲もあるなど、日本での初単独公演を心から楽しんでいる様子がうかがえたステージ。それにつられて自然と身体を揺らしながら笑顔で楽しむオーディエンスも目立ち、柔らかな一体感に包まれるなか、先日リリースされたばかりの新曲「Strong」を披露。デュア・リパやジャスティン・ビーバーらの楽曲を手がけているLeroy Clampittとの共作で完成したという楽曲は、タイトルどおりストロングなビートに、身体が勝手に脈打つように揺れるサマートラック。それにのせて響くミイナの歌声も軽やかな印象。オーディエンスをあっという間に、解放的な夏のビーチへといざなった。

 さらに、すでにSNSで100億回以上の再生を記録し、日本語ヴァージョンが人気アニメのエンディング・テーマに起用された「Every Second」を歌いはじめると、会場はさらなる盛り上がりに。一緒に口ずさむ人やダンスをする人など、それぞれのスタイルで、彼女の紡ぐ1分1秒を無駄にせず楽しもうとする姿勢がうかがえたのだった。

 ライブの終盤に入ると、現在制作中のアルバムより「人生で傷つく瞬間はあるけれど、支えてくれる大切な人たちのおかげで乗り越えることができる」という思いを綴ったドラマティックな展開の楽曲「Always Hurts」や、ドラマ主題歌に起用され話題を呼んだ日本語曲「Flashback」、さらに今年の春にリリースされた「Maybe One Day」などをパフォーマンス。どの楽曲においても、とてもリラックスした表情を浮かべ、会場にいるすべての人と自分の作る音楽で繋がることができる喜びを噛み締めているような雰囲気が伝わってきたのだが、終盤のMCでは日本語で「実はとても緊張していたのですが、今は(この時間を)とても楽しんでいます」と告白。一段と柔らかな表情をしながら、パフォーマンスをしている様子がうかがえた。

 アンコールでは、オーディエンスの温かな反響に「クレイジー」と連呼。「自分のためだけに、たくさんの人が会場に詰めかけてきてくれたことがうれしい」と感謝の気持ちを伝え、ラストに「Rain」を全身全霊をこめて伝えるかのようにパフォーマンスし、観客を圧倒させて、90分にわたるステージは終了したのだった。ちなみに、この楽曲を披露していた時間帯の会場周辺はゲリラ豪雨でカオスな状況だったらしいが、会場に降り注いでいたのは余計なものを洗い流し心を潤すピースなもの。また、不思議なことに会場から出ると、豪雨が空気を変えたのか、もしくはミイナの心地よい音楽が天にも届いたのか、それまでの蒸し暑い空気を一気に洗い流した心地よい夜風が吹いていた。彼女の音楽には、憂鬱を吹き飛ばしてくれるマジックが潜んでいるのかもしれない。そんなことを感じさせるプレシャスな夜になった。

Text by 松永尚久
Photos by Sotaro Goto

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