The Top 75 Art Professionals 2023選出のキュレーター、エステラ・プロバスによる物質性と言語をテーマにしたグループ展




The Top 75 Art Professionals 2023選出のキュレーター、エステラ・プロバスによる物質性と言語をテーマにしたグループ展がKOTARO NUKAGA(六本木)にて開催。

本展は、世界で最も影響力のある美術アドバイザーの1人と称され、メキシコシティにあるラテンアメリカ最大の現代美術コレクションであるジュメックス美術館の創設において極めて重要な役割を果たしたことでも知られるエステラ・プロバスのキュレーションによる展覧会。


現代アートにおいて、物質性は美的体験を生み出すうえで欠かせない媒体となっている。それは単なるモノの物理的特性にとどまらず、時間や状況といった文脈とも深く結びついている。プロバスのキュレーションによって、アートとその物質的本質が織りなす多面的な関係性の探究へと鑑賞者を誘い、作家たちは従来の枠組みを問い直し、視覚、言葉、空間的次元を横断する対話を生み出す。本展ではステファン・ブルッゲマン、ホセ・ダヴィラ、リクリット・ティラヴァーニャ、マイケル・リキオ・ミング・ヒー・ホー、アマドゥールの厳選された作品を通じて、物質性が素材の問題だけでなく、時間や知覚、そして人間の経験とどのように関わり合っているのかを探る。

社会の認識や物語が絶えず流動する現代において、これらの作品の持つ物質性は、私たちの集合的意識を映し出す鏡のような役割を果たし、作品の実体の受け止め方や理解の仕方に疑問を投げかけ、新たな見方を提示する。また、テキストや金箔、建築的なフォルムなどの要素を用いることで、モノと言葉が単なる媒体以上の存在であることを明らかにする。モノと言葉は、見る者と見られる者との対話のなかで、活発に働きかける参加者。これらの要素を通じて私たちは、この展示に選ばれた作品がどのように情報を伝え、影響を与え、感覚的な体験として私たちに働きかけるのか、思いを巡らすことになるだろう。ここでは、一つ一つの作品における物質性は静的な存在ではなく、生き生きとした、人間であることの条件の延長線上にあるものなのだ。


Rirkrit Tiravanija 《untitled 2015 (sognamo sotto lo stesso cielo?)》2015


本展では、2022年岡山芸術交流にてアーティスティックディレクターを務め注目を集めた、リクリット・ティラヴァーニャの作品3点を展示。
リクリット・ティラヴァーニャは、美術の伝統的な素材と現代的な素材、時には工業的な素材を組み合わせる手法をしばしば用いる。この融合の手法は、古典芸術と現代アートの境界を曖昧にするだけでなく、現代社会の複雑で多層的な性質をも映し出す。ティラヴァーニャの新聞を使った絵画は、私たちを取り巻く物質世界―それは外的な力によって絶え間なく変化し、形作られていく―がいかになり、集団的・個人的な経験に影響し、それによって影響されるかという探求への媒体となる。


ティラヴァーニャが新聞を作品に用いることで、物質性をめぐる議論は、情報の領域とその一過性にまで広がる。新聞のような儚い素材が、情報化時代の精神をいかに捉えているかを浮き彫りにしているのだ。彼が新聞を作品に組み込むのは、素材を新たな文脈に位置付けるだけではない。私たちの現実認識を形作る上でメディアと情報が果たす役割について、考えを巡らせる機会を鑑賞者に提供している。



ose Dávila《Untitled》2023


ホセ・ダヴィラの物質性へのアプローチには、バランスと緊張のせめぎ合いがしばしば含まれ、今日の社会・政治情勢が持つ不安定さを映し出す。作品を通して、儚いものと永続するものの性質を問いかけることで、自然界と産業界を連想させるテーマに頻繁に取り組んでいる。

ダヴィラは点や線、面といった基本的な要素を用いることで、空間認識を作品に取り入れ、安定性や永続性といった概念に疑問を投げかける構造物を生み出す。彫刻作品においては、石やセラミック、ガラス、金属、コンクリートなどの素材が不安定な均衡を保ちながら用いられ、調和と無秩序、脆さと抵抗の間に生まれる緊張関係を探求しているのだ。



Stefan Brüggemann《Free》2022


ステファン・ブルッゲマンは、テキストと言語を物質的な要素として探求することで、私たちの空間とコミュニケーションに対する認識を揺るがす。彼の金箔やスプレーペイントを用いた作品は、デジタル時代に溢れる情報の嵐にしばしば真正面から向き合い、それを映し出している。そして、言葉が持つ政治性や、真実と誤情報、メディアが大衆の認識に与える影響の背後にある複雑な問題について、再考を促す。ブルッゲマンは、金箔を施したキャンバスに様々なメディアの見出しをスプレーペイントで描くことで、社会の物語を形作るうえでの現実と虚構の相互作用を際立たせている。

金箔を施したキャンバスにメディアの見出しを描くことは、物質性という概念に社会政治的なメッセージを加える。彼の作品は、とりわけ真実と誤情報をめぐる今日的な状況において、素材、メッセージ、媒体の間の複雑な関係性を探っているのだ。



Michael Rikio Ming Hee Ho《it’s okay to cry》2024


ホーはよく象徴的なイメージと太字のテキストを組み合わせる。個々の言葉は挑発的だったり対立的だったりするが、一緒に組み合わされることで、曖昧で複雑な意味合いを帯びてくる。このユニークな融合が、不条理で滑稽味のある社会風刺の形式を生み出し、鑑賞者にそれぞれの解釈を持つよう促す。

作品にだまし絵のような支持体や錯視の手法を用いることで、従来の空間的な語りは覆され、展示空間そのものの物質性と、鑑賞者自身の身体性の感覚を再考するきっかけが生まれる。ホーは、テキストやイメージを、スプレーペイント、透明ジェッソ、インクジェットプリンターのインク、ペンキ、樹脂などの物理的な素材と組み合わせ、異なる表現媒体や物理的な錯覚を用いることで、複雑な社会的・文化的ストーリーをどのように伝えられるかを探求し、物質性という概念を浮き彫りにしている。鑑賞者による関わりと解釈を重視するホーの芸術は、この展覧会のコンセプトと共鳴。現代社会に対する私たちの認識ややりとりによって、アートにおける物質性がどのように形作られ、また物質性を形作っているかを探求する。



Amadour《Hollywood Studio View》2024


アマドゥールは、金箔を施したハードエッジの絵画を制作することで絵具とキャンバスの物質性と、音と空間の非物質性が交錯する共感覚的な視点を「物質性と言語」という主題に持ち込む。その絵画は物質性を感覚的な次元へと拡張。金箔は、カリフォルニアの太陽を象徴すると同時に、発展の手段として金を利用してきたアメリカ西部の長い歴史を反映している。アマドールの作品は、古典的な建築物や周囲の風景に広がる音の振動や光の照射を、様々な線のストロークを通して表現しているのだ。

「Materiality and Language: Explorations in Form and Meaning Curated by Esthella Provas」
会期:6月8日(土)〜7月31日(水)
会場:KOTARO NUKAGA
https://kotaronukaga.com/
東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2FMap
Tel:03-6721-1180
開館時間:11:00 – 18:00
休館日:日, 月, 祝日
入館料:無料

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