『サガ エメラルドビヨンド』レビュー:まるで『キノの旅』!? 発売から1か月……本作の魅力を改めて振り返る
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1989年発売の『魔界塔士サ・ガ』を契機に35年も続く人気シリーズの最新作、『サガ エメラルドビヨンド』(以下、『サガエメ』)が4月25日に発売された。
2016年の『サガ スカーレットグレイス』以来8年ぶりのコンシューマ向け完全新作でもあり、期待度も高かった本作。主人公となるキャラクターも、見習い魔女のアメイヤ・アシュリンに、歌姫と呼ばれたメカであるDiva No.5、さらにクグツを使う日本人風の御堂綱紀など、どれも魅力的だ。
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▲主人公に選べるキャラクターは5組6人
発売直後は胸躍らせるファンの声もたくさん見たし、ゲーム自体の面白さをしっかり伝えて「マストプレイ」と評価するメディアの記事も読んだ。だが、発売から1か月が経とうという今、辛辣なレビューやコメントも見かけるようになっている。
なぜそのように言われてしまうのか。それはこのゲームが主人公を複数のうちから選べるフリーシナリオであるうえ、文明やそこに住まう種族・価値観もまったく異なる数多くの世界を行き来するゲームだからだろう。
過去作『ロマンシング サ・ガ』(以下、『ロマサガ』)などでは、プレイヤーの選択によってたどることのできるルートが異なることはあれ、起こるイベントは一つの世界の中での出来事だった。しかし『サガエメ』の場合、世界そのものがいくつにも分かれているので、各世界でまったく異なる出来事が起こる。
例えば巨大な木の上にある緑豊かな世界では、生き物がなぜか石化しており、それを助けなければならない。またある世界は戦争によって荒廃してしまっており、大地は砂で覆われ古びた機械が所々に転がっている。
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プレイヤーの選択によって違った物語が紡がれるのはシリーズならではだが、『サガエメ』ではゲーム体験そのものもまったく変わってくる。同じキャラクターでも辿る世界そのものが違うので、プレイヤー同士で感想を語り合っても「まったく別のゲームのよう」ということがあり得る。
物語のつくりは時雨沢恵一のライトノベル『キノの旅』のようでもあり、シュールさの面では『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』など村上春樹作品の小説群にも近い印象を抱く。
そして訪れた世界の一つひとつについても、結局「その世界が何だったのか」は1周するだけではわからない場合が多い。人々が氷漬けにされたとある世界では、一人ひとりの氷を融かして助けながらその世界の謎を突き止めていくことになるが、1回のプレイで全員を融かすことはできない。誰を助け、誰を助けなかったかが、先の展開にも影響を及ぼす。
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加えて主人公の視点の違いもある。同じ世界にたどりついても主人公によって導入部分から違うことがあるし、逆に導入や展開が同じでも、主人公のセリフや感じ方によって、その世界そのものの見え方が変わってくることがある。
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▲アメイヤ・アシュリン編では、ただそこに生えているだけの食虫植物
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▲ボーニー&フォルミナ編では、いきなり襲い掛かってくる
「主人公が複数」なうえに「世界も複数」に広がるのが『サガエメ』の大きな特徴だ。それゆえ、周回プレイ含めて冒険は常に新しい発見や驚きに満ちているわけだが、プレイヤーによっては「結局これらの世界がなんなのか、何度プレイしてもわからない」というヤキモキした感情を抱かせているのだとも感じる。
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▲喋る案山子(かかし)を相手にしても冷静に会話する綱紀
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▲案山子に対して明らかな嫌悪感を示すボーニー
しかし「これらの世界がなんなのか、何度プレイしてもわからない」という結論になったとしても、ついそこから何度もプレイを続けてしまう魅力がこのゲームにはある。
特にバトルシステムは斬新で面白い。『ロマンシング サ・ガ2』からの「閃き」(戦闘の途中でキャラが覚えた新しい技で攻撃する)システムは健在だし、『サガ フロンティア』からの「連携」については、今作においてバトルの根幹部分を担っている。
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▲仲間キャラ3人のラインが繋がり、連携が発動
バトル画面には、特徴的な緑のタイムラインが表示される。基本的には、仲間同士で緑のラインが繋がれば、自然に技の連携が発動する仕組みになっている。ゲームの早い段階でその仕組みが理解できていないと、ただ威力の高い技を選ぶだけでは大して敵にダメージを与えられない。そればかりか敵から連携攻撃を食らいまくって、あっという間に全滅してしまう。
いかに連携を組んで相手に大ダメージを与えるか、またいかにして敵の連携を防ぐか。戦略を組み立てるのも視覚的にわかりやすいので、毎回パズルを組み立てていくような面白さがある。
しかも組み立てが終わった時点では、まだ狙い通りの流れになるかどうかもわからない。綺麗に連携ができているように見えても、いざ攻撃が開始されると敵のインタラプト(割り込み)が発動して阻止されてしまうこともある。
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▲連携ラインに敵がインタラプトしてきてしまい、連携が途絶えてしまった
また、慣れないうちはバンプ(敵の行動順を下げる)技を考えなしに盛り込んでしまうことも。意図せずこれをやってしまうと、敵が自分の組んだラインの中に押し出され、そこで連携が途切れてしまう。筆者も準備段階でラインをつなげることばかりに気を取られ、何度もこのミスをやらかしてしまった。
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▲準備段階では、ちゃんとラインが繋がっていたが……
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▲繰り出したのがバンプ技だったために、敵が後ろに押し出されて連携が途絶えてしまった
しかし逆に、技の性質を見極めた上でしっかり連携を組み、意図した通りの展開になったときの爽快感たるや。これまでのシリーズでは味わえなかった興奮がある。
加えて、驚くべきことにこのゲームには、他のRPGには当たり前にあるはずの「回復技」が一切ない。倒れた仲間は戦闘が終わるまでは倒れたままなので、連携もし辛くなってくるが、そうなったときにこそ発動しやすくなる「独壇場」というものもある。これはキャラが一人だけでいくつもの技を連携のように繰り出せるシステムで、うまく発動させることができれば一発逆転も狙える。だが、これももちろん、敵が使ってくる場合もあるので要注意。最後の1体になっても気が抜けない。
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▲敵が「独壇場」を発動。仲間が一気に倒され、全滅してしまった……
これらのバトルシステムが「難しそう」「人を選ぶ」と感じられてしまう点を理解することはできる。ただ同時に、これこそ新しいRPGを楽しむ醍醐味ではないかとも思う。カンの鈍い筆者でも10戦ほど重ねれば「よし(連携が)繋がった!」「クソッ、インタラプタか!」と叫びながら熱中していたので、新しい遊びの好きなプレイヤーならすぐに慣れるものだと思う。
「サガシリーズのファンなら楽しめるが、それ以外のプレイヤーはどうだろうか」という声も聞く。だが、そもそも今このゲームを楽しんでいる「サガファン」だって、「サガ」シリーズを遊ぶ前には当然ながらファンではなかったわけだ。
令和のゲームプレイヤーにとっては今作が「初めて遊ぶサガ」にもなりえるわけで、そういったプレイヤーも充分楽しめる間口の広さは、このゲームにも備わっていると筆者は考えている。「尖っている」「人を選ぶ」という言葉を安易に用いたことで、せっかく遊んでみようかと思っているユーザーの機会を奪うとしたらそれはとても残念なことだ。
最後に、「サガ」シリーズと言えばやはり仲間となる魅力的なキャラクターであり、それについても触れておきたい。筆者が特に気に入ったのは、「ブライトホーム」という世界で仲間になったサイモンというメカのキャラクターだ。『サガフロンティア』に登場したT260Gのオメガボディにも通ずるような少年心をくすぐるデザインで、ゲーム序盤では貴重な全体攻撃ができるのも魅力的だった。
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▲ブライトホームで仲間になるメカキャラ、サイモン
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▲貴重な全体攻撃技、周回射撃を最初から使用できる
その一方で、案山子のような見るからに弱そうなキャラも仲間にできたりする。彼にもコミカルな部分に魅力があるのだが、そうした「自分のとってのお気に入り」に巡り合えるのも「サガ」シリーズの魅力だろう。物語を繰り返し楽しむ中で、ぜひそうしたあなたの「推しキャラ」を見つけてほしい。
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▲明らかに弱そうな見た目の案山子。しっかり育成すれば大活躍も?
文/平原学
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