インドネシアのエビ養殖スタートアップJALA Tech、シリーズA投資ラウンドで資金調達

インドネシアは日本と地理条件が類似する島嶼国家で、水産物が食卓に上がる機会も頻繁にある。定番のエビ料理も多く、現地ではエビの養殖事業も盛んだ。

しかし、すべての業者が効率的なエビ養殖を成功させているというわけではない。農閑期のサイドビジネスとして農家がエビ養殖を行っている場合もあるため、品質が必ずしも保証されていないのが現実だ。

この問題を解決するサービスを提供し、インドネシア国外からも大いに注目されるようになったのが、エビ養殖のスタートアップJALA Tech(以下JALA)である。

Image Credits:JALA

エビ養殖堀の状態をスマホアプリに表示

Techableで2021年にJALAの紹介記事を配信した当時、同社は日本のリアルテックホールディングス株式会社が運営するリアルテックグローバルファンドから出資を得たばかりだった。

JALAが開発したデバイスは、エビの養殖掘の中を常時モニタリングする。専用のスマホアプリに堀の水質やエビの様子を表示し、経験の浅い業者でも高品質の食用エビを生産できるようにするシステムだ。

Image Credits:JALA

エビを含む水産物養殖は、餌の量が肝心。少なすぎるとエビが死んでしまい、多過ぎると余計な餌代がかかる上に水質汚染も引き起こす。一方で、休耕地を活用した水産物養殖事業は農村部に新しい産業をもたらす。「農閑期に行えるつなぎのビジネス」があれば、若者が都市部へ出稼ぎに行く必要がなくなる。

JALAの養殖掘管理デバイスと連携のスマホアプリで、誰しもが簡単に養殖ビジネスを始められる環境が構築されようとしている。

仲買人が生産者の収益を奪う現状

インドネシアのアグリテックスタートアップは、必ずと言っていいほどマーケットプレイス運営も同時並行で行っている。仲買人の介入を回避するためである。

仲買人はインドネシア語で「tengkulak」という。たとえば現地メディアNU Online Lampungの記事のタイトルは「ランプン州知事、仲買人に農作物を売らないよう農家に要請」である。ランプン州知事アリナル・ジュナイディ氏が、稲の収穫を控えた農家に対して仲買人を避けるよう自ら呼びかけたのだ。なお、アリナル氏はランプン大学で農業学を専攻し、学士号を取得した人物である。

仲買人による中間マージン搾取はインドネシアの社会問題で、これがある限り生産者は不当に安い売却価格を強要される。中間業者が何重にも介入するため収穫物が小売店に届く頃には価格が高騰。消費者にとっても苦々しい状況になってしまう。

Image Credits:JALA

同じ現象は水産物生産においても起きている。アグリテックスタートアップは、悪質な仲買人を寄せ付けないために独自のマーケットプレイスを企画する必要があるのだ。

1000万ドル以上の資金調達に成功

JALAは昨202311月、現地ベンチャーキャピタルIntudo Venturesが主導するシリーズA投資ラウンドで総額1310万ドルの資金調達に成功した。

この資金はスマトラ島、スラウェシ島、ヌサ・トゥンガラ地域での事業拡大に活用されるという。ここで注目すべきはヌサ・トゥンガラ地域。バリ島以東の西ヌサ・トゥンガラ州、東ヌサ・トゥンガラ州は火山群島から成る細長い州で、豊かとは決して言えない土地だ。特に東ヌサ・トゥンガラ州はジャワ島やバリ島よりも遥かに降水量が少なく、大規模農業に適した平地も極めて少ない。

そのような地域にこそ、JALAが提供するようなスマート養殖システムが求められるはずだ。

一次産業こそ有望株

JALA、そしてスマート養殖給餌器を提供することで急成長を遂げたeFisheryはインドネシア政府が巨大な期待を寄せる企業である。

地域間の経済格差問題、仲買人問題、国内出稼ぎ問題、そして食料自給率問題まで一気に解決してくれる可能性のあるアグリテックスタートアップは、今やインドネシアの花形分野となりつつある。それは「農業や漁業は辛いだけで儲からない、格好悪い」というイメージから「一次産業こそ有望株」というイメージへの大転換をも意味する現象だ。

今後もインドネシアのアグリテック分野から目を離すことはできない。

参照:
JALA Tech
NU Online Lampung

(文・澤田 真一)

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