ソーシャル×保険=社会保険?共助目指す南アのP2Pインシュアテック「Pineapple」
アフリカ保険市場の盛り上がりが続いている。IMARCの予測によると、2023年に874億ドルに達した同市場は2024年から2032年の間にCAGR6.3%で成長し2032年までに1539億ドルに達するとのこと。
マーケットシェアのほとんどを一国で占めるのが南アフリカだ。アフリカ全体の2022年の保険市場規模は816億ドル、同年の南アフリカ単独の規模は約506億ドルと推定されている。
インシュアテック業界の成長著しいアフリカでも急成長ぶりで注目を集めるスタートアップが、南ア初のP2P型保険企業と呼ばれるPineapple社だ。2018年にThe Digital Insurerが開催したコンペでは、国際保険コミュニティから「世界最高のインシュアテック」に選出。2023年11月にはシリーズBラウンドでアフリカインシュアテック史上最大となる4億ランド(およそ32億円)を調達している。
テクノロジーとAI活用でコスト削減、低価格を実現
Pineappleの提供するソリューションの特徴は、AIとテクノロジーを最大限活用することで低コスト・低価格を実現している点だ。保険の申し込みや解約、事故の報告、保険金の請求といった手続きはすべてアプリ(または公式サイト)で行える。
保険を掛けたいアイテムの写真を撮影すると、AIが画像を認識して適切な契約プランを提案してくれる。見積もり90秒、保険金の請求は30秒という速度を誇っている。
公式サイトや同社のYouTubeチャンネルでアプリの操作サンプルを確認できるので、興味がある人はぜひチェックしてほしい。先端技術搭載により業務のほぼすべてを担うアプリは、App Storeでは評価数1500以上で4.5と高く評価されている。
また、AIを活用してコールセンターを設置しないことでコスト削減を実現。コールセンターとのデメリットとして、顧客満足度および従業員の満足度が低いこと、それにも関わらずコストが高いことを挙げている。ただし、電話で人間と話したいという顧客の選択肢を完全に排除しているわけではなく、特に保険の購入に関してはエージェントとの会話は可能とのことだ。
ユーザー同士が助け合うP2P保険
独自のP2Pビジネスモデルで保険業界を革新する同社の提供する金融サービスは「ソーシャル(社会的)」な側面も大きな特徴の一つ。加入者が支払った保険料はPineappleウォレットに預けられ、自分の資産に何かあればウォレットから保険金を受け取るのだが、このウォレットはシステム内の他ウォレットと結びついてネットワークを形成するのだ。
ユーザー同士のネットワークでリスク分散も選択可能なことから、「P2P保険」または「ソーシャル保険(社会保険)」と呼ばれている。保険金の請求が行われ承認された場合はネットワークから保険料が支払われ、残りの金額はネットワークのメンバー間で保持される。
家族や友人、従業員やコミュニティなど、ユーザー同士がSNSのような独自ネットワークを築くことができ、保険加入者はそれぞれ個別にリスク評価され取り扱われる。こうしたリスクプロファイルがネットワーク全体の一部を形成。これによりリスク分散度を高めたり、より効率的にネットワーク内の残金を増やすことも可能だという。自分の払った保険料のコミュニティ貢献度もアプリで把握可能だ。
利益共有型モデルで優良ユーザーに還元
また、同社は「Pineapple Benefits & Rewards」と呼ばれるスキームを通じて使用しなかった保険料を払い戻すことでユーザーとの共存共栄を図っている。12ヵ月連続で保険料を遅延なく払い続けている・過去に保険金請求を行っていないといった条件を満たし、コミュニティ支援に貢献するユーザーにリワードやクーポンを通じて利益を還元する仕組みだ。クーポンはUber EatsやSuperbalist(南アで人気のオンラインアパレル)などの商品と引き換えられる。
大規模で信頼できるネットワークを構築するユーザー、つまり「社会的に責任ある行動」を取るユーザーにこうしたリワードを設けているのは、「社会的に良い」行動は正しく評価され報われるべきだと同社が考えているからだ。
「この人は不正請求や過度の請求を行わないはず」と信じられる相手とつながり、コミュニティ全体の利益分配への影響を考慮して自らも責任ある行動をとる。集団でのこうした相互補助こそが、同社が考える保険のあるべき姿だという。
その姿が、無数の小さな実が集合体となって落下時の衝撃を果実全体で緩和するパイナップルに似ていることから社名をPineappleにした旨をCEOのMarnus van Heerden氏がAccountancy SA の取材で語っている。
消費者ファースト、保険のネガティブイメージ払しょく
2017年にMarnus van Heerden氏とそのチームによって設立されたPineappleは、アプリまたはウェブサイトで「いつでもどこからでも誰もが簡単に保険に加入できる世界」の構築を使命とする。自社サービスに社会的要素を再導入したのも、「仕方なく払うもの」「楽しい出費ではない」といった保険のネガティブイメージ払しょくを目指してのことだ。
ユーザーへのリワードの他にも、自動車保険を請求したユーザーに事故によるトラウマカウンセリングを無料提供するなど、消費者ファーストのインセンティブやベネフィットで保険のイメージ書き換えを図っている。
また、全ユーザーを対象とする無料特典として、遺言状作成サービスもローンチ。南アではまだ遺言状の認知度が浸透していないため、アクセスしやすい金融サービスを提供する企業の使命として遺言状作成の重要性を説き、責任ある財務上の判断を促している。
激しい競争も、今後発展が見込まれるアフリカ保険市場
こうしてPineappleが革新を目指す南アの保険市場は、大陸トップシェアだけに激しい競争を繰り広げつつ今後も発展が見込まれる。Blueweave Consulting のレポートによると、2023年から2029年までCAGR10.52%で急速成長を続け、2029年には現在の約2倍となる1000億万ドルに達するとの予想だ。
アフリカ全体で見ると、大陸は保険サービスが十分に浸透していないブルーオーシャン状態。世界人口の約18%を占めているにもかかわらず、保険サービス普及率はわずか2%だ。JETROのレポートによればアフリカ54カ国の総人口は2022年 14億820万人の人口から2030年には16億9009万人、2050年に24億6312万人に増加すると予測されている。
南アフリカだけでなく大陸全土、世界を舞台とした今後のPineappleの成長に期待したい。
参考:
Pineapple公式ホームページ
Pineapple Youtubeチャンネル
文・Gocha
アメリカ在住、エンジニア兼コンサルタント。アメリカ生活に関わることやその他記事に対する所感などをブログで公開中。
ウェブサイト: https://techable.jp/
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