【CEOインタビュー】NASAの研究から着想、振動で骨密度を改善するウェアラブルデバイス「Osteoboost」

骨密度が低下して骨がもろくなる病気、骨粗しょう症。高齢化の進む日本はいわば骨粗しょう症大国で、2022年発表の論文では患者数は約1600万人と報告されている。特に閉経後の女性で有病率が高く、患者数は男性の 2倍以上、60歳代女性では約5人に1人、70歳代では約3人に1人が骨粗しょう症といわれるほど。

女性に多い病気ということで、骨密度改善デバイス「Osteoboost」が2024年2月開催のFemtech Fes! 2024に出展された。開発企業はサンフランシスコに拠点を置くスタートアップ「Bone Health Technologies」(BHT)社。イベントのために来日した同社CEOのLaura Yecies氏に話を聞いた。

骨密度を改善させるウェアラブルデバイス「Osteoboost」。BHT公式サイトより引用

ベルトの振動で骨密度を改善、初のFDA認証デバイスに

――Osteoboostがどんな製品なのか聞かせていただけますか。

Yecies:日本は骨粗しょう症の有病率が各国平均の2倍以上と、世界で最も高い国ということをご存じでしょうか※1。ここ日本では、骨粗しょう症は非常に重要な問題です。アメリカでも大きな課題ですが、じつは治療法が現実にはほとんど存在しません。治療薬はありますが、副作用があるため服用する患者はわずか10%にとどまります。

また「骨減少症」に対する治療薬は存在しません。骨の健康状態には、順に健康な状態・骨減少症・骨粗しょう症の3段階があり、そのうち骨減少症は骨粗しょう症の4倍も多い病気なのですが、治療法がないのです。我が社のデバイスは、この骨減少症の段階向けに米国で初めて認可されたものです。

家事や散歩中に「ながら」で使用できるのが大きなメリット。BHT公式サイトより引用

――1日30分身に着けるだけで、治療しながら日常生活を送れるというのが便利ですね。

Yecies: このベルトは、機械的刺激(細胞などが体内で常に受け続ける刺激)を模した穏やかな振動を、骨折しやすい部位である股関節と腰椎に送り込みます。腰に巻いてスタートボタンを押せばすぐに振動が始まります。当社で行った臨床試験では、骨密度の減少度を80%以上も抑えたことが確認されました。この成果を踏まえて、初めてFDA(米国食品医薬品局)に認証された骨減少症デバイスになったんです。どうぞ、よかったら触ってみてください。

――マッサージ機みたいで気持ちいいです!

Osteoboostの本体。医療デバイスというよりウェストポーチのように見えるのがうれしい

Yecies:そう、マッサージに似ていますよね。正確な強さの振動と周波数で、装着していると気持ちいいんですよ。

宇宙飛行士も骨密度低下?NASAの研究から派生した技術

――Osteoboost開発の背景について教えてください。

Laura:まず、私の年代ではほとんどの人がそうであるように、私自身が骨減少症なので「自分ごと」であるという背景があります。それから、学生時代の夏季休暇に老人介護施設で働いたことがあるんです。そこで父が医局長を務めていたので。

その時、施設利用者たちの多くが股関節骨折に苦しんでいる様子を目の当たりにしました。祖母も骨粗しょう症だったので、この病気に関する知識が昔からあったんですね。非常に患者が多い病気であるにもかかわらず認可された治療法がほとんどないことも知っていました。ですから、2020年にBHT社から声がかかって創業チームと対面した時、自分にとって非常に大きなチャンスだ、「ぜひやりたい」と即座に考えたんです。

NASAが行った振動プラットフォームによる治療の様子。Chan et al., 2013. The potential benefits and inherent risks of vibration as a non-drug therapy for the prevention and treatment of osteoporosis. Curr Osteoporos Rep 11: p. 36-44.

Yecies:当社の創業者が※2が振動するベルトという着想を得たのは、NASAの研究と技術からです。長期間無重力空間で過ごす宇宙飛行士たちも骨密度に問題を抱えていたので、NASAが全身に与える振動の研究をしたのです。振動する床の上に立つという治療法で骨密度の改善が確認されたことから、それを日常生活でより利用しやすいベルトという形に落とし込み、誕生したのがOsteoboostでした。

骨密度アップだけでなく転倒防止が骨折回避のカギ

――骨粗しょう症有病率が世界最高ということは、日本は巨大なマーケットですよね。
Yecies:ええ。先ほども述べたように日本の有病率は世界平均の二倍で、50歳以上の人の20%以上が骨粗しょう症をわずらっています。当社にとって日本は非常にプライオリティが高く、米国とならんで重要視しているマーケットです。今回私が日本を訪れた目的の一つは、パートナー候補の企業と話し合いをするためです。日本の市場でこの製品を展開するうえで協働できる企業を検討したいと思っています。

――日本で入手できるようになるのはいつ頃でしょうか。

Yecies:それは部分的には日本当局の薬事承認いかんです。この製品は米国では認証済みですが、日本でも認証を取得する必要があります。米国での試験結果が日本でも認められるか、改めて試験の実施が求められるかによって所要期間が変わってくるでしょう。

――男性もかかる病気ですから、(ピルのように)何年も待たされるということはなさそうです。

Yecies:はい、日本でも迅速に承認されてほしいですね。女性の骨粗しょう症罹患率は男性の2倍ですが、確かに男性もかかる病気です。

――Osteoboostが日本で入手可能になるまで、日本人が生活の中で意識できることはありますか?

Yecies:股関節骨折を防ぐことが最も重要です。最大の骨折リスクは骨密度の低下ですが、直接の原因は転倒です。骨密度を改善しながら、転倒も防止する必要があります。

ではどうやって転倒を防ぐのか。まずは視力が大切です。視力検査を行って、白内障などがないか確認しましょう。よく見えないことで転倒が発生しますから。そして、自宅の環境を安全にすることです。滑りやすい敷物などは置かないこと、そしてお風呂場の床は滑りにくいものに。手すりも有効ですね。人はどういう状況で転倒しがちなのか、よく考えて防いでください。
※1:骨粗しょう症の有病率について日本26.3%、米国21%、ドイツ14.3%、フランス9.9%、イタリア9.7%、英国7.8%、インド6.3%、スペインおよびカナダ2.6%、オーストラリア2%と報告した研究がある。

数十年前までは「アジア諸国はカルシウム不足にもかかわらず欧米諸国に比べて骨折発生率が低い」というデータがあったが、ライフスタイルの欧米化などに伴いアジアにおける骨粗しょう症由来の骨折件数は増加傾向にある。日本では大腿骨近位部骨折の年間新規患者数が2020年に24万件、2030年には29万件に達すると推計されるなど、アメリカの股関節骨折による年間入院者数26~30万件に迫りつつあるのが現状だ。

※2:BHT社はShane Mangrum医学博士、Dan Burnett医学博士、Michael Jaasma博士により2018年に創業された。Shane Mangrum氏がOsteoboost技術の共同発明者。

BHT公式サイトより引用

Laura Yeciesさんプロフィール:Bone Health Technology社CEO、MBA、MSFS、起業家。Check Point、Netscape、Yahooなどで複数ブランドを主導。ハーバード大学ビジネススクールにてMBA、ジョージタウン大学の国際関係学部であるエドモンド A. ウォルシュ外交大学院(SFS)にてMSFS、ダートマス大学にてABを取得。医者一族に生まれ、ヘルスケアが身近な環境で育つ。SyncThink社(脳震とうを診断する頭部装着型のアイトラッキングデバイス「EYE-SYNC」を開発)社CEOやAkili Interactive社(希少疾患のゲノム解析向けの最先端の AI ソフトウェアなどFDA認証のデジタル治療技術を開発)相談役など、ヘルスケア分野での実績多数。他にCatch (Appleに売却)、 SugarSync (J2に売却)のCEOを経験した。

引用元:Bone Health Technologies

(取材/文・Techable編集部)

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