オタク×短歌は相性◎ プロが「必ずうまくなる」と太鼓判をおす”推し短歌”のすすめ

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オタク×短歌は相性◎ プロが「必ずうまくなる」と太鼓判をおす”推し短歌”のすすめ

 オタクの皆さん、日々の”推し活”を楽しんでいますか? 推しがX(旧:Twitter)に近況をポストすれば即座にリポスト・いいねを押し、推しが新曲を出すと聞けば配信リリースされるのをパソコン前で待機、イベントのチケット抽選で一喜一憂するのは一種の恒例行事みたいなものですね(※個人的見解です)。

 そうした推しへの熱い思いを持つオタクは「短歌が必ずうまくなります。必ずです。私が保証します」と断言するのは、歌人の榊原 紘さん。その思いから榊原さんは著書『推し短歌入門』を出版しました。

「一字や一単語で大騒ぎすることができ、『推し』が笑ったり、あるいは黙り込んだりするだけで心が震えるその感受性で……短歌をやってみませんか?」(同書より)

 榊原さん自身も漫画やゲームが大好きなオタクの一人。生まれて初めて読んだ漫画は井上雄彦先生の『SLAM DUNK』で、フルタイムで働きながらゲーム『逆転裁判』を1日8時間連日プレイして左半身が痺れ、1日9時間かけてアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』を一気見して涙を拭った左手の甲が荒れたという猛者です。

 もちろん歌人としても素晴らしい人物で、連作『悪友』で第二回笹井宏之賞大賞を、連作『生前』で第三十一回歌壇賞次席を受賞しており、歌歴は10年を超えています。

 そんな榊原さんが「必ずうまくなる」と太鼓判をおすのだから、オタクとしては「ちょっと挑戦してみようかな」とその気になってきます。ただし榊原さんは「無理に短歌を作らなくてもいい」とも。

「何かを成し遂げるときに、そこに『愛』を見ると危ないことがあります。『○○が好き。この気持ちをエネルギーにして頑張るぞ』と自分で思っているだけだったらまだよいのですが、『好きだったら△△できるはずだ』『~しない人は愛が足りない』……。そういうことを自分や他人に向け始めると、うまくいきませんし、されたほうもいい気持ちではありません」(同書より)

 推しに感動したときや心を動かされたとき、「何かしたいけど絵も描けないし小説も書けない、何をすればいいのか分からない!」と嘆くオタクがいるのなら、榊原さんは「『何か』の選択肢の中に短歌を入れてみてはどうですか?」とあくまで提案しているのです。

 ここまで読んで推し活として短歌を楽しんでみたいと思った人は、ぜひ短歌を作ってみましょう! といっても何をすればよいのやら……となってしまうと思うので、同書で学んでいきます。

 同書では短歌の作り方を丁寧に解説。それぞれ「難易度」が表示されているのでゲームのように読み進めることができます。榊原さんは「読むゲームだと思ってください」とワクワクするような言葉を使用。ところどころに、書いてあることがまとめられた「セーブポイント」もあり、「オタク心をよく分かっている……!」と感心してしまいます。

 ここでは同書のチュートリアルの内容を一部紹介。

「ではいきなりですが、短歌を作ってみましょう(中略)皆さんは、推しのどこがいいと思いますか? 『全て』というのはナシです。いや、『全て』いいのかもしれませんが……。
たとえば、『推しの瞳が綺麗』という感情から短歌を作ってみます」(同書より)

 推しの瞳は何色? どんなイメージ? キリッとつり上がっている? それともタレ目? 自分にどんどんと問いかけてみてください。

 一例として榊原さん自身が推しをイメージして作った短歌を紹介。『ハイキュー!!』の登場人物である梟谷学園の主将兼エース・木兎光太郎(ぼくと・こうたろう)を表現した歌です。

木兎光太郎
 君の眼が初めて熾す火のようでビブスの裾をかたく絞った

(榊原紘『悪友』より)

 榊原さんはこの歌ができたときの思考の流れを3つのポイントに分けて以下のように解説しています。

1、「木兎さん尊(とうて)え~~~~!!!」という気持ちの発露
2、「何が尊いか? どう尊いか?」を考える
3、「木兎さんの目はどのようだ、と言えば、それが伝わるか?」を考える(同書より)

 こうしたポイントから、榊原さんは木兎の「情熱的なイメージ」を掘り下げて少しずつ歌を作り上げていきました。その中で、なぜ「目」を「眼」と表記したのか、なぜ「燃やす」ではなく「熾す」という漢字を使用したのか、などが詳しく解説されています。

 そうして推しについて深く考える時間が短歌をより豊かなものにしていくのだと同書は教えてくれます。たとえ短歌が上手に作れなくても、自分なりに推しを掘り下げて愛でた時間はプライスレス。何事も楽しくいきましょう。

 同書では推しをフックに作った短歌がどのように作り上げられていったのかが分かりやすく解説されていて、「そこ解釈一致だわ!」、「そういう尊さも確かにある……!」と思わず声をあげたくなります。

 また、”推し活”に対する榊原さんのスタンスとして「『推す』ことを無邪気に推奨することは私にはできない」と書かれたコラム「『推す』ことについて」は、いちオタクとして考えさせられるものがあります。

 短歌を作る・作らないにかかわらず、読んでいてとっても楽しい同書。興味がわいた方は読んでみてはいかがでしょうか。

[文・春夏冬つかさ]

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