自然素材でつくったタイニーハウスは氷点下でも超ぽかぽか! 羊毛・ミツロウ紙などで断熱効果抜群、宿泊体験してみた 「CORONTE(コロンテ)」北海道仁木町
リンゴやブドウ、サクランボなど果樹栽培が盛んなまち北海道仁木町に、ほぼ自然素材だけで建てられた「CORONTE(コロンテ)」という一棟貸しの小さなコテージが2023年夏に誕生した。企画設計したのは、木こりとして森で自ら木を切り出し、それを素材にした建築を手がけてきた陣内雄(じんのうち・たけし)さん。「動物が巣にする素材でつくる家は文句なく心地よい」と言い、みんながそれを体験できる場をつくりたかったのだという。今回筆者は、真冬に森の中のコテージで一泊。陣内さんの言葉に大きく頷く体験をリポートしたい。
木こりが建築に関わったら、木材はもっと自由に活用できる
無垢の木、羊毛、もみ殻石灰、ミツロウ紙、漆喰といった自然素材で建てられたタイニーコテージ「CORONTE」。
筆者は、このコテージのオープンを心待ちにしていた。
実は10年くらい前から、近年その名を知られてきた「化学物質過敏症」の症状があり、香りのある洗剤や柔軟剤に触れると頭痛がしたり、ホームセンターなどで合板などの売り場に長時間いると喉が痛くなったり。多くの人は感じにくい程度の化学物質で日々苦しんでいるので、自然素材をふんだんに使った家で過ごしたら、自分の体にどんな変化が起こるのだろうかと興味を持っていた。
森の中の斜面に張り出すように建てられている(撮影/久保ヒデキ)
(撮影/久保ヒデキ)
「CORONTE」を企画設計したのは札幌市出身の陣内雄さん。高校2年生で建築家になることを志し、東京藝術大学の建築科に入学。在学中から設計事務所で働いていたが「まわりは人工物ばかりで、もうこれ以上、建築はいらないんじゃないか」という疑問が頭をもたげたという。
同時に、高校生のころに地球温暖化に関する小さな記事を新聞で見つけ、それに大きなショックを受けており、次第に森や自然環境へと関心が向くようになった。作家であり環境保護活動家であるC. W. ニコルさんの本を読み漁り、ニコルさんが所有する森を実際に訪ね、林業に目覚めた。1992年に北海道に戻り、森林組合で林業の作業員として働くことにした。
陣内さんは1966年生まれ。木こりや建築とともに音楽活動も行い『北の国へゆこう』などのCDも発売(撮影/久保ヒデキ)
森林組合で林業に従事する中で、効率を優先して重機で木をすべて伐採してしまう現場を多く経験する中で、木をできるだけ切らずに森を守りつつ整備を行いたいという思いが芽生えた。
単なる林業作業員ではなく、森に寄り添う「木こり」として活動を模索しつつ、家を建てることもいつも傍にあった。
1996年には下川町の山の中に藁ブロック構造の「ストローベイルハウス」を仲間と建て、その経験を活かして、2006年には伝統工法に「ワラの断熱と土の気密と蓄熱を合わせたらどうか?」と考えて旭川に自宅を建てた。
大まかな構造は工務店に依頼。土壁は仲間を募って自分たちの手で仕上げた。
木こりの活動と建築が一本の線になったのは2019年。
その4年前には、林業会社に属さずフリーランスの木こりとして山主から整備の依頼を直接受けたり、仲間の木こりと仕事をシェアしたりしながら、各地の山に赴いた。
整備の中で行われる間伐。木と木の間が混み合っていると成長が妨げられることから、一定の時期が来たら間隔をあけるために一部の木を伐採する。間伐材は成長途上であり、時には曲がって太い枝だらけのものもある。それらの多くはパルプ(※)の原料となってしまうが、「こうした木でも立派な構造になるのではないか」と陣内さんは考えていた。
※パルプ:木の繊維を分離させた植物繊維。主に紙の原料になる
林業のプレイヤーを増やしたいと「森と街のがっこう」という活動も続けている。各地の山で実際に研修を行っている(提供/CORONTE)
そこで「キコリビルダーズ」を立ち上げ、自ら伐採した木を使って本格的に建物を手がけるようになった。
これまでに下川町にある「jojoni パン工房」や弟子屈町に「キコリキャビン」と名付けたアルファベットのAの形の住宅を建てた。
「キコリキャビンの骨組みには、間伐したカラマツを使っています。間伐材も丸太に近い状態で使えば、ねじれが起こりにくく強度も出ます」
カラマツの間伐材を構造に使ったキコリキャビン(撮影/Tetsuro Moriguchi)
梁にはあえてカーブのあるカラマツを使った。「しなりがある方が構造として強い」と陣内さん(撮影/Tetsuro Moriguchi)
一般的な住宅では、集成材(複数の板を結合させ人工的につくられた木材)を柱や梁に使い、壁や床には合板が利用されるケースも多いが、陣内さんは無垢材や自然素材を積極的に取り入れてきた。
しかしこれまではコストや手間の問題もあり、部分的に合板なども使用しており、いずれはすべて自然素材で「やり切りたい」という思いが募り、宿泊施設をつくろうと思い立った。
「CORONTE」のイメージスケッチ(提供/CORONTE)
真冬の北海道、自然素材でどこまで断熱できる?
筆者が「CORONTE」を訪ねたのは12月中旬。冷え込みが厳しくなり朝晩はマイナス5度ほど。
「CORONTE」の案内には「Wi-Fiはありません。携帯電話の電波が2本くらい立つポイントがあります」と書いてあり、また暖房も薪ストーブのみということで、キャンプなどに興味のない自分が、たった一人で一夜を過ごせるのだろうかと、行く前には不安がいっぱいだった。
鳥のような目線で景色を見てほしいと、居住空間は高いデッキの上に。階段を上がるとデッキがありコテージの入り口がある(撮影/久保ヒデキ)
背面から見ると屋根の構造がよくわかる。屋根裏が少し突き出したようになっていて、窓から森の景色が楽しめる(撮影/久保ヒデキ)
部屋に入ってみると、とても暖かかった。
19平米ほど(ロフト含む)とコンパクトなこともあり、小型の薪ストーブ1台で室内はすぐに暖まることがわかった。
ソファーベッドが置かれたリビング。漆喰とカラマツの板が内壁に使われている(撮影/來嶋路子)
小さな薪ストーブだが、火をつけるとすぐに室内は暖まる(撮影/久保ヒデキ)
奥にキッチンとトイレ、シャワールームがある。ロフトに2つベッドが設置されている(撮影/來嶋路子)
今回断熱に使ったのは、羊毛、もみ殻石灰。
屋根の曲面部分には羊毛、壁はもみ殻石灰と杉皮ボードで断熱。内壁は、漆喰とシラカバの板を使った。これらの自然素材は調湿、蓄熱にもすぐれ、冬は暖かいのだという。
また厚めに仕上げた漆喰は、蓄冷効果もあり、夏には夜の冷気を窓から取り込んで、温度が下がったらドアを閉めておくと日中も涼しく過ごせるそうだ。
ホウ酸処理した羊毛を屋根の断熱に使用(提供/CORONTE)
自然には直線は存在しない。木のカーブをそのまま活かして
今回、設計にもこだわり、直線がほとんどない小屋となった。
当初、柱や梁、屋根の構造は直線だったそうだが「自然界には直線はほぼないこと」「風景に調和すること」「木のそのままの曲がりを活かすこと」を考えて、縦長のドーム状となった。
床板も幅の違うシラカバをまるでパズルのように組み合わせた。コロンとした形状からCORONTEと名付けられたという。
生木を製材し張っていった。「生木のうちならしなやかさがあるからカーブがつくれます」(提供/CORONTE)
床板に使ったシラカバ。カーブをパズルのように組み合わせていった(提供/CORONTE)
また、今回は住宅ではなく宿泊施設であることから、積極的に実験も取り入れたという。モミの木のような形状のヨーロッパトウヒも建材として利用。
「この木は、どんなに太くてまっすぐでも、軽くて弱いということで、ほとんど紙の原料となるパルプ材になってしまいます。でも、使い方によっては合板の代わりになるのではと思いました」
製材して板にし、それを15度の角度で組み、一層目とクロスするように二層目も15度の角度をつけて組んだ。
また、同じく材が柔らかいため建材には使われないドロノキをトイレとシャワールームの引き戸に活用。
「ドロノキの使い道に困っている木こり仲間がいたので、どうやったら建材に応用できるか考えてみようと思いました」
旭川にある作業場で構造をつくった。ヨーロッパトウヒの板を15度の角度で組んでいく(提供/CORONTE)
旭川から仁木町へコテージを運びクレーンで吊り上げ設置した(提供/CORONTE)
ドロノキでつくった引き戸。木目に風合いが感じられる(撮影/久保ヒデキ)
今回使った木材の中には、陣内さんが切り出し、それをため池に半年間つけ、じっくりと乾燥させたものもある。木材を乾燥機に入れて乾かす方法もあるが、水中乾燥すると時間はかかるが、反りや割れなどを防ぐ効果が高いという。
「昔ながらの木材の乾燥方法です。しっとりした風合いがあって、色つや香りがよいです」
昔はどこでも木材を何年も水中で貯木してから製材していたという。山里の農村には開拓時代につくられたため池があって、現在は使われていないため、それを活用しようと思った。また、そこにある木材だけでなく、土や藁などその場で手に入る素材で家をつくるということも当たり前に行われていた。
接着剤などを使わずにタイルを仕上げてくれる職人を探すのに苦労したという。カウンターのカラマツも、水につけた丸太を製材して、きれいな赤味が出た(撮影/久保ヒデキ)
さらに紹介しきれないくらい、さまざまな挑戦がある。
鳥の目線のような風景を味わってもらいたいとあえて傾斜地に建てた。
また、そこにあったミズナラの木を切らないで、デッキから突き出るような構造とした。
手間がかかる作業ばかりだが、それが雇用にもつながると陣内さんは考えている。
「職人さんたちは、手間がかかって大変だと口々に言うけれど、自然の中で作業をすることで、みんなとても明るい表情になっています。現在の建築は効率重視で手間になることを極力避けるけれど、気持ちを込めて丁寧に仕事ができるし、技術も継承できる。それに自然素材なのでほとんどゴミも出ないのも良い点だと思います」
パートナーの澤野雅子さんがコテージをどこに設置するか決めた。傾斜地に建てるのは手間だが景観は素晴らしいとトライすることに(撮影/久保ヒデキ)
デッキの構造部分。丸太を組み合わせ、木が枝を伸ばしているような景観をつくりたかったのだそう(撮影/久保ヒデキ)
デッキを突き抜けてミズナラが生えている。夏には青々とした葉をつける(撮影/久保ヒデキ)
当初の計画で総予算は700万円ほどだったという。
しかし、柱や壁を曲線でつくることに方向転換したことなど予想を超える手間がかかり、1000万円以上かかったという。
「コストはかかりましたが、自然素材の家ならメンテナンスをしっかりしていけば200年、300年と使い続けられます。こうしたスパンで考えたら、決して高価なものじゃないと僕は思います」
電気はバッテリーを使用。宿泊者が来ると充電しておく。建設現場でも使えると考えこの方法にした。水は地域で使われている井戸水を使用。トイレは微生物の働きによって排泄物を分解・処理するバイオトイレを設置。インフラもオフグリッドにこだわる(撮影/久保ヒデキ)
コテージの周りの森を整備。道をつけた(提供/CORONTE)
裏の森に入っていくとウッドデッキが現れた。まちで林業に興味がある仲間と丸太を組んでいったという(撮影/久保ヒデキ)
山と海を守りながら、みんなが暮らすことができたら
「CORONTE」は陣内さんにとってゴールではなく始まり。
この建物が建っているのは、あさひの杜の敷地。あさひの杜は、朝日こうじさん、ゆかりさん一家が、山の中で畑を耕し、犬、猫、鶏、馬、カメなど動物たちと暮らす場所。
「子どもたちが豊かな自然の中でのびのびと夢を思い描ける世界をつくること」を目標にイベントを開いたり、子どもが集う場をつくっている。
朝日さんが陣内さんの活動に共感したことから「CORONTE」がこの場に建った。ここを拠点にしつつ、陣内さんは仁木町一帯で「ずっとみんなの森」というプロジェクトを始めようとしている。
「山の木をすべて切り倒す『皆伐』をしなくても山を守り続けながらみんなが暮らすことができたらと考えています。山を守ることは海を守り、人の暮らしも豊かになります」
ずっとみんなの森プロジェクト、イメージスケッチ(提供/ずっとみんなの森プロジェクト)
介護付きコテージがあったり、子どもたちが遊ぶ森があったり。多世代が集い、仕事にもつながる森をつくりたいのだという。イメージスケッチを描き、このプロジェクトに関心を持ってもらう人を増やそうと秋には仁木町で説明会を行った。
コテージの近くにあったカラマツ林があるとき伐採されてしまった。植林した木は伐採の時期になると、大抵の場合すべてを切る「皆伐」が行われる。陣内さんは、「皆伐」ではなく木々を守りながら森を活用する方法を考えている(撮影/久保ヒデキ)
陣内さんからさまざまな話を聞いた後、薪ストーブの使い方のレクチャーを受け、筆者は一人で「CORONTE」に宿泊した。
雪が音もなく降り積もる中、夜9時、薪をストーブにたくさん焚べ、熾火(おきび。薪が炭になり炎を上げず芯の部分が真っ赤に燃えている状態)になったのを確認してからロフトで眠った。
明け方4時くらいにいったん目が覚めた。薪ストーブの火は完全に消えていたが、部屋はまだほんのり暖かく、掛け布団一枚でも心地よかった(おそらく15度くらい)。
明け方まどろみながら、自分がいつもより一段深く呼吸ができ、肩や首の凝りがゆっくりとほぐれていくように感じられた。
手を伸ばすと漆喰壁があり、壁も暖かさを保っている。
触っていると、まるで卵の中で守られているような安堵感があった。
ベッドが置かれたロフト。天井に手が届く場所だが、むしろ何かに包まれているようで心地よかった(撮影/久保ヒデキ)
窓からは木々が見えた。森と一体になったような感覚が味わえる(撮影/久保ヒデキ)
「自然素材の家は文句なく気持ちいい」
陣内さんはいつも語っていたが、それは本当のことだった。
朝起きて薪ストーブに火を灯し、その上にケトルを乗せて、手回しのミルでコーヒーを挽いた。
お湯が沸くまで、雪がゆっくりと降り落ちる窓の景色に見惚れていた。
それだけなのに、この満ち足りた気持ちはどこからわいてくるのだろう。
心の底からリラックスして、ただただ時間が過ぎていくのを楽しんだ。
窓から見える森の景色(撮影/來嶋路子)
この素晴らしい体験を、言葉でとても言い表せないのが何とも悔しい。
筆者は化学物質に触れていると、何らかの違和感があるので、この場にいて救われたような思いがした。
コテージというより、ここは自分にとってのシェルターであると感じた。みなさんも一度泊まっていただけたら、その気持ちよさを感じられるのではないかと思う。冬季は試験運用中。来春の本格オープンを楽しみにしていただきたい。
●取材協力
Tiny cottage「CORONTE」
北海道余市郡仁木町東町
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