日本はスパイ天国だった… ドラマ『VIVANT』公安監修が語る、日本のスパイの実情や課題
2023年7月16日から放送されていた日曜劇場『VIVANT』(TBS系)を観ていた方のなかには、本当に「別班」(自衛隊の秘密組織)が存在しているか気になった方もいるだろう。身近にスパイが潜んでいるのではないかと、不安になった方もいるかもしれない。
今回ご紹介する『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』(実業之日本社)は、『VIVANT』で公安監修をおこなっていた勝丸円覚氏の著作だ。勝丸氏は同書を執筆するきっかけとして「日本のスパイ対策に問題点が多い」ことを挙げている。実際に警視庁公安部外事課に所属し、多くの現場に立ってきた勝丸氏が語るエピソードは興味深い。
今の日本には、きちんとした対外情報機関が存在しない。そのため、世界からは「スパイ天国」と呼ばれるほどだという。しかし、国外からのスパイに対して何もせずにいるわけではない。限られた権限のなかで、公安警察や公安調査庁が防諜活動をおこなっているのだ。
「あまり知られていないが、日本の公安警察の実力は、世界的にも評価が高い。
(中略)
FBI捜査官に、このスパイ事件の公開できる捜査資料を見せて解説した。地道な捜査の積み重ねと、逮捕現場となったレストランを特定して店内の客をほぼすべて私服警察官にしていたことを伝えると、FBI捜査官は日本の尾行技術や監視技術に舌を巻いていた」(同書より)
映画やドラマでは、組織に侵入して捜査をおこなう捜査員の姿が描かれるケースがある。しかし、費用対効果や危険性を考えると効果的ではないとして、現在ではおこなわれていないそうだ。代わりに、スパイが立ち寄りそうな場所に滞在し続け、疑われないよう監視をする。
「私は実際に、街で『看板持ち』をして監視を行ったこともあるし、駅の近くにある釣り堀の前で早朝に開店を待っているような素振りでクーラーボックスに座り、『釣り人』を装ってスパイの動きを見ていたことがある」(同書より)
ドラマなどで宅配業者などに変装する捜査員が描かれることがあるが、完全な創作というわけではないのだ。
では、スパイはどのようにして任務をおこなっているのだろうか。国によってやり方は異なるそうだが、ピンポイントで情報を狙う場合もあれば、網を広げておいて引っかかった情報をすべてすくい上げる方法もあるという。さらには、自国にとって不利な情報が日本で発信されると、それをトーンダウンさせるための工作をおこなう場合もあるそうだ。
また、自国からスパイを送り込む場合もあれば、現地で協力者を増やす場合もある。そのため、日本国内にいるスパイの数を正確に算出するのは難しい。
「なぜなら、スパイというのは、スパイ行為をしている人のことを指すのか、それに協力している人を指すのか、あるいは、知らず知らずに協力している人を指すのか、またそのすべてのことをいうのかによって定義が変わってくるからだ」(同書より)
中国では、日本への留学生がスパイ要員になる。また、日本で俳優をしているロシア人スパイもいたという。日本ではまだ確認されていないそうだが、画家にはスパイが多いという説もある。画家なら、海辺で発電所などを描いていても怪しまれないからだ。
対外情報機関がなく、スパイ活動防止法といった法律のない日本は、スパイにとって活動しやすい国だ。最前線で戦っている外事警察が奮闘しても、人員にも予算にも限りがある以上、対応しきれないケースも少なくない。
日本で対外情報機関やスパイ防止法が作られない理由として、勝丸氏は「国民感情がついてきていないからだ」と語る。
「本書ではそのほかの問題点も取り上げ、日本が対峙している外国人スパイの実態を紹介し、脅威についても触れていく。それが、日本がこれからスパイにどう対処していくべきかを考えるきっかけになれば幸いである」(同書より)
2020年には、皇居内にある資料室を訪れた中国人男性が宮内庁庁舎に侵入するという事件も起こった。庁舎内の食堂で昼食を食べるなど、拘束されるまでに1時間ほど自由に歩き回っていたという。また、この男性はスパイ活動をしている中国人外交官の協力者の可能性があるとして、公安警察にマークされていた人物だということも判明している。
そのほかにも、2002年の日韓ワールドカップ開催前後に爆破テロが計画されていた。幸いにも2001年に犯行グループは逮捕されたが、当時はパニックが起きないよう情報が伏せられたという。その後2004年にスペインで起きた爆破テロは、日本で果たせなかったテロをスペインでおこなったのではないか、と見られている。
今の日本は平和だが、多くの人が知らないところで常に危険に晒されているのだ。ドラマや映画の世界の話ではなく、現実に他国のスパイは日本のそこかしこに潜んでいる。どのような手段で情報収集をおこなうのか、協力者を増やすのか、知っておくことが自分の身を守ることに繋がるだろう。
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