【レビュー】忌野清志郎がブッカー・T&ザ・MG’sと創り上げた “夢のような” ライヴ作品『HAVE MERCY!』

【レビュー】忌野清志郎がブッカー・T&ザ・MG’sと創り上げた “夢のような” ライヴ作品『HAVE MERCY!』

忌野清志郎のソロアルバム『Memphis』とライヴアルバム『HAVE MERCY!』が2023年12月13日(水)に初アナログLPで同時発売されました。

ライヴアルバム『HAVE MERCY!』は、『Memphis』発表を受けて行われた全国ツアー「忌野清志郎 with Booker T. & The M.G.’s Tour 1992」から、4月18日の日本武道館公演を収録した作品。3月に『Memphis』発売、4月に全国9箇所のツアー、6月にライヴアルバムを発売という異例のスピード感から、清志郎が多大な影響を受けたブッカー・T&ザ・MG’s ( BOOKER T. & THE MG’S)と活動するこのプロジェクトへのテンションの高さが伺えます。

今回のアナログ盤では、オリジナルCDには収録されなかった楽曲も加えた3枚の180g重量盤LPで、ライヴの模様を臨場感たっぷりに収録しています。SIDE Aはブッカー・T&ザ・MG’sの演奏からスタートします。ブッカー・Tのオルガンからおもむろに「GREEN ONIONS」が始まると、武道館は物凄い大歓声に包まれます。当日は筆者も会場にいたのですが、清志郎のライブはもちろん、大会場でブッカー・T&ザ・MG’sの演奏を生で観れること、聴けることを楽しみにしていた音楽ファンも多いことに、その大歓声を聴いて思い知った次第です。そんな期待に応えるべく、彼らは「Hip Hug Her」、「Time Is Tight」と有名曲を次々と繰り出します。圧巻なのが、終盤のメドレー「Hold On, I’m Comin’〜Knock On Wood〜Last Night」です。会場では、「Hold On, I’m Comin’」のイントロが鳴ったとき、「もしかして清志郎が出てきて歌うのでは?」と思った記憶があります。それは思い違いだったものの、「主役は俺たち」と言わんばかりに風格たっぷりに聴かせるタイトで弾むような演奏は、今回のアナログ化でさらに生々しくダイナミックに、ライヴの興奮を甦らせています。

【レビュー】忌野清志郎がブッカー・T&ザ・MG’sと創り上げた “夢のような” ライヴ作品『HAVE MERCY!』

SIDE Bでは「キヨシロー!」と呼びこまれて、清志郎が「BOYS」で登場します。「ボーイズ!武道館ガールズ!」と煽る清志郎ですが、次の「カモナ・ベイビー」へ行く際には「スティーブさん、よろしくお願いします」と謙虚なひと言でスティーブ・クロッパーに指示を出して、客席を和ませます。そんな、音楽少年が夢を叶えた瞬間の微笑ましさも感じ取れるのがこのアルバムの素敵なところではないでしょうか。ちなみに「カモナ・ベイビー」はグイグイと突き進むブギーに乗った清志郎の歌声も興奮気味で最高にカッコイイです。そして、名曲「雪どけ」が早くも飛び出して、極上の演奏と歌が空気を震わせます。エンディングでオフマイクになって消えていく声もとてもクリアに聴こえます。

SIDE Cでは、「夢のようだぜ~!」とのMCから、「LIKE A DREAM」が歌われます。当時未発表だったこの曲ですが、「夢が叶った」この日のライヴを象徴するこの曲は、2008年の『忌野清志郎 完全復活祭 日本武道館』の最後に歌われたことで、ファンにとっては特別な1曲になりました。後に『Baby #1』に収録されたことで曲の初出が1989年のLA録音であることがわかりましたが、それは清志郎が旅立った後の話。SIDE Dでは、「ぼくの目は猫の目」「世間知らず」「高齢化社会」と、CD未収録曲が多く含まれています。聴きどころは、フォーキーなサウンドで内省的な“ぼく”が歌う「世間知らず」から、 “なんの価値もねぇ 俺は欲しくねぇ”と歌う「Stormy Monday」調のブルース「彼女の笑顔」と続く流れです。まさに忌野清志郎そのものという感じの2曲にピタリと寄り添うブッカー・T&ザ・MG’sの演奏に支えられた歌声、メッセージが胸に突き刺さります。

【レビュー】忌野清志郎がブッカー・T&ザ・MG’sと創り上げた “夢のような” ライヴ作品『HAVE MERCY!』

ライヴが佳境に入るSIDE Dでは「つ・き・あ・い・た・い」「トランジスタ・ラジオ」とRCサクセションナンバーが続きます。同じ曲でも、バンドが違うとここまで雰囲気が違うのかというぐらい、ブッカー・T&ザ・MG’sの味になっているのが面白く感じられます。アンコールのSIDE Fではブッカー・Tと2人で演奏される「カラスの赤ちゃん」を歌い上げると、英詞の「IN THE MIDNIGHT HOUR」、らしさ全開のユニークな日本語詞で歌う「SHAKE」とR&Bの名曲が続きます。最後に歌われるのはオーティス・レディングの「(SITTIN’ ON) THE DOCK OF THE BAY」。清志郎の歌はもちろん、スティーブ、ブッカー・Tの歌声も聴くことができます。「ご一緒に」と、アウトロの口笛で合唱を促す清志郎。メンバーを1人ずつ紹介して、ライヴは幕を下ろします。

ソウルミュージックの歴史を作ったミュージシャンたちとの共演ライヴは、後にも先にもないとてつもない偉業ではないでしょうか。このライヴアルバムには、本物の音楽の感動と興奮、清志郎が私たちに分けてくれた夢のような時間が濃密に詰め込まれています。3枚組の大ボリュームですが、ぜひ全編を通して聴いてみてください。

文:岡本貴之

【レビュー】忌野清志郎がブッカー・T&ザ・MG’sと創り上げた “夢のような” ライヴ作品『HAVE MERCY!』

リリース情報

『Memphis』
初回生産限定/初LP化/180g重量盤/写真集付属
プロデューサー:Steve Cropper
カッティング:Ryan Smith(Sterling Sound)
発売日:2023年12月13日(水)
仕様:1LP 180g重量盤 ゲイトフォールド・ジャケット
価格:定価¥5,940(本体価格¥5,400 税率10%)
品番:UPJY-9363
<収録曲>
SIDE A
Boys
雪どけ
カモナ・ベイビー
世間知らず
高齢化社会
SIDE B
ママ・プリーズ・カムバック
石井さん
ぼくの目は猫の目
ラッキー・ボーイ
彼女の笑顔
MTN

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リリース情報

『HAVE MERCY!』
初回生産限定/初LP化/180g重量盤3LP/ツアーパンフ付属
プロデューサー:Steve Cropper
リマスター:Greg Calbi(Sterling Sound)
カッティング:Ryan Smith(Sterling Sound)
発売日:2023年12月13日(水)
仕様:3LP 180g重量盤 3LP観音開き・ジャケット
価格:定価¥15,400(本体価格¥14,000 税率10%)
品番:UPJY-9364
<収録曲>
SIDE A
Green Onions / BOOKER T. & THE MG’S
Hip Hug Her / BOOKER T. & THE MG’S ※初収録
Time Is Tight / BOOKER T. & THE MG’S ※初収録
メドレー Hold On〜Knock On Wood〜Last Night / BOOKER T. & THE MG’S+MEMPHIS HORNS, JIM HORN
SIDE B
BOYS
カモナ・ベイビー
ラッキー・ボーイ ※初収録
雪どけ
SIDE C
ママ プリーズ カムバック
石井さん※初収録
LIKE A DREAM
ペテン師
SIDE D
ぼくの目は猫の目 ※初収録
世間知らず ※初収録
彼女の笑顔
高齢化社会 ※初収録
SIDE E
つ・き・あ・い・た・い
トランジスタ・ラジオ
MTN
SIDE F
カラスの赤ちゃん
IN THE MIDNIGHT HOUR
SHAKE
(SITTIN’ ON) THE DOCK OF THE BAY

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インフォメーション

●Universal Music Store
https://store.universal-music.co.jp/artist/imawano-kiyoshiro/

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