賃貸の大家、高齢者や外国人などの入居「大変だけどやりがいもある」。トラブル回避や対策はどうしてる?
高齢者やひとり親世帯、外国人など、住宅確保に配慮が必要な人の賃貸物件への入居受け入れ。多くの賃貸物件のオーナーが気になるのは、その実情でしょう。前編「賃貸の大家、”孤独死””勝手に民泊”などへのホンネ。『不安はある』が受け入れる理由『誰でも自由に住む家を選べる社会に』」では受け入れの際の心構えや受け入れを決めるポイント、トラブルについてオーナー3名に話を聞き、賃貸トラブル解決のパイオニア的存在であるOAG司法書士法人代表の太田垣章子さんの見解も交えながらお届けしました。後編では、トラブルを減らすための工夫や、周辺関係者との連携などの実例について迫っていきます。
参加オーナー:
・Oさん: 40代男性、兼業オーナー。親が所有する木造アパート18室を管理している。
・Kさん: 50代女性、兼業オーナー。相続で先代から管理物件を受け継いだ。RC(鉄筋コンクリート造)2棟、区分所有住戸1件、合計35室を所有 。
・Mさん:50代女性、専業オーナー。木造アパート2棟10室、一戸建て8軒、区分所有住戸2件を所有。
※3名とも、築40年~50年ほどの築古物件を中心に所有。大家の会などに参加し、不動産管理の勉強をしている。
トラブルにはどう対応する? オーナー3名の工夫
――前編では入居に配慮が必要な人を受け入れた後に、経験した問題について伺いました。実際にトラブルが起こらないようにどんな工夫をされていますか?
Oさん 家賃滞納などを防ぐために、家賃保証会社の活用は必須です。私は、平日は地方公務員として仕事をしているため、基本的に入居している方とのやりとりは管理会社を通しています。
――皆さん家賃保証会社の利用がマストなのでしょうか?
Kさん 最近は賃貸借契約全般で連帯保証人をつけないことの方が一般的で、家賃保証会社を利用する傾向にありますね。少子化で親戚も少なくなる中、どなたであっても連帯保証人を確保するのが難しいという事情もあります。
Oさん しかし、家賃保証会社を利用したからといって、それだけでは解決しないことも。先日、排水管清掃を行ったんですが、その際に何年かぶりに入居者全員にあいさつをしたんです。「ご迷惑かけます」と、商品券を持ちながら全員の家に回って。その際に高齢の入居者とも話ができて私も楽しかったし、問題なく暮らしている様子にホッとしました。顔を合わせて話すことでトラブルを未然に防ぐことができるかもしれないと気付き、今後もこのような直接のコミュニケーションを継続する予定です。また、高齢の方が入居される際にはセンサーや監視カメラ、遠隔制御などといったIoT機器の導入も検討したいと考えています。
Mさん すばらしいですね。私は入居者のアンテナ不法設置事件があって以降(前編の記事参照)、自主管理をしている物件は、入居を希望する方と必ず電話面談を行うようになりました。
Mさんは自主管理している物件に入居を希望する人には、必ず電話面談を行うようにしていると言う(画像/PIXTA )
Kさん 私は本来ならば管理会社に入居審査を含めてすべてお任せしているサブリース物件でも、管理会社を通じて入居申込書をしっかり取得し、気になることがあれば「これまではどんなところに住んでいたのか」や「連絡を取れる人がいるか」などを尋ねることもあります。申込書の内容だけだと、入居者の個別事情を把握できず、家賃を払い続けられるのかどうかや万一のときにどうすればいいかなど、わからないことが多いからです。入居する方が今後、困りごとや悩みごとがあった際に、私たちも対応やコミュニケーションが取れるように、把握しておきたいのです。例えば日本に頼る人が作りにくい外国籍の方にはお勤めの企業を伺うことも。ちゃんと生計が立てられるかどうかという点がポイントで、国籍は関係ありません。また居住登録した人以外に住まれないよう、入居時に禁止事項についての条件確認をして書面に署名をもらうようにしています。
不動産会社や行政のサポートは期待できる?
――みなさん、自主的にトラブルを未然に防ぐ対策を講じていますね。
Mさん 入居者から「聞いていません」「知りませんでした」と言われないように、オーナーがあらためてきちんと入居条件を話すようにしています。
――仲介会社や管理会社、保証会社などは、居住配慮者に対するサポートや説明などはしないものですか?
Mさん 不動産会社さんがきちんと説明できているか、私たちは案内の現場に居合わせるわけではないのでなかなか把握できませんが、事細かな説明はしていないこともあると感じます。
不動産会社も知識をもち、丁寧にコミュケーションを取ることが理想 (画像/PIXTA)
Kさん 仲介会社の担当者がもっと知識を持っていてくれたら……と思うことはありますね。例えば、入居申込の際に、入居希望者の事情や個別性に合わせて賃貸物件の案内ができていれば、オーナーと入居希望者のミスマッチが起きないと思うからです。入居者への資金的なサポート面については、行政の補助金申請等は、オーナーが行うものではなく、本人の申請が必要なのです。私たちは情報の提供ができても、本人が申請しないと始まらないため、それ以上のことができないことも多いです。
Oさん Kさんのおっしゃる通り、本人の了承を得ずに行政への補助金申請をできない。だから制度があっても活用しきれていないのが実情だと感じます。
行政のちょっとした介入など、社会の仕組みとして整備されれば
――こうした悩みはどうすれば解決できるものなのでしょうか。
Kさん オーナーだけで解決するのは限界があるため、行政ももう少しおせっかいな交流ができるようになるといいなと思いますよね。例えば「最近はどうですか。元気ですか」「何か困っていることはないですか」という声がけなど、小さなことでもいいんです。役所の方、地域包括支援センターの方がほんのひと手間かけてくれるだけでも違う気はします。
Oさん 昨今確立している生活困窮者自立支援制度というのがあり、これは金銭的な困窮だけではなく、社会との繋がりに困窮している人をサポートをしています。例えば大人のひきこもりの対応などです。実は8年ほど前からこうした制度もスタートしているんです。この制度では、本人の申し込みにより自立支援を開始する仕組みだけではなく、その人に関わる機関(介護事業所や支援団体など)の情報から支援につながっていない人を早期に発見し、支援方法を関係者みんなで検討していく仕組みもあります。支援が必要な人の孤立を防ぐためにも、こうした制度がもっと広まっていけばいいなと思っています。
Mさん 一般の人が、この情報や制度になかなかたどり着けないことが問題。「いいことやってるのに」と感じる制度があっても、情報が水面下に埋もれてしまっていますよね。
――一方、オーナーができることとして、どのようなことがありますか。
Mさん 他オーナーと情報交換したり、横のつながりを得るためにも現役オーナーやオーナーになりたい人が集まり、勉強会や情報交換をするオーナー会に参加しています。自分と同じような経験をしたオーナーが必ずいて、解決策や誰かが既にやっているとわかったら不安じゃなくなるからです。
Oさん 都道府県や市区町村で設置している「居住支援協議会」や「居住支援法人」などが、オーナー向けに行うセミナーなども増えているように感じます。そういったセミナーで情報を得るのも一つだと思います。また少し大変ではありますが、オーナー自らが入居者や管理会社、そのほかの支援者などと積極的に連携して解決方法を探していくことも、結果的に問題を最小限にとどめることにつながるように思っています。
「小さな声がけでもいいから、周囲がおせっかいをしていければ」とOさんたちは語る(イラスト/アンドウカヲリ)
居住配慮が必要な人の受け入れは過渡期。これから日の目を見ていく
――今後、賃貸物件のオーナーが物件を貸しに出す際、住宅確保に配慮が必要な人を受け入れることは増えていくのでしょうか。
Oさん 今は賃貸オーナーの中で、住宅確保に配慮が必要な人を受け入れる人はマイノリティなのかもしれません。しかし空室も増えている中で、これからはもっと幅広く入居を受け入れていくオーナーは増えていくと思います。今が過渡期なのかもしれません。
Mさん そのためにも、オーナーはトラブルが起こらないシステムを構築していくことが必要です。例えば先に述べた入居者の家族との連絡体制などがそうですね。トラブルが起きた時に相談できるところがあることも知っておきたいところです。
Kさん 地域包括ケアシステム(高齢者などが住み慣れた地域で医療・介護・福祉などのさまざまな支援を受けられるよう地域の人たちが助け合う体制)とつながることや、賃貸借契約書の整備も必要です。入居に配慮が必要な人向けの特記事項や条文を記載した契約書の雛形を作成するなどして、受け入れのために整備していきたいところ。そうすることで、もっと多くのオーナーさんが住宅確保要配慮者を受け入れやすくなるのではと感じます。
あらかじめ起こりうることを想定して入居者との約束事を契約条文に記せば、トラブルになりにくい(画像/PIXTA )
居住配慮者の受け入れの背景として、複合的な問題がある
このように賃貸オーナー3名から、これから入居に困難を抱える人たちの受け入れを考えるオーナーにとって貴重な実体験やトラブル回避のための方策を聞いてきましたが、賃貸トラブルの専門家であるOAG司法書士法人代表の太田垣章子さんは、どのように考えているのでしょうか。
司法書士で、OAG司法書士法人代表でもある太田垣さんは、とくに高齢者の入居問題について法整備の必要性を訴え続けている(画像提供/OAG司法書士法人)
太田垣さんは入居に配慮が必要な人の受け入れは「一つの問題ではなく、複合的な問題である」と話します。
「昔の居住トラブルはシンプルで、『家賃滞納』が主だった。しかし時を経て、入居トラブルの質が変わっている」と感じているそうです。また以前は、高齢者は子世帯と住むことが多く、賃貸物件を借りるということも少なかったそうです。しかし、核家族化・単身世帯の増加などで高齢者をはじめとした住宅確保に配慮を必要とする人たちが、自ら住宅を借りることが増えています。
太田垣さんは「賃貸物件のあるエリアで地域の人と繋がっていき、まちを活性化させていけばトラブルが減る」と提唱します。「地域が良くなれば、同じ価値観を共有できる気持ちの良い人たちがまちに暮らし、オーナーさんが所有する物件にもそのような入居者が集まります。住宅の確保に配慮が必要な人たちをまち全体で見守っていけば、もっと安心感が高まるのではないでしょうか」(太田垣さん)
少子高齢化、核家族化の影響を受けて、住宅確保に配慮が必要な人たちと周辺の関係者とのつながりが希薄になっています。一方、賃貸オーナーも管理サービスの多様化により直接管理をしなくてもよく、便利になった分、入居者とのつながりが希薄になってきているようです。
「トラブルは顔が見えないから起こるもの。顔を見て言葉を交わせば、きっと想像以上に未然に防げるもの」と太田垣さんは言います。ですが、オーナー一人で頑張る必要はありません。管理会社や居住支援法人はもちろん、近隣のオーナーや地域住民、地域コミュニティとしっかりつながり、まちぐるみで「お節介」をしていければ入居に配慮が必要な人もそうでない人も、みんなが安心して暮らせるのではないでしょうか。
●取材協力
OAG司法書士法人 代表 太田垣章子さん
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