想像せぬ結末へと至る十四篇~『最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』
ジェフリー・フォードは数々の文学賞を受賞している現代アメリカの異色作家。本書は『言葉人形』につづく、日本オリジナル編集による二冊目の短篇集だ。十四篇を収録。
不安をにじませた導入部から、やがてあらわになる怪異(たいていは超自然的なものである)。そこまではスタンダードな幻想小説のようだが、たどりつくのは「どうしてそうなるのか?」と読者が途方に暮れてしまう結末である。ただし、フォードは意外性を狙っているのではなく、トリッキイなロジックを弄しているのでもない。プロットの自然な曲率の先に、ぽっかり真空がまちかまえている感じだ。
冒頭に収められた「アイスクリーム帝国」は、共感覚を持つ男(ぼく)が主人公。少年のとき、コーヒーアイスクリームを食べたとたん、ひとりの少女が出現する。彼女の名はアンナ。共感覚がもたらしたイマジナリーフレンドの物語と言えなくもないが、主人公とアンナの関係はけっして甘酸っぱいだけのものではない。ポイントは主人公が音楽を勉強し、アンナは絵に打ちこんでいるところで、これは芸術小説でもある。芸術家には共感覚を持つ者が多いそうだ。この作品では創作における共感覚の働きが、重要な意味を持つ。2004年ネビュラ賞ノヴェレット部門の受賞作。
「タイムマニア」では、夜驚症の少年エメットが井戸の底の死体を発見する。以来、エメットは何かが襲ってくる感覚に苛まれるが、それが夢の中のことなのか、現実に怪物が迫っているのか判然としない。少年がうなされる体験の描きかたは、レイ・ブラッドベリやスティーヴン・キングを思わせるものがある。独特なのはエメットが魔除けのために香草のタイムを終始求めるところで、それが物語に絶妙な滑稽味、それと裏腹の切実感をもたらす。
「ナイト・ウィスキー」は僻村の奇妙な風習が題材で、シャーリイ・ジャクスンの傑作「くじ」を思わせる匂いがある。ただし、その風習そのものが衝撃なのではなく、そこから徐々にズレていく――それなりに安定していたシステムが大きく揺らぐ――過程が恐ろしい。
「エクソスケルトン・タウン」は、なぜか地球の映画が大好きな昆虫型宇宙人が棲む惑星を舞台に、地球から来た主人公が一儲けを企むオフビートなユーモアSF。地球人が生存できる環境ではないため、エクソスキンと呼ばれる高機能スーツで全身を覆わねばならず、そのスーツの外見は昆虫に気に入られるよう、往年の映画スターそっくりになっている。物語にはハンフリー・ボガートあたりが主演する映画のような情景・展開があり、それが昆虫たちの奇怪な社会(地球人からすればおおよそ理不尽に思える)と相俟って、なんとも言えないムードを醸成する。
(牧眞司)
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。