年齢による意識や好みの差がなくなっていく!? 「消齢化」する新しい社会の在り方を分析
昨今は年齢を重ねても元気な人が多く、若年層に混ざってスポーツやゲームなどの趣味を楽しむ人が増えました。その一方で若年層が昭和の雰囲気を楽しんだり、昔の音楽を好んで聴いたりしていて、年代による意識や好みの差が小さくなっていることを肌で感じている人も少なくないでしょう。
実はその肌感は当たっていて、博報堂生活総合研究所が1992年から続けている長期時系列調査「生活定点」のデータから、年齢による違いが徐々に小さくなっていることが明らかになりました。そしてこれを「消齢化社会」と呼び、書籍『消齢化社会 年齢による違いが消えていく! 生き方、社会、ビジネスの未来予測』にまとめています。
いろいろと説明を始める前に、まずは同書で紹介されている「消齢化への感度を測る消齢化クイズ」をひとつ抜粋します。ぜひトライしてみてください。ちなみに、答えはひとつとは限りません。
「次の5つの項目は、『生活定点』で実際に調査している質問項目です。年齢による違いが小さくなってきているのは、どの項目でしょう?
(A)ハンバーグが好き
(B)超能力を信じる
(C)夫婦はどんなことがあっても離婚しない方がよいと思う
(D)木の床(フローリング)が好きだ
(E)世界にひとつしかない自分の服や小物などを作りたいと思う」(同書より)
若年層や高年層の方は少し難しかったかもしれませんが、中年層の方にとっては簡単だったのではないでしょうか(その理由はのちほど)。
このクイズの答えは、「すべての項目」でした。
細かい解説は同書を読んでいただきたいのですが、非常に簡単に説明すると、ハンバーグ好きの中高年層が増え、超能力を信じる若中年層が減り、離婚もあり・フローリングが好きとする高年層が増え、オーダーメイドにこだわらない若年層が増えた、ということです。
分野がバラバラの項目で若年層と高年層がぐっと歩み寄るかたちで年代の差が減っており、中間にいる中年層はその両方と重なる部分を多く持っています。これが先述した「中年層には簡単だったのでは」の理由です。
もちろん個人差があるので真逆の答えを持つ人もいますし、年代による差が大きくなった項目もあります。しかし、2002年から2022年の20年の変化で差が大きくなった項目は27項目であるのに対して、小さくなっている項目は172項もあったそうです。現代社会の動きを見るうえで、とても興味深い結果ではないでしょうか。
同書では、第1章から第2章で消齢化社会の背景を丁寧に解説しています。そして第3章では消齢化社会の未来に焦点を当てて、この先も消齢化は続くのか、有識者は消齢化をどう考えるか、ビジネスパーソンは消齢化をどう捉えているかなどの多角的視点から考えを述べています。
続く第4章での有識者による消齢化社会への解釈は非常に面白く、思わず「なるほど……!」と声が出てしまうかもしれません。登場するのは、大阪大学大学院 人間科学研究科 教授 吉川 徹さん、集英社「少年ジャンプ+」編集長 細野修平さん、日本経済新聞 編集委員 中村奈都子さん、一般社団法人構想日本総括ディレクター(理事)・デジタル庁参与 伊藤 伸さん、株式会社arca 代表・クリエイティブディレクター 辻愛沙子さんの5名です。
終章では「発想転換のための8つのヒント」を提案。消齢化社会の捉え方や生かし方、デモグラフィックに頼り過ぎないマーケティングなどを語っています。ここは特にビジネスパーソンが注目したい内容かもしれません。とはいえ、同書は全章をとおして、マーケティングに携わらない、いち生活者が読んでもじゅうぶん面白い内容になっており、読み応えがあります。
これからの日本はどうなっていくのだろうと不安に思う人は多いでしょう。しかしこうした社会の変化を知り、「こんな未来になったらいいな」と希望をもって新たな社会を創造していければ、未来は想像より少し明るいものになるはずです。「消齢化」という新しい視点から社会を分析した同書を読むと、そうした思いがふつふつとわいてくるのではないでしょうか。
[文・春夏冬つかさ]
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