「弱いアメリカ」しか知らないZ世代は新時代をどう動かす? 気鋭の国際政治学者による初の新書
Z世代とは、1997年ごろから2012年ごろまでに生まれた世代を表す言葉。2023年現在、10代から20代半ばぐらいまでの人たちが該当します。彼らの大きな特徴として挙げられるのが、デジタルネイティブ、SNSネイティブであること。幼いころからインターネットに触れており、他の世代とは異なる独自の価値観を持っていると言われています。今回紹介する書籍『Z世代のアメリカ』は、政治、外交、社会とさまざまな意味で転換期にあるアメリカを、今後アメリカ社会の中心となっていくZ世代の視点に注目しながら描き出した一冊です。
アメリカというと、”経済力や軍事力にすぐれた超大国”という認識を持っている人は多いかと思います。それは間違いではありませんが、アメリカのZ世代の肌感覚としては「『豊かで強いアメリカ』は過去のものになりつつある」(同書より)と著者で政治学者の三牧聖子さんは記します。彼らが生まれ育ったこの20年を考えると、「アメリカは、人種差別や富の格差、脆弱な社会保障など、深刻な国内問題に向き合うことなく、アフガニスタンやイラクなど、世界各地で軍事行動に乗り出し、巨額のお金を浪費して、多くの人命を犠牲にしてきた」(同書より)ことから、教育費の高騰や格差の拡大、人種差別や憎悪に基づく暴力の蔓延といったさまざまな問題にもがき苦しんでいます。Z世代の彼らにとっては、「弱いアメリカ」こそが現実だと感じているようです。
では、アメリカの経済格差はどれほどまでに広がっているのでしょうか。連邦議会予算局の2022年のレポートによると、アメリカでは上位10%の世帯が国の富の72%を保有し、下位50%の世帯は国全体の富の2%しか持たない状況だといいます。さらにその格差は広がるだけでなく、固定化してきているのも見過ごせません。富裕層のほとんどは、自分と同レベルの学歴や社会的地位、年収の相手と結婚する「同類婚」を選び、そうして生まれたエリート・カップルは、その地位や資産を次世代へと継承することから、支配的なエリート階級が再生産され続けます。「アメリカンドリーム」という言葉が輝きを放った時代もありましたが、今では子を持つ親の7割超が「子どもたちの将来の生活水準は自分たち以下になる」と考えているそうです。
「極限まで肥大化した経済格差を具体的に是正し、そのことを通じてより多様な声を反映した民主政治を取り戻していかない限り、アメリカの政治社会の深い断絶は埋まることはないだろう」(同書より)
裕福な家庭に生まれたという「運」で得た富を自身の「能力」や「実力」と勘違いしてきた人々が権力を握ることで、民主主義が多様性を失い、機能不全に陥る恐れがあるという見方は、同じ民主主義の国である日本にも言えることかもしれないと考えさせられます。
とはいえ、Z世代の若者たちは今のアメリカに対して悲観しながらも、未来への希望は失っていないと言います。ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動の中心的な参加者であり、社会正義や人権を重視する姿勢を見せ、中国などの大国とも協調していかなければならないという現実的視点も持ち合わせている彼らは、これまでのアメリカとは異なる強さを秘めているとも考えられるでしょう。反リベラリズムやジェンダー平等、レイシズム、中絶の権利など現在のアメリカが抱える多くの問題が取り上げられている同書は、これからの時代を担うZ世代への期待も込められた一冊になっています。
[文・鷺ノ宮やよい]
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