竹宮ゆゆこのセイシュン小説『心臓の王国』をガシガシ読む!

 耳障りの悪い異音が微かに聞こえてくるような序章から、普通の青春小説ではないのだろうという予感はあった。そもそも、作者はあの『砕け散るところを見せてあげる』(新潮文庫nex)の竹宮ゆゆこ氏なのだ。何かある、ということはむしろ前提として読み始めたのだが、気がつくとそんなことは忘れていて、男子高校生の青春に夢中になっていたのである。

 鬼島鋼太郎は、夏休み中にスイカ収穫バイトから帰る途中、カラフルなワンピースのようなものを身に纏っている整った顔の少年に出会う。いきなり「『せいしゅん』ってどうやるんだ……?」と尋ねてきたその少年は、本当は「アストラル神威」という名前らしい。が、その名は言ってはいけないのだ、と謎の発言をし、鋼太郎に友達になってほしいと言ってくる。おかしな少年を置き去りにして帰宅した鋼太郎だが、すぐに青春小説的な再会をすることになる。新学期、彼のクラスに留学生として現れ、わたなべゆうたと名乗った少年は、制服を着てダサい眼鏡を着用しオーラを消していたものの、間違いなく「アストラル神威」だった。

 鋼太郎には、移植を必要とする心臓の病気で入退院を繰り返している妹がいるのだが、そのことを知っているのは、同じような境遇の嫌われ者女子・千葉巴だけだ。「カワイソーな奴」扱いされることを恐れ、いつもつるんで一緒に騒いでいる仲間たちにすらそのことを隠していた。なのに、神威は異常な勢いで鋼太郎に付き纏い、あっという間に鋼太郎の妹とも両親とも親しくなってしまう。いつしか神威の「セイシュンしたい」という願望を、鋼太郎も一緒に叶えたいという気持ちを抱くようになり、仲間たちも、巴も、クラスメイトたちも、その思いに巻き込まれていく。

 少年たちのバカバカしさが炸裂する行動やハイテンションの会話に呆れ笑い、人に打ち明けられない秘密を持つ苦しみに共感し、誰かを思うゆえの超ハイレベルな発想力と行動力にワクワクし……、一緒にどっぷりと「セイシュン」しているうちに、「うざいけどなんかいい奴じゃん」という感じの愛着が湧いてくる。謎めいた言動についてはどうでも良いような気分にすらなってくるが、神威とは何者なのかは、もちろんこの小説の最重要テーマである。驚愕の展開が待ち受けているのだが、それを推理しながら読むことはオススメしない。というより、そんなことはする必要がないと思うのだ。作者を信頼して、鋼太郎と一緒に物語の中をガシガシと進んでいっていただきたい。

 誰かの痛みを正面から受け止めてしまう無防備さと、諦めるという解決方法を知らない未熟さ。そういう壊れやすくてとても貴重なものを、無自覚に持っている人間だけが持つ爆発力と、見える景色を変えてしまうほど強く美しいきらめきが、この小説にはある。それを見届けられたことを、私はただ幸福に思う。

(高頭佐和子)

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