笑って役立つ「読むお薬」〜うすくらふみ『すこしだけ生き返る』
42歳の弁護士、間敏郎(はざま としろう)は悩んでいた。最近、肩が痛くてたまらない。本で知ったストレッチは確かに肩こりをほぐしてくれるものの、その平穏は長く続かず、痛みはすぐにぶり返す。おかげでつい気をとられては、業務に支障が出る日々を過ごしていた。
彼が経営する事務所のスタッフ・山村あかりは元気で健康的な若者で、そんな悩みとは無縁の様子。それゆえ間は「なんだか癪だから」と、彼女に隠れてこっそりストレッチに励む。しかしふとしたきっかけで肩こりを看破された間は、新たなストレッチ方法を山村から伝授され──。
他人事なのに、読めば読むほど他人事ではなくなっていく。それが面白くてツライ! 肩こりをはじめ、腰痛、巻き肩、階段を上るしんどさに、ついつい口から飛び出る「よっこいしょ」のひと言。私を含む中年諸氏にとってみれば、身に覚えがあることばかりだろう。裏表紙に書かれた「体を労わり癒してほぐす、中年メンテナンス物語」という惹句も沁みる。そう、歳を重ねてくたびれた人体にとって、ストレッチは欠かすことのできない保全行為なのだ。
著者は2018年に第83回小学館新人コミック大賞青年部門で入選し、2019年に『月刊!スピリッツ』(小学館、以下同社)にてデビュー。2021年には『ビッグコミック』(同社)にて、人間が絶滅させた生き物たちを描く『絶滅動物物語』を連載した。監修には『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)で知られる動物学者・今泉忠明を迎え、「内容に完璧を期し」たという。今となっては見ることができない数々の命と人の愚かさを、生々しく伝えてくれる力作だ。
そんな著者が2作目として送り出した本作は『週刊ビッグコミックスピリッツ』(同社)の連載で、前作とうってかわった実用的コメディである。各話は1話読み切りの形で、12-14ページ前後と短い尺で描かれる。単行本の合間には、監修のストレッチトレーナー・なぁさんによる「ワンポイントストレッチアドバイス」が収録され、各話で登場したストレッチの補足や応用がそえられている。
さて、ストレッチに対する間の知識は増しつつあるものの、その日常は一進一退。山村の的確なアドバイスで痛みが改善された後にも、次なる試練が降ってくる。本業と絡んでオチが付く話の流れにも、毎回、思わず笑ってしみじみする。回を経れば経るほどその切れ味は増している気がして、続巻が楽しみでならない。
身体に痛みを覚えた時、そして気持ちがちょっと疲れた時、そのどちらにもよく効くタイトル通りの1冊。笑って役立つ「読むお薬」として、本棚に常備したい。
(田中香織)
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