コロナ禍以降、中国人は日本をどう見ている? 豊富な取材を通して浮かび上がる新しい「日本論」とは
米中間の対立が続くなか、中国側の日本に対するイメージが悪化しているとの報道がされています。いっぽうで、最近では映画『THE FIRST SLAM DUNK』や『すずめの戸締まり』が中国でも大ヒットしたり、中国からの観光客がコロナ前と変わらぬほどの回復ぶりを見せたりと、依然として中国の日本に対する注目度が高いのも事実です。実際のところ、中国の人々は日本に対してどのような見方を示しているのでしょうか。その実情を知ることができるのが、書籍『中国人が日本を買う理由』です。
著者は北京大学、香港中文大学に留学経験を持ち、『中国人エリートは日本人をこう見る』や『中国人の誤解 日本人の誤解』など中国に関する著書も多い、ジャーナリストの中島 恵さん。同書では日本と関わりを持つ多くの中国人に取材を重ね、その生の声を聞いた、新たな「日本論」となっています。
高成長が曲がり角を迎え、統制が厳しくなる自国に大きな不安を抱える中国人も増えているという中島さん。冒頭で紹介されるのは、コロナ禍に上海で厳しいロックダウンを目の当たりにし、日本への移住を決めた富裕層の中国人男性の話です。
「こちらが法律など正当な理由を持ち出しても、中国では通用しない」
「いつ自分の人権や自由が一瞬にして奪われるかもしれない」
「隣国の日本ではコロナ禍でも社会の秩序は保たれ、人々は各自の判断で動き、落ち着いた生活を送っている」(同書より)
現在、東京・豊洲のタワーマンションを購入して暮らしている彼は、古くからの仲間がそばにいない寂しさはあるものの、今の生活はストレスがなくて信じられないほど快適だと感じているそうです。
このように、多くの中国人にとって日本は移住先として理想的な国のようです。カナダやイギリス、シンガポールなどを希望する人もいますが、「日本は近いし、(生活コストが)安い、(子どもが一人で外出しても)安心、安全。食事も安くて美味しく、コスパがいい。政治的、社会的に安定していて、空気もいい。日本は三拍子どころか五拍子、六拍子も揃っている」(同書より)といいます。
つまり中国人が日本で不動産を買う理由には、医療や子どもの教育、老後を見据えてという部分が大きいようです。日本の不動産を買う中国人に対し、「日本を乗っ取ろうとしている」と話題になることがありますが、「彼らの多くは、安心、安全な日本で生活したいと願っている」(同書より)だけだと中島さんは自身の見解を述べます。
同書では、教育や文化、不動産、医療体制、働き方、食などさまざまな視点から、中国人が日本を選ぶ理由が記されています。よくも悪くも、中国にとって日本は「コスパがよい」「お得感がある国」だと見られており、それが彼らにとって大きな魅力となっているようです。それとともに、「『日本人の素質(民度、マナー、素養)の高さ』は彼らにとって憧れであり、驚きであり、なかなか真似できないものと思われている」(同書より)ところもあるとしています。
中国の人々がどのように日本を見ているかに目を向けられるとともに、外からの視線を通して改めて自国の良さにふれることができる同書。世界情勢に興味がある人やビジネスなどで中国と関わりがある人にとって、気づきのある一冊になることでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]
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