『フランケンシュタイン』+『そして誰もいなくなった』
「古典的犯人当てミステリーの王様」と賞されたエドワード・D・ホックの長篇のうち、唯一未訳だった作品。題材が『フランケンシュタイン』、シチュエーションが『そして誰もいなくなった』とくれば、SFファンもミステリ読者も手にとらずにはいられない。
ホックの作品系列のなかでは、近未来を舞台にした《コンピュータ検察局》のシリーズに属する。コンピュータをはじめとするハイテクが絡む犯罪を専門に扱うため、警察とは独立した組織として設立されたのが、コンピュータ検察局だ。
本作品で焦点となるのは、バハ・カリフォルニア沖に浮かぶ孤島でおこなわれる極秘実験。国際低温工学研究所(ICI)が、長期間冷凍保存していた六体の提供者から臓器を取りだし、それらをつなぎあわせ、人間を再生しようというのだ。フランケンシュタイン博士の現代版である。医学的に可能かどうかということもあるが、法的・倫理的な妥当性が疑問だ。コンピュータ検察局の捜査官アール・ジャジーンは、記録撮影技師に扮して潜入捜査をはじめる。
孤島にいるのは、アールのほか、ICIの代表であるローレンス・ホッブズ、ICIに資金提供をおこなっている後援者エミリー・ワトソン、こんかいの手術の執刀医エリック・マッケンジー、それを補佐する外科医フィル・ウォーレン、脳外科医のフレディ・オコナー、術後のケアを担当する内科医ハリー・アームストロング、骨の専門家であるトニー・クーパー、手術の助手を務める内科医ヴェラ・モーガン、メキシコ人の料理人ヒルダ。つごう十人である。
いや、手術によって甦る当人も加えれば、十一人になる。この再生者は冷凍前の素性は伏せられていて、フランクとだけ呼ばれる。言うまでもなくフランケンシュタインにちなむもので、いささか悪趣味と言えよう。
最初の事件がおこったのは、手術がおこなわれ、フランクがまだ意識を取り戻さずにいる翌朝のことだ。ミス・ワトソンの姿が消えたのだ。手分けして彼女の行方を探しているうち、もう一人が死体となって発見される。また、ボートが何者かによって穴をあけられ、無線機も破壊される。これで本土とは完全に切り離されてしまった。
事件はその後もつづく。ひとり、またひとり……。不可解で閉塞した状況のなか、犯人をめぐる仮説が浮かんでは消える。
エドガー賞受賞作家であるホックに対してこういうことを言うのはいささか躊躇があるが、登場人物の性格や行動、空想科学的なガジェットの扱いなど、懐かしいB級映画のごとき味わいがある。とくにヒロイン、ヴェラ・モーガンがなかなか素敵だ。主人公のアールとのチープな情事もある。
慌ててつけくわえておくと、連続殺人事件の構成という本格ミステリの骨格については、さすがというほかない。種明かしはできないが、いくつかの経緯と動機が入り交じり、歯車のように噛みあう。この作品のもっともSFたる要素、フランケンシュタインの怪物が、その謎と必然で絡んでくる展開もみごとだ。
(牧眞司)
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。