Interview with Oscar Jerome about “The Spoon”
実力派が次々と登場しているロンドン(英国)のジャズ・シーン。流麗なギター・プレイを披露するオスカー・ジェロームもまた、次世代を担う存在として注目されている。2022年には2ndアルバム『The Spoon』をリリース、クロスオーヴァーなサウンドでありながらもジャズの持つ自由なグルーヴも感じる作品は、高評価を獲得。そして23年5月にはGREENROOM FESTIVAL’23出演と、単独公演を敢行。スタイリッシュかつジャズのフォーマットを大切にしながらも、音楽に新たな可能性や生命を宿そうとするエモーションを感じるステージで、多くのオーディエンスを魅了させた。そのステージの熱狂の余韻が冷めないなかで、現在の自身の音楽、そして進化し続けるロンドンの音楽シーンを直撃。
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━━日本でのパフォーマンスはいかがでしたか?
オスカー「じっくり音楽に耳を傾けてくれる方が多かった印象。日本のみなさんは、音楽に限らずアートや芸術に対して強いリスペクトを持つ人だということを改めて知ることができたよ」
━━ステージではバンドとの即興セッションが、かなり印象的でした。
オスカー「楽曲を制作している時点から“即興”を念頭においている。自分自身、ライヴと音源で異なる体験をできることが望ましいと思っているし、同じことの繰り返しをしてしまうのは好きじゃない。また、ステージには他に素晴らしいミュージシャンも参加しているから、できるだけその場だけで体感できる楽しさを味わっていただきたいんだ」
━━では、レコード(楽曲)はライヴのために制作している部分が大きい?
オスカー「曲作りに対しては、その瞬間に集まったベストなメンバーと作り上げた最高なものを閉じ込めようとしている。だけど、曲のどこかに“即興”で演奏しやすいような“余白”を作っておくんだ」
━━では、最新アルバム『The Spoon』は、どんな瞬間を閉じ込めたのですか?
オスカー「自分のこれまでの経験や軌跡を閉じ込めた作品になったよ。哀しみや落ち込みといった感情から始まり、そこから抜け出すことができないフラストレーションを経て、それらを受け入れながら、前進していくなかで自分の居心地のいい場所を見つけていくまでのプロセスというか。旅を表現できたアルバムになったんだ」
━━アルバムでは、ジャズだけではなく、ソウルやヒップホップ、ロックなど幅広いサウンドを取り入れていますが、あなたのこれまでの音楽ジャーニーを表現したのでしょうか?
オスカー「確かに、最初はいろんな音楽の世界をリスナーに楽しんでほしいという思いでスタートした部分がある。実際、1980年代のプリンスとか、ロックやパンク、西アフリカやラテン、ソウルなども混在している音になったけれど、最終的にはあんまり深く考えすぎないようにしたんだ。純粋に自分の好きな音を集めていったら、そうなった」
━━なかでも「Berlin 1」は、とてもダンサブルな仕上がりですね。
オスカー「これこそ、プリンスやマイケル・ジャクソンの楽曲から影響を受けたもの。特にプリンスの1981年発表アルバム『Controversy』のような癖になるグルーヴ感と、不思議な陶酔、さらにエモーショナルでヘヴィーな要素も兼ね備えた楽曲を制作したくて完成させたんだ。また、この楽曲ではヴォーカリストとしての自分を追求した。僕はギタリストと思われることが多いし、自分自身も歌うのはあまり得意だと感じていなかったんだけれど、あえて挑戦してみた。だからライヴで披露する時も、この楽曲だけはギターを持たずにパフォーマンスをするんだ。すると、オーディエンスとの一体感がさらに強くなったような気がする」
━━この楽曲のミュージック・ヴィデオも印象的。1960~70年代を連想させるようなクラシック感とキッチュな雰囲気がミックスされた世界ですね。
オスカー「ここに登場するのは“ジェリー”というキャラクターなんだ。ビジネスマンであるんだけど、ちょっと怪しい雰囲気の。例えるならば、映画『アメリカン・サイコ』(2000年公開)のクリスチャン・ベールみたいな感じ。今回のアルバムのクリエイティヴ・ディレクターと、映画の話をしていたら盛り上がって、その世界を再現したようなヴィジュアルにしようという話になって。ヴィデオはファニーだけど悲劇的、好きにはなれないんだけど何故か同情できる感じを表現できたと思う。ディープでキャッチーな内容になったと思うよ」
━━また、アッシュ・ウォーカーとのコラボ曲「Automaton」も先日発表されました。
オスカー「アッシュ・ウォーカーとは、以前から顔見知りではあったんだけど、ロックダウンの影響でトラックのやりとりをしていくうちに意気投合して、今では素晴らしい友人になったんだ。アッシュも僕もレゲエやダブが好きで、そういう話をしていくうちに自然と曲が完成していったという感じ。楽曲のイメージはサイボーグ人間というか、オートメーション化されていながらも感情の一部が残っているキャラクターの疎外感を表現したんだ」
━━次はレゲエ・アルバムを制作するのですか?
オスカー「それはどうだろう? どうなるかわからないけれど、イギリスではレゲエやダブは昔から人気で、自分もそれを聴いて育ってきたから、確実に影響がある。だからと言って、レゲエ・アルバムを作るとは限らない。だけど、コラボする相手によって、そういう音になる可能性はあるね」
━━では実際に、現在進行しているプロジェクトはありますか?
オスカー「いろんなプロジェクトが進行中だ。『The Spoon』の延長にある作品も手がけているし、まったく異なるベクトルのものにも取り組んでいるし、とにかくたくさんのアイディアがある」
━━現在のロンドンの音楽シーンは?どんなムーブメントが巻き起こっているのでしょう?
オスカー「ロンドンの音楽シーンは、それぞれがお互いをリスペクトしあいながら発展させようと、みんな一致団結している。とても健全なシーンだと思う。また、イギリスはこれまでたくさんの音楽が生まれた場所だから、さまざまな世代のミュージシャンがいて、年代を超えたセッションもたくさん。実際、僕の作品にも90年代を中心に活躍したアシッド・ジャズ・グループであるガリアーノのパーカッショニストの方が、参加してくださったり。縦と横のつながりがフラットにある。また、ロンドンの街の雰囲気もいろんな文化や概念がクロスオーヴァーしているから、常に面白いものが生まれているんだ」
━━オススメのロンドンのイベントなどがあったら教えてください。
オスカー「イースト・ロンドンにあるNT’S Loftというクラブの水曜と木曜におこなわれるジャム・セッション、またColour Factoryで月曜に開催されている“Orii Jam”というパーティ、Matchstick Piehouseで木曜に開催される『Steamdown』もおすすめ。また、老舗的なJazz CafeやEartHでもいいイベントをやっているよ」
photography Satomi Yamauchi(https://www.instagram.com/satomi_yamauchi/)
text Takahisa Matsunaga
Oscar Jerome
『The Spoon』
配信中
https://oscarjerome.orcd.co/bio
イギリス東部、ノーフォーク出身。サウス・ロンドンを拠点とするギタリスト兼ソングライター。トム・ミッシュも学んだトリニティ音楽カレッジを卒業、2019年には、カマシ・ワシントンのUKツアーのサポートアクトを務め、翌年にアルバム『Breathe Deep』でデビュー。またステラ・マッカートニーのキャンペーン・モデルに起用されたりなど、ファッション界でも注目。
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
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