今なお日本を覆う「得体の知れない安倍的支配」の正体とは

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今なお日本を覆う「得体の知れない安倍的支配」の正体とは

日本の憲政史上、最も長く総理大臣を務めた安倍晋三氏。2012年12月26日の第2次内閣発足から2020年9月16日の内閣総辞職まで約7年8カ月、2822日の連続在任日数も歴代最長だ。

昨年7月、安倍氏が凶弾に倒れると、国葬をめぐって国民の間で議論が巻き起こった。そして今年2月に刊行された『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社刊)はベストセラーとなっている。

今なお、安倍氏の存在は国民の中に強く残っている。そして、それは政界においても同様だ。

元通商・経産官僚で政治経済評論家の古賀茂明氏は、新著『分断と凋落の日本』(日刊現代刊)で「亡き後もなお、得体の知れない安倍的なものが政界に漂っている」と指摘する。この「得体の知れない安倍的なもの」の正体を解き明かしていくことが、長きに渡った安倍政権の総括につながる。

では、安倍政権が残したものとは一体なんだったのか。本書をのぞいていこう。

■安倍政権が目指した軍事大国化と防衛費「GDP比2%」の前兆

憲法改正は安倍氏の祖父である岸信介氏以来の悲願であることはよく知られている。岸氏が夢見たのは自主憲法の制定であり、安倍氏はその夢を受け継ぎ、さらに軍事大国化を目指した。

現在の岸田政権の安全保障政策は、単純に安倍政権が敷いた路線に乗って進められているだけだと古賀氏は述べる。安倍政権が敷いた路線こそ「軍事国家」への道である。

古賀氏がまず指摘するのが防衛費の増額だ。岸田総理は5年以内に防衛費をGDP比1%から2%に増額すると指示し、世間を驚かせたが、増額の動きは安倍政権時代から顕著だったという。

1976年に時の三木政権が軍事大国化を防ぐという思いから「1%枠」がはめられ、1978年に撤廃されたものの、暗黙の基準となっていた。しかし2017年、安倍氏は参議院予算委員会で「GDPの1%に抑える考えはない」と発言。防衛費は第二次安倍政権発足以降、右肩上がりでほぼ毎年過去最高額を更新した。

また、武器輸出の解禁も記憶にあるだろう。2014年4月、「武器輸出三原則」に代わる新たな政府方針として「防衛装備移転三原則」を閣議決定したが、古賀氏は「防衛装備移転」は「武器輸出」に他ならないと述べ、さらなる武器輸出拡大がその延長線上にあることは明らかだと分析する。

岸田政権で爆発したかのように見える「異次元の軍拡路線」は、安倍政権時代にはほぼ決まっていたと古賀氏。経済優先から軍事優先へ、国のかたちが変わりつつある。そのことに対して「本当に国民は理解し、同意しているのか」と読者に問いかけている。

■「官邸が喜べば出世の道が開く」官僚のモラルハザード

元官僚の視点から、官僚の劣化についても厳しく批判を加えている。

今、霞が関を取り巻いている問題が官僚の人材難であり、その背景にあるのが官僚のモラール(士気)の低下である。

優秀な人材が集まりにくくなっているだけでなく、若手官僚の退職も深刻化している。ブラックな職場や低い給与水準などさまざまな要因があげられているが、古賀氏はそれとは異なる視点――「官僚の倫理観」の崩壊に目を向ける。

古賀氏が幹部候補の中堅官僚二人に対する取材で、森友学園を巡る公文書の改ざん問題で自ら命を絶った赤木俊夫氏に関して「官僚の倫理観はどうなっているのか」と問いかけると、「あんなことは日常茶飯事です」と答えたという。二人によれば、中堅幹部クラスは皆、事務次官や大臣、官邸、声の大きい有力議員の方を向いて仕事をしている。しかもその内容は、政治家や役所の利益のためのものが非常に多いという。

森友学園問題で矢面に立たされた佐川宣寿氏は2017年7月に国税庁長官に昇任している。古賀氏はこの昇進に対して「霞が関のモラルハザードに拍車がかかった。安倍政権下では、国民や国家に奉仕するのではなく、総理・官邸に奉仕することがダイレクトに出世につながる。佐川氏の昇進は、それを証明したかっこうだ」(p.257より)とつづっている。

財務官僚だけではない。2021年9月に警察庁長官に就任した中村格氏は、安倍氏や菅義偉元首相と昵懇だったジャーナリストに逮捕状が出されたときに、それを取りやめるように指示をした人物で、当時は警視庁刑事部長。その前には菅官房長官の秘書官を務めていた。古賀氏は、安倍氏が喜べば出世につながることを見事に示し、官僚のモラルハザードを強める典型的な例になったと述べる。

 ◇

本書は安倍政権の負の遺産を抉り出し、それが今なお自民党を、そして日本を支配していると論じる。トピックの一つであるアベノミクスは格差を拡大させ、庶民の生活に不安を与え続けている。原発回帰の動きや教育行政にも安倍政権の影響が残り続けている。

では、日本の未来は絶望的なのか。古賀氏は最後に「まだ、日本を諦めるわけにはいかない。この国にはまだ十分なポテンシャルがあると信じることからすべては始まる」とつづり、「不公正に厳しい改革」を提言する。日本の劣化を食い止め、再生するためには具体的にどのようなことが必要なのか。本書はこの国への処方箋ともいえるような一冊だ。

(新刊JP編集部)

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