2023年第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を優勝という最高の結果で締めくくった侍ジャパン。大谷翔平選手やダルビッシュ有選手らスター選手を招集し、チームをまとめあげた栗山英樹監督のマネジメントにも注目が集まっている。シャンパンファイト時に「これが人生最後のユニフォーム」と語っていた栗山監督だが、帰国後にテレビ出演した際は「新しい契約がくればそれは考える」と発言。侍ジャパンの監督続投の可能性も浮上している。
栗山監督はプロでの監督経験は無かったが、2011年11月に梨田昌孝氏の後任として北海道日本ハムファイターズの監督に就任。伸び悩んでいた吉川光夫選手、中田翔選手ら若手が台頭し、新人監督ながら1年目にリーグ優勝を成し遂げた。オフには高校卒業後にNPBを経由せずにメジャーリーグ行きを表明していた大谷翔平選手をドラフトで指名。前代未聞の二刀流起用でその才能を開花させ、大谷選手の目標であったメジャーリーグに送り出した。監督として球団最長10年間の在籍でリーグ優勝2回、日本一1回、Aクラスは5回と指導者として素晴らしい成績を残した。そして2021年12月に侍ジャパンの監督に就任。チームを世界一に導いた。
栗山監督には大きな感謝と…もうひとつの感情を抱いてしまう
ファイターズファンである筆者は、栗山監督が大好きだし、絶大な感謝をしている。栗山監督なくして大谷選手の二刀流は絶対にありえなかった。常識を常識と思わない、栗山監督ならではの大きな功績だったし、その他にも不振の中田翔選手や、もしかしたら途中で解雇になっていたかもしれないブランドン・レアード選手を信じて起用し続けた。それらが結果として2016年のリーグ優勝、日本一に繋がった。これほどまでに選手を信じる監督もいないだろうと感じる。
しかし、ファンとしてファイターズ時代晩年の栗山監督には首を傾げることが多くなっていった。
メジャーリーグのような極端な守備シフトをいち早く採用。内野ゴロがヒットになるシーンが目立った。先発投手を短いイニングで交代させるオープナーという起用法を取り入れたが、あまり勝利につながらなかった。レギュラー格の選手が不調に陥っても若手にあまりチャンスが回らない。誰かがミスをして負けても「俺が悪い」の一言。選手に責任を押し付けないという姿勢を貫いていたが、チームが低迷する中では「俺が悪いのはわかったからなんとかしてくれ」という気持ちしかなかった。選手を信じるというのも聞こえは良いが、それでチームが負けてしまってはどうしようもない。実際、2016年の日本一後は育成の循環が上手く嚙み合わず、Aクラスは2018年の3位1回のみで、残り4シーズンはすべて5位。そんな中で主砲だった中田翔選手が暴力事件を起こして無償トレードで巨人に移籍。試合前の円陣では選手の発言が問題視されるなど、決して良いチーム状況とは言えなかった。主力も多数流出し、2022年からは新庄剛志監督が就任したが最下位に終わった。
二刀流・大谷翔平を作り上げたのは栗山監督だが、今の弱いファイターズを作り上げたのも栗山監督なのである。栗山監督は間違いなく名将だ。しかしそれは光と影が表裏一体であることをファイターズファンなら知っているはずだ。
今回、世界一という最高の結果を手にした以上、普通のおじさんとして栗山町に帰ってきてもらいたい。長期政権になって上手く立ち行かなくなったとき、バッシングされる栗山監督を見たくない。栗山監督が大好きで感謝しているからこそ、そんなお節介を考えてしまうのである。
(Written by 大井川鉄朗)