外国人の賃貸トラブルTOP3「ゴミ出し・騒音・又貸し」、制度や慣習がまるで違う驚きの海外賃貸実情が原因だった!

外国人の賃貸トラブルTOP3「ゴミ出し・騒音・又貸し」、制度や慣習がまるで違う驚きの海外賃貸実情が原因だった!

日本に暮らす外国人は多くいるにもかかわらず、外国人が入居できる賃貸物件が少ないことが問題になっています。文化や生活習慣の違いから、トラブルになることを危惧して、外国人に部屋を貸したがらないオーナーや管理会社の担当者もいるようです。

今回は、外国人への入居サポートを行っている不動産会社イチイ 代表取締役の荻野政男さんと、グローバルトラストネットワークスの外国人住まい事業部 グローバル賃貸部 部長・尾崎幸男(崎は旧字体、以下同)さんに、外国人入居者との間に起こりやすいトラブルとその解決方法ついて話を聞きました。

日本に住む外国人の賃貸住宅事情は?

外国人が日本で家を借りようとするとき、さまざまな困難が存在します。
まずは、物件情報の取得が困難であること。

「ネットで物件を探せるサイトは複数ありますが、多言語で情報提供されているものはほとんどありません。日本語で物件を探そうとすると、日本語が得意でない外国人は得られる情報が限られてしまいます」と家賃保証をはじめとして、15年以上外国人に特化したさまざまな生活支援事業を展開しているグローバルトラストネットワークスの尾崎幸男さんは話します。

また、海外では通常、保証金として家賃1~2カ月分を支払えば契約できることがほとんどですが、日本では入居に際して家賃保証会社との契約が必要で、そのための審査があります。オーナーや管理会社によっては日本の現住所や電話番号がなければ借りられなかったり、緊急連絡先は日本人でなければダメだったり、留学生など仕事を持たない人は断られてしまうケースもあるようです。

「そもそも、海外では入居希望者がオーナーと直接やりとりすることが多く、不動産会社を介して契約を結ぶということ自体が不慣れです」と、韓国・中国・アメリカなどの外国人スタッフとともに外国人の入居サポートを行っていて、日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長も務める荻野政男さんは説明します。

何ページにも及ぶ契約書の内容を理解するのは、たとえ説明を受けたとしても、外国人が母国語以外の言葉で理解するのは困難でしょう。

さらに日本では敷金・礼金・仲介手数料・保証料などの費用が通常、家賃の5~6カ月分ほどかかります。初期費用があまりに高すぎて、家を借りること諦めざるを得ない人もいるのだとか。海外では電気・ガス・水道やインターネットなどのインフラ使用料は家賃に含まれていることが多いため、それらの契約を自分でやるのは初めてという人も多く、日本の慣れないルールや慣習に戸惑うことが多いのです。

日本での家探しでは、物件情報や日本独特のルールについて、日本語以外の情報が少ない。日本語が得意でない外国人には情報格差が生まれる可能性も(画像/PIXTA)

日本での家探しでは、物件情報や日本独特のルールについて、日本語以外の情報が少ない。日本語が得意でない外国人には情報格差が生まれる可能性も(画像/PIXTA)

外国人入居者に起こりやすいトラブルTOP3

イチイの荻野さんによると、入居後の外国人のトラブルトップ3は、「ゴミ出し」「騒音」「又貸し」だといいます。

「“ゴミ出し”は、日本のように細かくゴミの分別をしている国は意外と少なく、ゴミの分別に慣れていない人が多いです。日本より細かく分別する習慣があるのは、ドイツくらいではないでしょうか」(イチイ荻野さん)

「中国では、2019年から上海市を手始めにゴミを分別するようになりましたが、主にリサイクルゴミ、有害ゴミ、生ゴミ、乾燥ゴミの4種類のみ。ベトナムでも昨年ゴミを分別するルールができたそうですが、まだ馴染みがないようです」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

さらに、分別の仕方や回収日など、ルールが地域によって違う点もわかりづらく、ゴミ出しトラブルになる要素をはらんでいます。

ゴミ出しの仕分けやルールは複雑。自治体では日本語だけでなく、母国語で説明できるような資料の作成や、配布する仕組みが必要かもしれない(写真/PIXTA)

ゴミ出しの仕分けやルールは複雑。自治体では日本語だけでなく、母国語で説明できるような資料の作成や、配布する仕組みが必要かもしれない(写真/PIXTA)

“騒音”については、文化の違いや家のつくりが関係しているようです。日本人は自宅を「ゆっくり静かに過ごす場所」と考えている人が多いようですが、海外では自宅を社交場の一つとして「友人や知人を招いて楽しくおしゃべりする場所」だとする考え方が一般的である国も少なくありません。

「日本の家は外国の家に比べて壁が薄く音が漏れやすいんです。しかし、彼らはそんなことは知りません。これまでと同じようにしゃべっているだけでもトラブルになってしまうのです。また、母国にいる家族と電話で話そうとすると時差があるため、夜遅い時間に電話をして『声がうるさい』とトラブルになったケースがありました」(イチイ荻野さん)

日本の家の壁は薄くて音が漏れやすい。自宅に友人・知人を招いて楽しくおしゃべりのはずが、騒音トラブルになってしまうことも(写真/PIXTA)

日本の家の壁は薄くて音が漏れやすい。自宅に友人・知人を招いて楽しくおしゃべりのはずが、騒音トラブルになってしまうことも(写真/PIXTA)

日本では賃貸する期間を限定する定期借家契約よりも更新や中途解約が可能な普通借家契約が多く、「又貸し(転貸)」は契約で禁止される場合がほとんど。一方、外国では定期借家契約が多いために、移転などの理由で契約期間が残ってしまう場合、知り合いに又貸しすることが当たり前の国や地域もあるので、やってはいけないことだと知らない人も多いそうです。イチイの荻野さんによれば、かつては契約者以外の人がたくさん同居してしまうことなどもありましたが、今は少なくなってきているといいます。

「昔は日本の初期費用や家賃が外国人には高くて部屋を借りにくいという金銭的な問題が大きな背景としてありました。近年は母国の国力が上がってきたため、前ほどお金に困る人が少なくなっていることが理由として考えられます」(イチイ荻野さん)

さらに入居審査があることや、何ページにも及ぶ契約書の締結、日本人の連帯保証人が必要な場合や緊急連絡先の確保など、日本独特の習慣もあり、国内に知り合いのいない外国人にはハードルの高いものなのです。

他にもこんなトラブルが……

トップ3以外にもよくあるトラブルとしてグローバルトラストネットワークスの尾崎さんが挙げるのが「無断解約」です。
日本では、退去のときの「解約予告」や「原状回復」は当たり前のことですが、海外では、借家に家具や家電が備わっていることが多く、処分しなければならないことを知らずに置いたままにして帰ってしまう人もいるのだそう。

また、「家賃の入金確認ができない」トラブルも多いといいます。
尾崎さんによると、外国人が日本の銀行口座を開設しようとすると、入国後、半年間待たなければいけないことが多いそうです。銀行口座を持っていないと、振り込み手続きや送金手続きができず、家族や知り合いの口座から振り込んだりするケースが多いのだとか。

「家賃引き落としの場合でも口座がなければ、都度振り込んでもらうしかありません。その場合でも、他人の口座を借りて振り込みをして、振込名義人の名前が入居者と一致しないなどといったトラブルはよくあることです」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

いずれも金融機関の口座開設の審査が外国人に対して厳しすぎることが大きな原因の一つとなっているようです。

外国人が日本で銀行口座を開こうとすると、日本人よりも時間がかかる。本人名義で口座引き落としや振り込みができず、トラブルになることも(写真/PIXTA)

外国人が日本で銀行口座を開こうとすると、日本人よりも時間がかかる。本人名義で口座引き落としや振り込みができず、トラブルになることも(写真/PIXTA)

外国人の入居トラブルを回避する事前の策は?

このようなトラブルに対して、どのような解決策が検討できるのでしょうか。

「日本と母国の習慣の違いやルールを、事前にしっかりと説明して理解してもらうことに尽きます。日本語では伝わらないこともあるので、母国語の資料を用意しておく必要があるでしょう。加えて、文化や意識の違いを理解している外国人スタッフによる母国語の説明やサポートも大事です」(イチイ荻野さん)

尾崎さんは、家賃滞納や、無断解約などに対してリスクヘッジをするために、母国の家族と連絡を取るようにしているといいます。

「私たちは、審査段階で母国の家族の連絡先を取得し『保証人の代行をする、万が一何かあったときは弊社を頼ってください』と電話連絡をしています。こうすることで何かあってもお客様と連絡を取る手段を残すことができ、さらにご家族にも安心していただけます」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

グローバルトラストネットワークスが運営している外国人向けの不動産情報サイト。日本語や英語だけでなく、外国人が母国語で読める情報や母国語によるサポートを提供することで理解を深めてもらい、トラブルを回避することができる(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

グローバルトラストネットワークスが運営している外国人向けの不動産情報サイト。日本語や英語だけでなく、外国人が母国語で読める情報や母国語によるサポートを提供することで理解を深めてもらい、トラブルを回避することができる(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

また、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会でも、14カ国にわたる「部屋探しのガイドブック」(国土交通省/公益財団法人日本住宅管理協会 あんしん居住研究会 ほか)を作成して住まい探しをする外国人向けに配布しています。オーナー向けにも外国人受け入れのためのガイドブック作成し、利用促進を図っているそうです。

さらに、オーナーや管理会社にとっては、グローバルトラストネットワークスのように外国人専門の家賃保証会社を活用することも有効でしょう。同社では、多言語によるホームページやSNSで物件情報や初期費用などの情報提供や24時間ダイヤルサポート設置など、情報を得られる環境を用意することにも力を入れているそうです。

グローバルトラストネットワークスが提供する外国人に特化した家賃保証サービス。外国人の対応に不慣れな管理会社を多言語でサポートし、入居者、オーナー、管理会社、全てにとって安心できるサービスとなっている(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

グローバルトラストネットワークスが提供する外国人に特化した家賃保証サービス。外国人の対応に不慣れな管理会社を多言語でサポートし、入居者、オーナー、管理会社、全てにとって安心できるサービスとなっている(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

誤解と偏見をなくすために必要なことは?

これからの日本社会では、経済においても労働者問題に関しても、外国人の存在なくしては成り立ちません。生活習慣や言葉の違いを解決できれば、外国人に部屋を貸すことはリスキーではないとイチイの荻野さんはいいます。トラブルをなくすために、事前の説明や情報を届けること、生活面のサポートなどが重要です。

「外国人に丁寧に説明しようとすると当然時間がかかります。重要事項説明においても、適当に日本語で済ませてしまう不動産会社も多いのではないでしょうか。しっかり説明をしていないから、入居する外国人が理解できずにトラブルが起こるのです」(イチイ荻野さん)

公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が実施した「外国人入居受入れに係る実態調査(2021年)」では、「契約内容について説明してもらっており、かつ内容を理解できた」人は67.3%だったという結果が出ています。

外国人入居者への賃貸借契約内容の説明状況

不動産会社から契約内容を説明してもらったか 契約内容はどのように説明されたか

外国人のうち約1割は、賃貸借契約の内容の説明を受けていないか覚えておらず、説明を受けた人でも1割は契約内容を理解できていない(資料/公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「外国人入居受入れに係る実態調査報告書(2021年)」)

しかし、その問題の根本には、日本人のなかには外国人への差別意識がある人が少なくないことも否めません。例えば、仲介会社が管理会社に問い合わせをしても、入居者が外国人というだけで断られてしまうこともあるそうです。「そもそも外国籍であることを理由に入居を拒否するのは差別であり、人権に関わる問題だ」と荻野さんはいいます。

「外国人の入居は、空室対策のマーケットとして注力すること以上に、グローバル化に向けて外国人に対しての接し方や受け入れ方をもっと真剣に考えていく必要があると思います」(イチイ荻野さん)

「SDGsが注目されていますが、環境に関することだけでなく『不平等が発生しない』『誰一人取り残さない』という目標も意識して、多様性を理解する環境づくりがあっても良いのではないでしょうか」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

制度の構築とともに、ルールだけでなく、外国人を理解しようとする環境づくりも大事でしょう。

外国人入居者のトラブルは、情報が届かないことによる「知らない」「わからない」が原因となっているケースが多いということでした。また、管理会社をはじめ、私たちのなかにある、古い時代からアップデートされていない外国人に対するイメージが、根拠のない偏見や誤解を生んでいるようです。

日本の習慣やルールを外国から来た人にわかりやすく伝えるための工夫や、外国人を受け入れやすくするための仕組みや制度を整えることで、トラブルは回避可能です。そして、私たちにはトラブルを外国人のせいにするのではなく、自ら文化や習慣の違いを知って理解しようとする努力が必要とされています。そうすることが、オーナーや管理会社はもちろん、国際社会のなかで私たちが外国人と共存していくことにつながるのではないでしょうか。

●取材協力
株式会社イチイ
・株式会社グローバルトラストネットワークス

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