母は認知症、姉はダウン症、父は酔っ払い。芸人・にしおかすみこが綴る介護エッセイ

母は認知症、姉はダウン症、父は酔っ払い。芸人・にしおかすみこが綴る介護エッセイ

 SMの女王様風ボンデージ衣装に真っ黒なロングヘア、「どこのどいつだ~い?」「あたしだよっ!」と叫ぶ漫談で、テレビに引っ張りだこだった芸人・にしおかすみこさん。あれから早15年ほどが経ち、彼女は現在の自分、そして家族について著書『ポンコツ一家』の冒頭でこう記します。

「家族紹介。
うちは、母、80歳、認知症。
姉、47歳、ダウン症。
父、81歳、酔っ払い。
ついでに私は元SMの一発屋の女芸人。45歳。独身、行き遅れ。
全員ポンコツである」(同書より)

 ただし、皆が皆、昔からこうだったわけではないといいます。にしおかさんが母親の異変に気づいたのは、2020年6月。コロナ禍で芸人の仕事がなくなり、ひさしぶりに実家に帰ったところ、なんと「実家が砂場になっていた」のです。

 テーブルの上には食べ残しが散乱し、床は砂まみれ、カーペットには埃がかたまりで積もっている……。そんな中に無表情で座っている母を見て驚いたにしおかさんは、「とりあえず掃除しよう」「カーペットごと取り替えようよ」と話しかけるも、母は「余計なことするんじゃないよ!」と奇声をあげて怒鳴り始めたといいます。

「私は、母がおかしいことを全身砂まみれで体感し、借りようと思っていた部屋の契約をやめて実家に帰ったのである」(同書より)

 こうして二十数年ぶりに一家4人で暮らし始めたにしおかさん。同書には、自身の家族と介護にまつわる日常が赤裸々に描かれています。

 病院での診断によると、母は初期のアルツハイマー型認知症とのことでした。しかし”初期”といえども正常な生活を送ることが難しい母、昔から母とケンカの絶えない酒飲みの父、そして、家族の世話が必要な場面もある姉との生活は、なかなか一筋縄ではいきません。

 2020年の大晦日には、姉のことで父と母が言い争いを始め、ついに限界を迎えたにしおかさんは「もう知らない。もう嫌だ」と家を飛び出してしまいます。電車に乗って六本木に行き、何とはなしに映画館で『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のチケットを買って席に腰をうずめたものの、内容など頭に入ってこず、画面に映る主人公・竈門炭治郎と共にただ泣いたそうです。

 しかし、帰宅すると自室のドアの前に貼ってあったのは、母からの「ごめんなさい」の手紙。そして翌朝、にしおかさんが起きると、母は煮物とちらし寿司を作ってくれていたのでした。

 同書には介護の大変さが書かれているものの、不思議と悲壮感や陰鬱さは見受けられません。それはにしおかさんが軽妙なタッチで書いているというのもありますが、母親を大好きな気持ちが行間からにじみ出ているように感じられるからかもしれません。「全員ポンコツ」なんて毒づきながらも、愛を込めて家族をそう呼んでいるのがわかります。

 「ただただ、たくさんの方々に読んで笑って欲しい。疲れた気持ちがほぐれないかな。ホッとしてくれないかな。誰も傷つかないで……」(同書より)と「あとがき」で記しているにしおかさん。今後ますます高齢者が増加する中で、家族の介護についてユーモアを交えながらリアルに伝える同書は、多くの人に共感とともに読まれていくのではないでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]

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