「笑い飯」ら芸人たちの姿を通し、『M-1』と漫才の神髄に迫ったノンフィクション
いまや年末の風物詩ともなったお笑いの一大イベント『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)。数ある賞レースの中のひとつであるにもかかわらず、なぜ『M-1』はこれほどまでに多くの人を熱狂させる力を持っているのでしょうか。
書籍『笑い神 M-1、その純情と狂気』は、吉本興業のお笑いコンビ「笑い飯」を中心とした、芸人、スタッフ80人以上にわたる証言をもとに、『M-1』および漫才の奥深さについてライターの中村 計氏が活写したノンフィクションです。
2001年の初開催以来、これまで『M-1』からは数多くのチャンピオンが輩出されましたが、その中でも笑い飯は別格といえます。2002年から2010年まで9年連続で決勝ラウンドに進出した『M-1』史上最大のスターコンビであり、中村氏が『M-1』について取材をする中で芸人たちの口から「M-1で勝つよりも、彼らに認めてほしかった」と何度も名前があがったのが笑い飯だったからです。
「笑い飯を中心に据え、M-1の最初の10年を振り返れば『M-1とは何か』『漫才とは何か』、ひいては『笑いとは何か』の答えは、自ずと浮かび上がるのではないかと思った」(同書より)
笑い飯というコンビを結成する前は、事務所に所属せずにインディーズ芸人として盟友・千鳥らとライブを重ねていた哲夫と西田幸治。漫才に対する熱量と気概だけは人一倍だったふたりは、やがてbaseよしもとのオーディションイベントに合格します。
2001年の『M-1』にも「ちゃっちゃっと優勝して、天下を獲ったるわい」と参戦するものの、その結果は2回戦であっけなく敗退。そうした状況が一変したのは2003年の決勝戦でした。のちに「奈良県立歴史民俗博物館」と呼ばれることになるふたりのネタは、「ダブルボケ」という斬新さで芸人たちの度肝を抜き、観客を爆笑の渦に巻き込みます。放送作家の倉本美津留氏は、『M-1』予選の審査員で初めて笑い飯の漫才を見たときのことを以下のように振り返ります。
「決してうまくはないんですけど、荒々しい感じで、危ない雰囲気を纏っていて。何より発想が新しかった。ダウンタウン以来の衝撃でしたね」(同書より)
やらせなしのガチンコ勝負こそが『M-1』の醍醐味。千鳥、フットボールアワー、ブラックマヨネーズ、NON STYLE、スリムクラブ……そうそうたるコンビとチャンピオンの座をかけて、その後も戦っていくこととなるのです。
漫才とは何か、笑いとは何か。漫才師たちの『M-1』に挑む姿から、その神髄を垣間見ることのできる同書。狂気ともいえる笑いへの熱量に圧倒されながらも、人生を賭ける姿にどこかホロリとさせられる――。読み終わったあとは、もう一度彼らのネタを見返してみたくなるとともに、すでに今から年末の『M-1』が楽しみになることでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]
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