「人間はキズがあるほうがいい」知の巨人がつづった人間論
260万部を超えるベストセラー『思考の整理学』の著者で、96歳まで現役で活躍した“知の巨人”外山滋比古氏。そんな外山氏が残した言葉の数々には、私たちが生きていくための必要な知恵、考え方が込められている。
そうした外山氏の考えがまとめられているのが『90歳の人間力』(幻冬舎刊)だ。
まずはまえがきで次のように述べている。
見えるものだけを追っていれば、常識的になり、心を失うのは是非もない。ものごとをしっかり考え、洞察する力がなくては、これからのはげしい時代を生きていかれないであろう。(p.4より)
これからの時代を生き抜くために必要なものは何かを教えてくれる一文だ。
本書にはこうした金言が数多く含まれている。
■人間はキズがあるほうがかえっていいこともある
無キズはキズに及ばないことが
いくらでもある(p.10より)
青森の朝市でキズのあるリンゴを売っているおばあさんに外山氏は「キズのあるリンゴの方が甘いんですよね」と声をかける。それに対して、おばあさんは「よくごぞんじです」と返答する。
キズがあったほうが、甘くなる。これは人間にも似たことがあると外山氏は述べる。若いときに失敗をくりかえすような人は、はじめはパッとしないが、いろいろな経験を重ねているうちに実力があらわれてくる。一方、失敗したことのない秀才やエリートが、なんでもないミスから挫折することもある。キズがあってかえっていいこともあるのが、人間の不思議なのだ。
■トップよりも後続の方がチャンスは大きい
トップはつらい
永くつづけていると、
思わぬエネルギーを失う
それに気づくころには、
トップではなくなっている(p.66より)
外山氏はこんなエピソードを取り上げる。小学校で全学年を通じてダントツの成績だった大秀才のSは、大学の頃になると目立った存在ではなくなってしまった。一方、Sと同学年のTは地味で目立たない生徒で、中学を出ると二流の専門学校を経て、二流の企業に就職した。さらに、閉鎖するかどうかという部門の責任者にされてしまった。
ここからTはがんばり、火の玉のように働いた。そして3年が経ち、新しい製品の開発につなげて廃部のきまっていた仕事に花を咲かせ、大学出を尻目に副社長にまでなったという。今はトップでなくとも、気長にかまえながら、チャンスが来たら一気に飛び出る。勝つために必要なものは何か、示唆に満ちたエピソードである。
◇
本書には、外山氏の34の言葉にそれぞれ短いエピソードが付されている。
どんな人にも後悔や失敗、恥があるものだが、そういったキズがあるからこそ幸せになれることもあるし、人間としての魅力も高まるものだ。
「人間力」を養うための言葉が詰まった本書を通して、自分自身を見つめ直すのもいいのかもしれない。
(新刊JP編集部)
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