インボイス制度でフリーランスが被る「痛すぎる損失」

インボイス制度でフリーランスが被る「痛すぎる損失」

かねてからフリーランスで働く人を不安に陥れていた「インボイス制度」が、ついに来年の10月に始まる。

フリーランスにとっては収入減に直結する問題で、反対運動も起こっているが、どんな制度なのかわかっていない人も依然として多い。それは売り手であるフリーランサーも、買い手である企業も同様だ。

■2023年にスタート!インボイス制度って結局何なの?

「インボイスが、フリーランスにとって不利な制度なのは否定できない事実です」とするのが『フリーランスがインボイスで損をしない本』(日本実業出版社刊)の著者で税理士の原尚美さんだ。

原さんは本書の中でインボイス制度とはどんな制度なのか。そしてフリーランスがこの制度によって「損」をしないためにどんな選択をすべきなのかを明かしている。

そもそも、この制度はどんな制度なのか。

「インボイス」とは、「消費税を支払ったことを証明する書類」のことで、消費税の申告をする時に必要になる。ただ、フリーランスの中でも免税事業者(課税期間の前々年度における課税売上高が1000万円以下の事業者。消費税の申告と納税が免除されている)は、このインボイスを発行できないのが問題だ。

となると、そのフリーランスに仕事を依頼している取引先は消費税の「仕入税額控除」を受けられなくなるため、納税額が増えてしまう。だから今後は「フリーランスに消費税分を支払わない」「免税業者との取引をやめて(インボイスを発行できる)登録事業者と取引する」という方向にシフトする取引先が出てくると考えられるのだ。

ただ、「インボイスを発行できないこと」は、「取引先に消費税を請求できないこと」とイコールではない。インボイス発行事業者以外の者が、「インボイスと誤認される恐れのある請求書や領収書を発行してはいけない」と規定されているが、「免税事業者が消費税を請求してはいけない」という条文の構成にはなっていないのだ。

その結果、免税事業者が消費税を請求できるかという命題は、あいまいなまま残されてしまったのが現状だ。消費税を請求するか、しないかは自己責任で判断するしかなく、顧客の大半が仕入税額控除を必要としない消費者であるかなど顧客の属性や、取引先との関係性によっても違ってくるだろう。インボイスは発行しないが、消費税は請求するとなると前述の通り相手先の納税額増につながったり、ネガティブな印象を与える可能性もあり、大事な取引先とトラブルにならないためにも、慎重に判断しなければならない。

■インボイスで免税事業者が被る損失の具体例

では、インボイス制度によって具体的にどのような「損」が生じる可能性があるのか。

ほんの一例だが、本書では大手結婚式場との取引があるフリーランスの動画編集者のケースを紹介している。

この動画編集者は結婚式1組につき10万円の報酬を結婚式場から受け取っていて、売上は年間770万円(消費税70万円含む)。ただ免税事業者なので、消費税分の70万円は実質的に生活費となっている。

ただ、インボイス制度導入によって結婚式場から「インボイスの登録番号を教えてほしい」と連絡がきた。この登録番号がないと、今後動画編集者は結婚式場に消費税を請求できず、これまで770万円あった売上が700万円に減ってしまう可能性がある。これは多くのフリーランスにとって結構なダメージであるはずだ。

一方で、フリーランスである以上、カメラなどの機材は自分で買いそろえる必要があり、その際には消費税がかかっている。必要経費には消費税がかかるのに、自分は取引先に消費税を請求できないという事態になりえる。これがインボイス制度によってフリーランスが影響を受ける代表例である。

もちろん、このほかにもインボイス制度でフリーランスが受ける影響には様々なものがある。しかしフリーランスと取引する会社にとっても、フリーランスは他に替えがたい人材というケースは少なくない。そのためインボイス制度から受ける不利益をフリーランスだけの問題ととらえることなく、自分ごととして一緒に考えようという会社も多い。いま、フリーランスがやるべきことは、ただ不安を感じたり、愚痴を言ったりすることではなく、自分の身を守るための行動を起こすことだ。

フリーランスは仕事の内容も、取引先も、売上も多岐にわたり、当然インボイス制度への備え方もそれぞれに異なる。本書では、フリーランスにありがちな事例が数多く紹介されるとともに、フリーランスそれぞれがどんな対策をとるべきかについてアドバイスがなされている。一人一人が自分にとっての「正解」を見つけるために、一役買ってくれるはずだ。

(新刊JP編集部)

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