ハイテク自閉住居で起こる謎に二人組が挑むSFミステリ
周藤蓮(すどうれん)は2016年、第23回電撃小説大賞《金賞》を受賞して作家デビュー、以来、活躍をつづけている俊英である。本書は書き下ろしの一冊。
“万能生成器”を備えたバイオスフィア建築の実現により、住居のなかだけで、あらゆる生活、すべての欲求を完結させることが可能になった未来。ひとにぎりの外界主義者(アウトサイダー)を別にすれば、ほとんどの人間が閉じた環境に満足し、幸福な人生をすごしている。わざわざ外に出て、わずらわしい思いをすることはないではないか。このあたり、アイザック・アシモフの『はだかの太陽』を彷彿とさせる設定だ。
物語は、バイオスフィア建築を管理する後香(ごこう)不動産のクレーム対応担当者、アレイとユキオの視点で語られる。アレイは極端な閉所恐怖症のため、バイオスフィア建築のなかに入れない。いっぽう、ユキオはアレイを補助するデバイスで、感情というものがない。個性的なふたりゆえ、やりとりは往々にして噛みあわない。しかし、このふたりだからこそ解決できることもある。
多くの人間がバイオスフィア建築に引きこもっているため、世間というものが消え、常識が失われている。家の数だけ孤立して、個別の生きかたがあるばかりだ。他人がどう生きているか、外からうかがいようがない。しかし、アレイとユキオはクレーム対応のため、家のなかを垣間見ることになる。
たとえば、第一のエピソードでアレイとユキオがむかうのは、痛みを信奉する僧侶たちが暮らす神殿だ。バイオスフィア建築の閉じた空間のなか、彼らの信奉は先鋭化している。クレーム内容は”万能生成器”に不具合が生じたというものだが、システム自体に故障はない。僧侶たちが語る論理がよじれており、その背景をさぐるところから捜査がはじまる。クレーム処理だったはずの仕事が、謎解きに転じてしまう。
本書に収められているエピソードは五つだが、そのどれもがミステリ的な趣向が凝らされている。そう、これは未来SFにして、バディ探偵小説でもあるのだ。そこもアシモフと共通する。
(牧眞司)
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