「目の前の患者を最優先」をやめたクリニックで起きた変化

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「目の前の患者を最優先」をやめたクリニックで起きた変化

患者は多いのに人手は少ない。

そんな状況下でも医療の質は落とせない。

診察だけすればいいわけではなく、雑務や事務もある。

そんな苦しい毎日に、医師もスタッフも疲弊しているクリニックは多い。今はなんとかなっている。でも5年後、10年後は…?

千葉市内で「らいむらクリニック」を運営する來村昌紀さんは著書『がんばらない小さなクリニックの経営戦略』(クロスメディア・パブリッシング刊)で小規模クリニックが置かれた現状と、その打開策について綴っている。

目の前の患者に全力を傾けるのが医療従事者の使命。でもそれだけでは医師も看護師も潰れてしまう。そんな状況に來村さんはどう対処したのか。医療現場の今がわかるインタビューの後編である。

來村昌紀さんインタビュー前編を読む

■「目の前の患者を最優先」をやめたクリニックで起きたこと

――本書では來村さんがクリニックで行った「働き方改革」について書かれています。なぜ働き方を変えたのかというところで、医師の本能として「目の前の患者を最優先」になってしまいやすく、それが原因で医療現場が疲弊してしまうことに問題意識を持っていたそうですね。

來村:医師も看護師もそうですけど、医療を志す人というのは自己犠牲の精神が強いというか、自分は大変でも患者さんのために何かをしたいという使命感を持った人が多いのですが、その使命感ゆえに体調を崩すまで働いてしまうと、結局クリニックを休んだり、閉めざるをえないことになってしまいます。それで最終的に迷惑がかかるのは患者さんなんですよね。

それなら自分達が元気で継続できる働き方をすることを優先すべきだと思ったんです。目の前の患者さんに全力投球したい気持ちもわかるのですが、全力疾走で1キロは走れません。

――自分達が健康的に継続できる範囲で、最大限の力で医療にあたるということですね。

來村:そうです。ただこれには患者さんの協力も必要になります。コロナもあってクリニックが混み合いやすい状況で、待つのが嫌だからということでわざと診療時間外に救急車を呼んでクリニックに来られる方もいるんですよね。患者さんがルールを守らないことで現場が疲弊するという面もあるということは知っておいていただきたいです。

――「まずは自分や他のスタッフが元気で機嫌よく働けるように」という働き方の変革によって、具体的な業務としてはどのような点が変わったのでしょうか。

來村:一つは完全予約制にして、当日に「今すぐ診てほしい」という、いわゆる「飛び込み」の患者さんを診るのをやめたことです。

長くうちに通っている患者さんについては、緊急で何かあった時は当日急に来ても診ることはあるのですが、基本的には予約していただいています。

――完全予約制にして楽になりましたか?

來村:こちらとしては楽です。その日に来る患者さんの数も、どういう理由で来るのかもわかっているので、準備ができるんですよ。

たとえば今だと、熱や咳などコロナが疑われる患者さんが事前にわかっていたら、その方はその日の一番最後に、他の患者さんがいなくなってから来ていただいて、こっちも防護服を着て診察するということができますよね。そうすることでこちらも楽ですし、他の患者さんにも迷惑がかかりません。

――本当に急を要する方などはどうしているんですか?

來村:こちらで対応できる範囲であれば「予備枠」で診ることはあります。対応できない時は、大きな病院で救急対応をしているところを紹介するという流れですね。

――現在は奥様と二人でクリニックを運営されているそうですが、少ない人員でクリニックを切り盛りするために心がけていることがありましたら教えていただければと思います。

來村:機械に任せられるところは機械に任せていますが、たとえ機械化できるところでも、患者さんとのコミュニケーションが生じるところはなるべく人がやるようにしています。

今は自動血圧計を置いて、来院した患者さんがそれぞれに血圧を測るクリニックが多いと思いますが、うちはあえて置かないで私が測っています。そういうところ以外はできるだけ機械化しようという考えでやっています。

――どんなところを機械化していますか?

來村:予約はWEB予約にしています。電話予約もできるのですが、最初は機械の自動応答です。患者さんに聞かれることは大体決まっているので、そういうところは機械がカバーして、人が応対しないといけない電話だけこちらに繋がるようにしています。

もう一つはお会計のところで、ポスレジと自動釣銭機を入れています。クリニックは一日の最後に診療点数とお金が合っているか計算するのが大変なんですけど、ポスレジはそこを自動でやってくれるので楽ですね。

あとはYouTubeを活用しているのも一種の機械化だと思います。うちは頭痛専門のクリニックなので、頭痛薬の種類とか、飲む時の注意などをよく患者さんから質問されるんです。だからそういったよく聞かれることについてのアドバイスは動画を作ってYouTubeに上げて、QRコードからいつでもアクセスできるようにしてあります。クリニックで聞いたことを忘れてしまうこともあると思うので。

――高齢の患者さんも多いかと思いますが、Web予約やYouTube動画などを使いこなせるのでしょうか?

來村:最初は難しいかなと思っていたのですが、意外とみなさん大丈夫なようです。自分ではできなくても息子さんやお孫さんにやってもらったりしていますし、70代後半でも自分でスマホから予約できる方もいます。YouTubeについては高齢の方でも見ている方は多いので、慣れているのではないでしょうか。今はテレビでYouTubeが見られることもあって「先生はテレビに出るほど偉い先生なんですね」と言われることもありますが(笑)。

――クリニックとして、あるいは医師として世の中に発信したり、開発したいものがある場合、企業とのジョイントベンチャーも一つの手だとされています。來村さんがこれまでに手がけてきたジョイントベンチャーの実例についてその狙いと結果について教えていただければと思います。

來村:私は標準治療に加えて漢方も治療に取り入れているのですが、こういうスタイルの治療を広めていきたいという気持ちがあって、漢方薬メーカーのツムラさんと一緒に全国でセミナーを開いて、講演をしています。

あとは岩渕薬品という千葉県内の医薬品販売の会社と組んで、医療情報担当者(MR)の方々に漢方の知識をつけていただいて、医師の方々に情報提供するということもやっています。ゆくゆくは「漢方MR」を育成したいと思っています。あとはサプリメントメーカーのメイフラワーさんと一緒にやっている頭痛のサプリメント開発などですね。

――最後になりますが、「がんばりすぎる」ことで苦しんでいる開業医やスタッフの方々にメッセージをいただければと思います。

來村:患者さんのことを第一に考えることは医療者として当然で、とてもいいことなのですが、その結果医師の先生方やスタッフの方々が疲弊して医療が継続できないということになると、患者さんにとっても地域にとっても大きな損失です。

まずは医療現場の方々が元気で医療を継続できることを重視するという考え方にシフトすることは、医師や看護師だけでなく患者さんにとってもメリットが大きいということがこの本を通して伝えられたらと思っています。

また、小規模なクリニックだからといって医師としてチャレンジしたいことを諦めるのではなく、やりたいことをどんどん発信していけば、手助けしてくれる人が集まってくるということも伝えたいですね。

(新刊JP編集部)

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