人気漫画『ワンナイト・モーニング』実写ドラマ化!「主役にならないような人たちに、それぞれの色を与えてあげたい」柿本ケンサク監督インタビュー

ある男女が一夜を過ごす中で心と体を交わせ、“ささやかな朝ごはん”を共にする時間を描いた漫画「ワンナイト・モーニング」(奥山ケニチ/少年画報社・「ヤングキング」にて連載中)の実写ドラマがWOWOWオンデマンドにて全話一挙配信中! 毎週(金)午後11:00より放送中です。
「恋愛」と「食欲」をテーマに展開されるその物語は連載開始後、瞬く間にSNS上で話題が駆け巡り、青年誌連載にも関わらず、女性からも強い支持を得る大ヒット漫画へと成長。そのエモさは多くの読者たちの共感を呼び、幅広い世代からの根強い人気を集め続けています。
そんな話題の人気漫画が実写ドラマ化。10年間想い続けた同級生との再会、童貞卒業を目指しマッチングアプリで出会った女の子との初デート、ドライな関係を続けるセフレ…など、様々な関係にある8つのカップルの普遍的な“ワンナイト(一夜)”と、まるで心と肉体の“足りない部分”を満たすかのように過ごす“モーニング(朝食)”を原作の魅力をそのままに、エモーショナルに描いた本作。

脚本は、ドラマ「これは経費で落ちません!」や映画『スパゲティコード・ラブ』など、ヒリヒリするほど繊細でリアルな台詞が共感を呼び、話題作が続く蛭田直美氏。
監督・撮影を務めたのは、多くのTVCM、MVを手掛け、近年ではNHK大河ドラマ「青天を衝け」のタイトルバックや、映画『恋する寄生虫』など活躍の場を広げ、常に進化を遂げてきた気鋭クリエイター、柿本ケンサク氏。

柿本監督にエモーショナルな作品に仕上がった本作のこだわりについてお話を伺いました。
――漫画原作の実写化となりますが、原作の印象をお聞かせください。
柿本:最初はもしかしたらあまり自分と重なるような部分がないかもしれないと思っていたのですが、読み進めていくと漫画で描かれているような経験が無くても、それぞれの話がすごく懐かしい気持ちになったり、「あ、なんかこういうことって自分も思っていたかも」みたいに感じて。こういう繊細な若者たちの気持ちみたいなものを8話それぞれ8通りに描くのは、僕にとって大きな経験になることと、走り切ったその経験はいい武器になるだろうなと思って参加したいなと思いました。
―――実際に、監督・撮影を務めていかがでしたか?
柿本:脚本家の蛭田さんは、すごくキャラクターを丁寧に描かれる方なので、そこは僕自身もすごく勉強になりました。こういうシーンではこんな風に人は思ったりするだとか、この人は何を持っているとか、持ちもの1つにしても脚本上からこだわっていましたね。
――そのあたりは監督も一緒に話し合われたりされたのですか?
柿本:プロデューサー含め、蛭田さんとも日々ぶつかり合っていました(笑)。たぶん僕の個性だと思うんですけど、脚本があるけれど、そこからさらにもう1つビジュアル化するときに、言葉では表せないないもの、目には見えなかったものをどうビジュアライズするか、ということを常に考えていて。
そうしたときの映像のリズムというのがやっぱりあるんですよね。言葉で表現できる最上限のところまで蛭田さんにやってもらって、そこから先は言葉に表せない領域だなと思っているんです。そこの領域面から考えたときにぶつかるというか。「いや、そんなの必要ないでしょ」ということも、「いや、1回それはやってみたいから」とか。最終的には「すみません、蛇足でした」みたいなこともたくさんあります(笑)。

――でも、まさにビジュアル面という部分で、原作にはない、心情というか内面を表現する場面が映像として入っているじゃないですか。声は聴こえてこないけれど、登場人物たちが叫んでいるシーンなどがあり、すごく印象的でした。
柿本:たぶん、このドラマに出ているキャラクターは、表に感情を出さないことがすごく多いんじゃないかと思って。でも、みんな本当はどこかでそういうことを抱えていて、ずーっと自分の体の鎧の中に閉じ込めているものがウワッと出てくる瞬間みたいなものを敢えて今回は描きたいなと思って。それが吉と出るか、凶と出るのか、今回の「ワンナイト・モーニング」のプロジェクトに関わるみんなに「どうなるの、これ?ホントにいるの?」みたいにずっと言われながら(笑)、「いや、やってみましょう!」と作っていました。
――個人的にはあのシーンが入っていることがすごく良かったです。
柿本:じゃあ、良かったです(笑)。漫画をそのまま実写化しました、という建付けのものになるのは避けたくて。ああいうシーンが入ると、また漫画は漫画の良さ、ドラマはドラマの良さ、というのが出来ていいんじゃないかなと思いながら、厳しい視線を浴びつつ(笑)、やっていました。
――実写ならではの良さがものすごく出ているなと思いました。また、それぞれのエピソードに今回キーカラーがついていますが、どういった理由からですか?

柿本:学生時代の教室を想像したときに、それぞれがきっと中心にいるわけじゃなくて、どこか端っこの方にいたりする、普通だったら主役にならないような人たちの話だなと思っていて。それが今っぽいというか、多様性という中で、そういう人たちにスポットライトを当てるところが、この漫画の良さだと思っていて。そういう人たちにそれぞれの色を与えてあげたいなと。単純にそこを切り取るというより、それぞれの素敵な空間や時間があって、それが8話並んだら、色鉛筆のケースをパッと開けたときに色が並んでいる、「これってレインボーみたいなドラマだよね」みたいな仕立てにしたいと思ったんですよね。
――それぞれが本当にカラフルで、世界観のビジュアルや映像としての魅力もとてもあるなと思いました。小物まで色が統一されていますが、既製品を揃えているのですか?
柿本:既製品や作り物で揃えました。でも、僕なりの感覚でやっていることかもしれないですけど、部屋の背景をまず決め、洋服、手前のバッグの色を決めるとか、補色は何かとか、そのカラーパレットを常に自分の中に持ち歩いて、「この話にこの色はいらない」、「この色をもうちょっと与えよう」とやっています。

学校とかは難しくて色を与えにくいんですけど、「タマゴサンド」の話だとしたら、タマゴサンドというと、キーカラーを卵の色にしがちなので、最初は黄色かな?と思ったんです。でもエメラルドブルーみたいな感じにしようと思って。制服の色合いから、川沿いの道も実はエメラルドブルーなんですよね。そこにあるフェンスの色もエメラルドブルーです。意外に細かいことをやっているんです。
――いや、細かくてすごいなと思いました! また、ドラマでは全話にコンビニ店員の男性(青木柚)が登場し、ラストの8話に繋がっています。全話に関わるコンビニ店員によって、「この登場人物ってみんな同じ時間軸の空間に生きている人たちなんだ!」と明確になっていて、隣人同士のリアルさが生まれて面白いなと思いました。
柿本:あれは誰のアイデアだったかな? 原作にはない設定ですからね。コンビニ店員のキャラクターについても最後までみんなが意見を出し合って作ったキャラクターと話で印象深いです。

――監督的に好きなエピソードや印象的なエピソードを挙げるとしたら?
柿本:上手くハマったなと思うのは、「ハニートースト」の2人が見つめ合ってそれぞれが気持ちを吐露するシーンがあるんですけど、今回は男の人と女の人の気持ちがそれぞれあるので、割りとどちらかに加担するフレームカットは少なくしていて。両方がイーブンな関係、例えばシンメトリーとか、そういうフレームをすごく意識していたんですけど。
撮影も僕がカメラを回しているので、「ハニートースト」の2人が並んで話す場面は、気持ちが強くなったほうにちょっとずつカメラが寄っていって、そこからまたシンメトリーになって、またちょっとずつ寄っていって……という。あのシーンは現場に入る前は「これはシンメトリーでスパッと両方がイーブンな形で撮ろう」と思っていたんですけど、そのときの空気でじわーっと寄っていって、結構ライブ的に撮影できて上手くいったシーンです。

――撮影現場で見たものと完成した映像作品での印象の違いはありますか?
柿本:印象の違いという意味で言うと、これは意図的になんですけど、まず脚本の段階と、撮影、編集の段階で、「この脚本を僕がこういう風に撮るって蛭田さんは絶対に思っていないだろうな」ということを心がけていました。
――ええ!そうなんですね。
柿本:編集のときに現場に参加していたスタッフたちはこれがどう編集されるか、こんなことになるなんて思ってないだろうな、ということを意識して編集していました。とはいえ、最終的にはみんなの意見が合わさって形になるんですけど、そうやってすべての段階でまず身内の人を驚かしたいな、という気持ちでやっていたので、そういった意味では僕には意外なところはないんですけど、関わっていたみんなは意外な気持ちや印象を抱いていると思います(笑)。
そういう意外性みたいなことは常に意識しながら、各パートのみんなを驚かしたいな、とやっていたので、蛭田さんが一番ビックリしているんじゃないかなと思います(笑)。
――私も原作を読んでいたので、スタイリッシュで美しいビジュアルと、さらに内容も少し救いのある展開が足されていて、すごく良い意味で原作と大きく印象の異なるドラマになっていると思いました。では、本作を楽しむ方にメッセージをお願いします。
柿本:たぶん、まだ何者でもない人が何者かになろうとしている、という話で、実は一番今の日本の人達に足りてないことって、これなんじゃないかなと思っていて。「僕は何もない」というのをみんな考えてもらいたいな、というのを実は結構深刻に思っているんです。
「私は何者なんだ?」「私はどういうことが得意で、何が好きで、何がしたい」というのを悩んでいる人たちがいたら、ちょっとその手助けになるんじゃないかな、と思っています。そういうところを感じてもらいたいなと思います。
――ありがとうございました!

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