藤岡みなみ|さようなら、大好きだった庭【思い立ったがDIY吉日】vol.70

藤岡みなみ|さようなら、大好きだった庭【思い立ったがDIY吉日】vol.70

タレントの藤岡みなみさんが、モノづくりに対してのあれこれをつづるコラム連載!題字ももちろん本人。可愛くも愉快な世界観には、思わず引き込まれちゃいます。今回はドライフラワーについて!

藤岡みなみ
タレント、エッセイスト。タイムトラベル専門書店 utouto店主。縄文時代と四川料理が好き。やってみたがり。
ブログ:藤岡みなみ 熊猫百貨店
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さようなら、大好きだった庭

思い出をドライフラワーに閉じ込める。

 ひとつ前に住んでいた家のことが、とても好きだった。近所にスーパーもコンビニもないけれど、川と田んぼと無人販売所があった。風の強い日は窓から牛ふんのにおいが流れ込んできて、最初は驚いたけれど慣れるとむしろ心地よかった。部屋の数が少なくて廊下で仕事をしたりしたけれど、庭だけはかなり広かった。ああ、私の庭。季節ごとに種々の花たちが咲き誇り、猫やカマキリが恋をしにやってきて、冬には雪合戦もできた。レジャーシートを敷いてピクニックもしたし、土を耕して畑も作った。テントを張ってアイスクリームも食べたし、バーベキューもビニールプールも卓球もした。失って初めて気づいたが、もう人生で二度とあんないい庭は持てないかもしれない。ものすごくラッキーなことだった。

 庭に咲く花たちの中で特に気に入っていたのが、真っ白いアジサイと玄関前のオオデマリ、そして春になると爆発したように咲き乱れるモッコウバラだ。この世からカレンダーがなくなったとしても、あの庭を毎日眺めていれば季節を見失うことはない気がする。

モッコウバラの枝はリースにしやすい。

 今年のモッコウバラは、去年よりさらに勢いを増していた。剪定をサボっていたということもあるが、ぐんと伸びた枝と花の重みで勝手にアーチを作り、庭の入り口を無駄にゴージャスに演出していた。アーチをくぐる瞬間、虫の羽音がにぎやかに聞こえる。忙しい忙しい、こんなにお花が咲いちゃって!全部の蜜を飲んでやるんだい!と言っているようだ。本来ブーンというあの音は苦手なのに、おしゃべりだと思えばかわいくて仕方がない。

 せっかく、満開だったのに、雨風の強い日があり枝が何本か折れてしまった。春の嵐というやつだ。枝についた花を見ると、コンクリートの上で折れたことをまだ知らないみたいに咲いていた。
 モッコウバラは生命力が強く、挿し木でも増えると聞いて、奈良の祖母にすこし送ることにした。以前送った写真を見て「とってもきれいだね、私も植えてみようかな」と言ってくれていたのだ。祖父母の家の庭もよく手入れされていて気持ちがいいので、うまく仲間入りできたら嬉しい。

咲いている時のオオデマリさん。

 オオデマリはアジサイの赤ちゃんみたい。似ているけれど小さい。まあるくポンポン跳ねているようで、ブローチにしたらちょうどよさそうな佇まい。アジサイより早く咲いて、春の向こうに透けて見える初夏の予感を連れてくる。もう軒先のオオデマリにおかえりを言われるのも最後か、と思うと悲しかった。

吊るさないドライフラワー作り

上からシリカゲルをやさしく流し込む。

 庭のことをずっと覚えていたい。落ちてしまったモッコウバラとオオデマリを、ドライフラワーにすることにした。密閉できる大きい容器に、茎や枝を切り落とした花とシリカゲルを入れる。茎を残したい花は逆さ吊り、壊れやすいものや花だけのものはシリカゲルを使うといいらしい。細かい粉が花びらの隙間に入るので、繊細さを保ってくれる。材料を入れたらあとは待つだけなので、本当に簡単なDIYだ。シリカゲルが水分を吸って、週間ほどでドライになった。シリカゲルは何度も再利用できるらしいので経済的でありがたい。これからももっと、出会った花を保存していこう。

時を超えてあの日の庭からやってきた。

 花びらはカラカラになっているけれど、色はまったくあせていない。そのまま飾ってもかわいいし、スプレーのりで形崩れを抑えて、本当にブローチにしてもいい。今はひとまず木製のトレイに載せて机の上に置いてある。写真みたいにあの日のまま。あの庭で過ごした時間もぎゅっと閉じ込められている気がしていとおしい。ドライフラワーは、花にだけできるタイムトラベルの方法なのかもしれない。

 

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