わかりやすい医療改革の説明

わかりやすい医療改革の説明


今回は河野太郎さんのブログ『ごまめの歯ぎしり』からご寄稿いただきました。

わかりやすい医療改革の説明

国会版社会保障制度改革国民会議は、中間のとりまとめを官房長官に提出しました。

そのとりまとめの中の医療改革の部分を、わかりやすく説明してみました。

医療改革

医療改革に関しては、分厚い本がもう何冊も書かれています。それをたったA4四ページ分でまとめようというのですから、いろいろな方面からお叱りを頂くかもしれません。それでも、ちょっと、やってみましょう。

増えゆく医療費

日本はOECDの中では一人あたりの医療費が少ない国だとよく言われます。しかし国際比較に使われるOECDの総保健医療費という統計には、日本の訪問介護、出産、歯科の自由診療、保険者や医療機関の運営や施設設備のための費用が含まれていません。それを加えると日本は決して「低医療費国」ではありません。

医療費は年齢とともに増えていきます。日本では一人あたりの生涯医療費は約二四〇〇万円ですが、統計上、そのうちの四九%は七〇歳になってから使われることになります。(もちろんその大部分は健康保険でまかなわれます)

高齢化により医療費がますます増える中で、国民が負担できる医療費の範囲で、国民が満足できる医療サービスを提供できる体制をつくっていかなければなりません。

「病気を治す」から「健康生活の維持」へ

医療改革を進める上で大切なことは、これからは「病気を治す」医療から「健康生活を維持する」医療への転換をしなければならないということです。

第二次大戦直後には、多くの日本人が感染症で亡くなりました。しかし、今日、死亡原因の多くは生活習慣病、慢性疾病です。

ですから病気になった人を治すだけではなく病気になることを予防する、あるいは慢性の病気を上手く管理してそれを悪化させない医療が重要になってきます。

たとえば糖尿病を管理しないで放置しておくと、確率的には、次の一〇年間に一〇〇人のうち三〇から四〇人が心筋梗塞や腎障害になります。しかし、糖尿病を初期からしっかり管理すればその割合は半減します。糖尿病をしっかり管理するのなら年間三〇万円の医療コストで済むはずが、透析になると年間五〇〇万円の医療コストになってしまいます。

健康診断を通じて、生活習慣病になりやすい生活をしている人を選び出し、生活習慣病を防ぐための適切な対策をとることで医療コストを下げることが重要になってきます。

出来高払いの診療報酬から定額払いへ

現在の診療報酬制度は、出来高払いといわれ、検査をするといくら、治療をするといくら、薬がいくら云々と、診療報酬がついた医療行為を積み重ねることによって医療機関に収入が入ることになります。つまり、たくさん検査をして、たくさん薬を出せば、医療機関の収入が増えることになります。

そのため、医療機関は、検査を増やすためにもMRIやCT、PETといった高価な検査機器などを導入しようとします。そして、患者も検査をしてもらうことに慣れて、たくさんの検査を要求したりするようになります。

結果として、患者や国の財政負担が増えるだけでなく、患者の心身の負担や検査の副作用が増えることにもなります。これは医療費が増えるという財政的な問題だけでなく、医療そのものの適正化という視点からも見直しが必要です。

病気の予防や慢性疾患の管理が重要になるならば、診療報酬もそれを反映する仕組みに変えていかなければなりません。

急性疾患に対しては出来高払いを続けることになるでしょう。しかし、たとえば予防については、一人の総合診療医(詳しくはあとで説明します)がその地域の二千人の健康管理、病気予防の責任を受け持ち、それに対して定額の報酬を受け取るような制度を導入すべきです。糖尿病や高血圧などの慢性疾病を持つ患者の健康を上手に管理することに対しては定額プラス成果払いにすべきでしょう。

このように定額払い、成果払い、出来高払いを組み合わせた診療報酬制度が必要になってきます。

この出来高払いから定額払いや成果払いへの移行は、それによって医療費を削減することを狙っているわけではありません。不必要な検査や薬を減らしながら、これまではなかなか顧みられてこなかった病気の予防と慢性疾病の管理に必要な資源を振り向けていくことが目的です。

ライト(適切な)アクセス

日本の医療の特徴は患者が自由に医療機関を選択することができるフリーアクセスにあるとよく言われます。

しかし、フリーアクセスだけでは本来の医療の力を発揮できません。フリーアクセスに加えて更にライトアクセス、つまり適切な医療機関へのアクセスを保障することが必要なのです。

たとえば家族がガンだと告知されたならば、不安を抱えつつ、口コミやマスコミ情報に頼りながら、医療機関探しに苦労するというのが今日の実態ではないでしょうか。

「運よくいいお医者さんに巡り会えた」という人とそうではない人とがいてはなりません。全ての国民が適切な医療にアクセスできる医療体制を構築しなければなりません。そのためにはどうしたらよいのでしょうか。

まず、事故や脳血管障害、心筋梗塞など、一分一秒をあらそう場合があります。救命救急や脳や心臓の専門家がいつでも救急の患者に対応できる救急病院が地域ごとにきちんと整備されている必要があります。

この救急病院への短時間のアクセスを可能にするための整備は最優先課題です。

しかし、この救急病院に、一分一秒をあらそわない患者が来てしまうことも避けなければなりません。

そこでまず、地域で住民の健康管理に責任を持つ総合診療医という制度を確立する必要があります。

総合診療医は、受け持つ住民の健康の維持、管理に責任を持つと同時に、具合が悪くなった人が最初に訪れる医療の窓口でもあります。

熱を出した子どもたちが親に連れて行かれるところですし、あちこちの具合が悪くなった高齢者も総合診療医ですべて様子を診てもらえるようになります。

ただの風邪ならば、暖かくして早く寝なさいというアドバイスをするだけかもしれません。一見風邪のようだけれど、これは何かあると判断されれば、患者は適切な初期治療を受け、必要があれば専門病院を紹介されて、そこで治療を受けることになります。

患者はまず、ふだんから自分の健康に責任を持ってくれている総合診療医に診断してもらうことで、無駄に大きな病院を訪れる必要がなくなります。また、病院も風邪や軽症の患者の診察から解放され、そこでなければできない診療に集中することができるようになります。

平均寿命が延びるに従いガンにかかる人の数も増えていきます。

ガンは充分な治療計画が必要になりますが、一分一秒をあらそう病気ではありません。

ですから市町村ごとにガンの手術をする病院を設置する必要はありません。手術の技術レベルは、手術の件数に比例します。ガンの手術をする病院をたくさんつくってしまうと、一つの病院あたりの手術数が少なくなり、手術の技術が向上しません。

ですからガンなどの手術をする病院は、ある程度大きな地域ごとに一つ、拠点病院として設置して、そこに手術が必要な患者を集めるべきなのです。

そして手術が終わったガン患者に抗がん剤を投与したり、定期的に腫瘍マーカーを検査したりするのは、患者が通いやすい、それぞれの地域の総合診療医の役割になります。

生活習慣病が増えた日本では、糖尿病や高血圧などを、それ以上に進行させないように管理していくことが重要になります。総合診療医だけでなく、こうした病気の「管理」に知見を持った疾病管理看護師等を育成し、病気の管理を地域でしっかりできるようにすることが大切です。

多くの医療データに基づいて作成された疾病管理のガイドラインに沿った適切な管理を行うことによって、疾病の再発や重症化を防ぐことができれば、医療の質と患者の満足度をともに向上させることができます。それだけでなく、非計画的な(不必要な)入院や薬の使用を防ぐことによって、無駄な医療費も削減できます。

患者やその家族は、医療と介護は一体として受けられるようにしてほしいと思っているはずです。

しかし、現在、医療計画は都道府県、介護計画は市町村でそれぞれ策定され、しかも改定時期も一致していません。同様に、高齢者住宅計画の作成は都道府県、地域保健福祉計画の策定は市町村とこれもまた、ばらばらで、医療と介護の一体的なサービスの提供を妨げることになっています。

今後は、医療介護計画を、市町村や都道府県がしっかりと連携しながら策定し、患者とその家族が医療と介護の境目を意識せずにサービスを受けられるように運用していかなければなりません。

医療保険制度の見直し

現在の医療保険は、大企業の組合健保、中小企業の協会けんぽ、公務員の共済、市町村による国保、そして七五歳以上の後期高齢者医療制度などいくつかの制度が混在しています。

しかも、そのうちの国保の運営は、神奈川県内でも横浜市のような大都市から清川村まで、様々な大きさの自治体によって行われ、その結果、国保の保険料負担の市町村格差も著しくなっています。

そもそも国保は、もともとは自営業者と農林漁業者のための制度であったはずが、今や非正規雇用者と年金受給者のための制度に変質してしまいました。

企業勤めの間は健保組合や協会けんぽに加入していた人も、定年退職すると健保組合や協会けんぽを抜けて、国保に加入することになります。そのため健保組合や協会けんぽには、比較的健康な現役世代だけが加入することになるのと比べ、国保の加入者は高齢者の割合が高くなります。

現役と比べて高齢者の医療費が高くなるのは当然で、その結果、国保は医療費の負担が大きくなります。そのため国保に加入している現役世代にとっての保険料負担は重くなり、保険料滞納も深刻です。

もともと健保は、職場を一つの単位として、そこで働く者がお互いに支え合っていくためにつくられたものです。しかし、今日、同じ職場に健保に加入している正規社員とそうではない非正規社員が混在するようになり、職場が一つの単位とは呼べなくなってきています。

さらにサラリーマンと自営業の間を転職することも増え、職業ごとに医療保険を分ける必要もなくなりました。

そこでこれまでのような地域単位(国保)と職域単位(健保組合等)に分けた連帯のあり方を根本から見直す必要が出てきました。

今後の医療保険は、職業ではなく地域を単位として再編すべきです。そして、職業や年齢を問わず、同じ地域に住み、同じ所得ならば同じ保険料を負担するしくみにすべきです。

そして、地域ぐるみで健康を維持し病気にならない努力を続けて医療費を削減した地域は、保険料を安く維持することができるようにしなければなりません。もちろん、地域によって高齢化比率に差がありますから、それは補填する仕組みが必要です。

総合診療医の医療水準を高く維持していくことも保険者の役割になります。保険者は、治療や薬の使用が明記されたレセプトをきちんと管理し、それぞれの総合診療医が適切な医療行為をできているかを検証し、また、最新の医療知識を身につけるための講習会を総合診療医にきちんと受けさせなければなりません。

年金や生活保護が生活のための資金を保障するものであるならば、医療保険は生活のための健康を保障するものです。

少子高齢化に負けない安定した医療制度とはどんなものなのか、少しでもイメージを持つことができましたでしょうか。

執筆: この記事は河野太郎さんのブログ『ごまめの歯ぎしり』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年04月30日時点のものです。

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