推し呪物と出会える「祝祭の呪物展」(辛酸なめ子)
昨今、「呪術廻戦」や、市川海老蔵氏の「黒い呪術師」などが話題になっていましたが、呪いブームが来ているのでしょうか。さらに国内外の呪物を集めた「祝祭の呪物展」が大阪、東京で開催され大盛況のようです。
東京での開催が始まったばかりの休日に行ったら、200人くらいの行列ができていてあきらめて、平日に再訪問。約1時間後の整理券を入手することができました。
時間になったので会場のおしゃれなホテル、BnA_Wall(ビーエヌエー ウォール)へ。そもそもこの周辺が呪場所というか、近くに刑場跡地がある上、地下というので、ドキドキ感が高まります。行った人の感想を検索すると「エレベーターのドアが勝手に開閉していた」「誰かにぶつかったと思ったら誰もいなかった」「動画に猫の鳴き声が入っていた」「写真データが消えた」などの呪い情報が次々と……。念のため神社のお守りとセージと水晶を携えて伺いました。でも会場はかなりの人口密度で元気そうな若い世代も多く、呪いのエネルギーも薄まりそうです。
▲「チャーミー」や「猫の置物」が出迎えてくれます。一瞬かわいく見えます。
まず視界に入ってきたのは、かわいくてSNSでも人気の呪物「チャーミー」と「猫の置物」です。今回の展示は、気鋭の呪物コレクター、はやせやすひろ氏と田中俊行氏の珠玉のコレクションが並んでいるのですが、「チャーミー」は田中氏、「猫の置物」ははやせ氏のお気に入りの呪物。
薄汚れた着衣の人形「チャーミー」は滋賀県の介護施設にいたそうですが「可愛がると死ぬ」と怖れられているとか。素朴だけれど不穏さが漂う「猫の置物」は、耳が欠けていることから、「所有者は突発性難聴になり、最悪の場合、命を落とす」と言われています。かわいさとこわさが表裏一体です。
これらの呪物は日本のものですが、会場を回ると、民族学的にも貴重なアイテムが多数展示。学者の方も来場し、博物館レベルのものをこんな至近距離で鑑賞できることに驚いていたそうです。勉強モードで見れば、呪いのエネルギーにそんなにやられないかもしれません。
それでも、何日か前、会場に足を引きずったおじいさんが来て「ここは墓場じゃないのか……」と言い残して立ち去った、というエピソードなどを聞くとゾクゾクしてしまいます。会場には一応魔よけのセージが焚かれていましたが、数十点もの呪物のエネルギーの方が強力そうです。
数ある呪物の中、個人的に恐怖度が高かったものを挙げさせていただきます。
▲「インドネシアの呪術本」(はやせやすひろ所有)
数百年前、首狩り族のバタック族が実際に使っていた、木の皮に書かれている呪術本。他民族を呪い殺すあらゆる方法が書かれているそうです。日本がそこまで殺し合わない性質で良かったです……。古物商の人が、はやせさんに売るか博物館に売るか迷っていたという一品。
▲「首狩ナガ族の仮面」「ナガ族の首飾り」(はやせやすひろ所有)
こちらは、首狩りではじめて一人前になったと認められるナガ族のアイテム。この首飾りをつけている人がいたら即距離を置きたいです。キュレーターのApsu Shusei氏に話を伺うと、ナガ族は首狩りしないと道の真ん中を歩けないほど、首狩り経験値が重視されていたそうです。今はキリスト教改宗で首狩りはしなくなったとか。「インドネシアの呪術本」にも、敵対部族の息子を誘拐して首を斬る呪いなど書かれていたり、首狩関係の呪物が充実していますが、眺めていたら妙に首が痛くなってきたような……。
▲「事件の新聞で作られた人形」(はやせやすひろ所有)
ある廃集落の柱に釘で打ち付けられていた上、人形の体が、事件を記した新聞記事でできている、という何重にも怖い人形。人間の負のクリエイティビティが結集しているオブジェです。
▲「クマントーン」(田中俊行所有)
胎児や赤児の遺灰、お墓の土、ハーブなどを混ぜて作り、呪術師が魂を入れた人形で、呪文を唱えると所有者の願いを叶えてくれるそうです。またもや普通の精神状態では考えつかないような呪いの創作欲の結晶。「クマントーン」は「黄金の男児」という意味だそうですが、黒光りしていてかなりの存在感でした。
▲「おばあちゃんのデスマスク」(田中俊行所有)
関西の歯医者さんの屋敷から出てきた、おばあちゃんのデスマスク。前の所有者は「目が合うと話しかけてくる」と言って手放したそうですが、デスマスクは目が閉じている状態です……。おばあさんにしてはシワが少ないですが、ちょっと開いた口から歯がのぞいていて不気味。なぜデスマスクをわざわざとるのか、ただ怖いだけの風習な気がします。会場で心の中で話しかけてみたら「歯は大事ですよ」というメッセージを受信したような……。
他にも「拷問木偶」とか「人骨ナイフ」「覗くと死ぬ鏡」「百年前の呪い釘」といった瘴気がうずまくラインアップ。呪物を間近で見ているうちに、自分の些細な恨みや呪いなんて、ここにあるような民族間の死闘や積年の恨みに比べたらたいしたことない、と思えてきました。「祝祭の呪物展」を見た後、足がつったり、頭痛や吐き気、首の痛みなどを感じましたが、自分の中の呪いが表に出てきて浄化されていく過程だったのかもしれません。呪いで呪いを清められそうな霊験あらたかな展示でした。
(イラスト・文:辛酸なめ子)
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