【インタビュー】niKu「出来上がるまでのスピード感はものすごかった。“なまけもの”という曲名なのに」
2020年、音楽プロジェクト“NEO INTERNET MUSIC”にて誕生した、コンポーザー×シンガー×アニメイターによるクリエイターユニット・niKu。VOCALOID楽曲「グッバイ宣言」で大きな注目を集め、VOCALOIDクリエイターとしての活動と並行して様々なアーティストへの楽曲提供も行うChinozoが楽曲制作を担当し、それを透明感のある声を持った奏音が歌唱し、キャッチーかつスタイリッシュなイラストと動画を展開するがちゃがMV制作を行うという布陣は、三者三様の才能とセンスを生かすには最適な環境だ。“NEO INTERNET MUSIC”最終審査にて初作品「灯火」を完成させると、2021年は「シオン」「オーライア」の2曲を、2022年2月には面倒くさい気持ちが先行して行動に移せない心情を綴ったポップソング「なまけもの」をリリースした。個々の活動も精力的に行っている3人は、niKuでどんな音楽を目指しているのだろうか。リモートインタビューで話を訊いた。
■曲作りでいちばん重視しているのは奏音さんの透き通った声
■奏音さんの声を生かして歌ってほしい曲を作りたいと思っています
――コンポーザーのChinozoさんが“NEO INTERNET MUSIC”に参加なさったことに驚きました。2020年3月に発表した「グッバイ宣言」が大きく注目された後ですし、ヴォーカリストも難なくスカウトできる状況で、なぜユニットメンバーがファン投票で選ばれるプロジェクトに参加なさったのでしょう?
Chinozo(Composer):いやいや、自分から声を掛けられるようなタイプでもなかったし、当時の僕は全然そんな状況じゃなかったですよ(笑)。2018年からずっとひとりでVOCALOIDをやっていたので、VOCALOID以外の音楽活動にチャレンジしたかったんです。誰かと一緒にユニットをやってみたいなあと思っていたところに“NEO INTERNET MUSIC”というプロジェクトが始まることを知って。いいきっかけだなと思って参加したんです。
――奏音さんとがちゃさんも、近い理由で参加をお決めになったのでしょうか?
奏音(Vo):もともと弾き語りをSNSにアップして活動していたんですけど、世の中的にYOASOBIさんやずっと真夜中でいいのに。さんみたいに、新しい動きをするアーティストさんが増えてきたなと思っていたんです。わたしもボカロPさんとユニットを組めたらな……と思っていたところに“NEO INTERNET MUSIC”を知って応募しました。
がちゃ(Animator):SNSで好きなアニメーターさんが“NEO INTERNET MUSIC”のことを紹介しているのをたまたま見掛けて。当時は動画を作ったりはしていなかったんですけど、大勝負に出てみようかなと応募したのがきっかけでした。だからあのときSNSを見ていなかったら見逃していただろうし、そしたら応募してなかったと思います。
▲Chinozo
――その結果お三方はプロジェクトのファイナリストに残り、そこでファン投票により一緒のユニットを組むことが決定します。お互いに対する印象というと?
奏音:Chinozoさんもがちゃさんも、ほんと個性的です(笑)。3人で話している時間が本当に濃くて! ユニット名の決まり方も……。
がちゃ:そうそう(笑)。ChinozoさんがLINEで“(最終審査のMV制作バトルに)優勝したら賞金で肉食い行こー”って(笑)。そしたら“肉”という言葉がなぜか全員のツボにハマって、頭から離れなくなっちゃって……。
Chinozo:その結果ユニット名が“niKu”になりました(笑)。
――となるとユニット名に込められた“音楽は生きていくうえで引き離せない血肉のようなもの。音楽という肉をたくさんの方々に味わってほしい”という思いは後からついてきたと(笑)。
Chonozo:本当に思っていることではあるけれど、そうですね(笑)。優勝はしたものの、コロナ禍が落ち着かないから結局まだ肉は食べ行けていなくて。3人で初めて食べに行ったときは生配信をしたいので、もうちょっと様子見かなと思っています。
▲奏音
――“NEO INTERNET MUSIC”の最終審査のMV制作バトルで書き下ろした「灯火」がniKuの初楽曲であり初MVになるんですよね。制作はどのように進んでいったのでしょう?
Chinozo:まずユニットのコンセプトを曲とMVにしようというところから始まって。
がちゃ:それからわたしがキャラクターデザインを描き起こしました。MVに登場するキャラクターは絶対に奏音さんのイメージに合わせたかったのでそれを軸にして、Chinozoさんに“こういう雰囲気はどうでしょう?”と提案して、イメージを擦り合わせていきました。
Chinozo:そこからMVの雰囲気をざっくり決めて、そのあと僕が曲を作って、MVを完成させて……って感じでしたね。《喰らって》や《温度》、《焦がし》みたいな肉を食べるっぽい言葉を使いながら、夢を諦めない、生命力あふれる感じとか、ユニットのコンセプトを曲や歌詞にしました。
がちゃ:宮沢賢治の『注文の多い料理店』の世界観が、niKuというユニット名とも合うんじゃないかなと思ったので、MVはそこからインスパイアされていますね。とにかくChinozoさんと奏音さんのイメージを壊さないように壊さないように……。3人全員に合うものはなんなのか、つねに模索しています。
Chinozo:いやいや、逆にがちゃさんはniKuのイメージを作っていましたよ(笑)。がちゃさんからイラストのイメージが届くことが多いので、僕はその影響を受けながら曲を作ったりしていますね。
がちゃ:Chinozoさんが以前“何もない状態からよりは、ひとつ種みたいなものがあると曲が作りやすい”という話をしていて。だからいただいたテーマをきっかけに、使われる使われないは置いといて、出来るだけわたしからイラストを送るようにしているんです。
Chinozo:がちゃさんはすごく真面目で、責任感があるんです。僕がいろいろな制作を並行しているのもあって、しっかりしなきゃいけないことを全部がちゃさんに任せちゃってるかも……。がちゃさんがいなかったらniKuは崩壊してると思います。niKuを引っ張っていってくれて、いつもすごく助かっていますね。
がちゃ:Chinozoさんはお忙しいなかでも、何かあったらすぐにレスポンスをしてくれるんです。それはniKuに愛情を持ってくださっているからだと思うんですよね。だからものすごくありがたいですし、毎回すごい曲を作られるので、びびりながら動画を作っています(笑)。
▲がちゃ
――ChinozoさんはVOCALOIDの楽曲はもちろん、現在は楽曲提供なども行っていますが、niKuでやりたい音楽のイメージを言葉にするとどういうものなのでしょう?
Chinozo:曲作りでいちばん重視しているのは“奏音さんの透き通った声”ですね。僕が奏音さんに歌ってほしい曲、奏音さんの声を生かした曲を作りたいとは思っています。僕も試行錯誤だったので、最初のうちはすっごい高いキーを歌わせてしまったなと……(笑)。
奏音:(笑)
――Chinozoさんの作るVOCALOID楽曲は人間でも歌いやすいものが多いのに、niKuは人間が歌うにはかなりキーが高いなとは思っていました(笑)。
Chinozo:あははは、たしかに(笑)。最近はちょっと低めにもチャレンジして――それが最新曲の「なまけもの」ですね。奏音さんの高い声が魅力的だと思ってたけど、「なまけもの」をきっかけに低音もすごく魅力的なヴォーカリストだということに気付いて。だからniKuはいろんな実験をさせていただいている場所、という感じでもあるんですよね。niKuでしか入れない音も結構あって……おなかが鳴っている“ギュ~”という音とか(笑)。
がちゃ:niKuではよく聴く音ですね(笑)。
Chinozo:“ちゃぽん”みたいな水の音みたいに細かい効果音を入れて、奏音さんの爽やかさが出せたらいいなって。がちゃさんのイラストも個性的でユニークだから、そういうものと相性はいいんじゃないかな。そういうなかで自分なりにniKuならではのカラーを出せたらと思っています。
――歌詞の面ではいかがでしょう?
Chinozo:逆に歌詞は完全に僕の作りたいものですね。耳に残りやすいように擬音を入れたり、あとは素の自分を認められるようなものがテーマになった歌詞が多い気がします。僕自身がそういう楽曲に救われてきたんですよね。僕もniKuのメンバーの一員なので、僕を歌詞を書く以上は歌詞に僕のエッセンスを出していきたいなって。この先奏音さんが歌詞を書くことがあれば、そのときはもちろん奏音さんのエッセンスを存分に出してくれたらと思っています。
◆インタビュー(2)へ
■どんなものが共感されるかとか正直わからないので
■僕が感じることそのままでいいかと素直な気持ちを書いた
――「灯火」「シオン」「オーライア」「なまけもの」と、楽曲がリリースされるごとにniKuのポップセンスの可能性が広がっていると感じました。それには奏音さんのヴォーカルの表現力も大きく関わっているのだろうなと思います。
Chinozo:奏音さんはレコーディングのたびに上達しているんです。がちゃさんや僕にはそういう姿は見せないけれど、かなりまじめで努力家だなと思っています。
がちゃ:奏音さんは本当に一生懸命頑張っていて、3人のなかでいちばん若いのにものすごくしっかりしているんです。わたしはふたりに比べて音楽に対する知識が薄いけど、そんな人間でも「なまけもの」のヴォーカルを聴いたときに、一気にレベルが上がったなと思って。だからこの先も、Chinozoさんがどんな曲を作って、奏音さんがどんなふうに歌ってくれるのか楽しみなんですよね。
奏音:Chinozoさんは作る曲全部すごいし、歌詞で気持ちを表現するときとかの言葉選びもすごくうまいし、アドバイスもすごく的確で。がちゃさんはお母さんみたいに優しくてしっかり者で、いつも頼ってばっかりなんです。おふたりとも本当に優しくていい人。だからもっとわたしも努力しなきゃ……と思うんですよね。表立った場所に立つのはわたしなので、それに見合うヴォーカリストにならなきゃなと思っています。
――理想的な関係性ですよね。お互いを鼓舞しながら、この取材もリモートとは思えないほど和気あいあいとしていて。
がちゃ:あははは。ファミリー感があるユニットだなと思います(笑)。
Chinozo:たしかに(笑)。すごくいいメンバーと巡り合えてうれしいですね。
――2月9日、ニクの日にリリースされた「なまけもの」は、シニカルなポップソングで。これまでのniKuの楽曲とはまた異なるタイプかつ、奏音さんのヴォーカルのレンジが広がった楽曲だと思いました。こちらはどういう経緯で生まれたのでしょう?
Chinozo:去年の10月に「オーライア」をリリースして以降、僕がずっとバタバタしていてniKuの制作に取り掛かれなくて。そんなときに“そろそろniKuの楽曲を出してほしい”とケツを叩かれまして(笑)。“共感しやすい歌詞だとうれしい”というオーダーを受けていたんですけど、どんなものが共感されるかとか正直わからんし、もう僕が感じることをそのまま書いたらいいかーと素直な気持ちを書いた結果が「なまけもの」です(笑)。
がちゃ:出来上がるまでのスピード感はものすごかったですよね。「なまけもの」という曲名なのに(笑)。
――(笑)。Chinozoさんがお作りになるVOCALOID楽曲と近い雰囲気もしました。
Chinozo:ああ、たしかに。niKuならではの音作りも意識しつつ、VOCALOIDクリエイターとしてのChinozo色が出た曲でもあるのかも。というのも「オーライア」が僕個人の趣味全開の曲なんですよね。でもちょっと全開すぎたかなー……と。バランスを取るために、「なまけもの」はもう少し今っぽい感じにしました。自分で言うのも変ですけど、僕がVOCALOIDクリエイターとして作った楽曲は最近の人にも受け入れられやすいところがあるのかなと思うので、そのテンションで作ったところもあるかもしれない。
がちゃ:今までのniKuにはない毛色の楽曲だったので、絵柄もガラッと変えてみました。でも奏音さんの声のイメージ的にも可愛いものにしたい気持ちは大きかったですね。
Chinozo:それでがちゃさんが送ってくれたのが、MVのサムネの元絵ですね。レコーディングの段階でMVはほぼほぼ完成していたんです。
――では奏音さんは、ほぼすべて揃った状態でレコーディングに臨んだということですね。
奏音:はい。でも今までこういう感じの曲を歌ってこなかったし、あまり聴いてこなかったので、Adoさんの歌い方の雰囲気を参考にさせていただいて。
Chinozo:Aメロの歌い方とかは新鮮だけど、サビはちゃんと奏音さんらしさが出てるんですよね。サビのロングトーンはすごく上達していて。
奏音:Chinozoさんが頭に残りやすい歌詞やメロディを大事にしていると話していたとおり、「なまけもの」は特にサビがそうだなと思って。ドラムが入ってくるところとかは後ろから押されているような感じがしたし、これまでは聴いてこなかったアーティストさんや音楽に触れられたりもして、すごく楽しいんです。なまけもの感が出るように、だるーい感じを出したくて。生々しい歌にできたらなと思って、直近何日間はスウェットで過ごしたりして(笑)。レコーディングの日もパーカーにして、雰囲気作りをしていきました。
――MVの世界観とリンクする環境作りをしていったんですね。がちゃさんの作るアニメーションのシンボル的な電子機器は、「なまけもの」の世界ともしっかりリンクしていると思います。
がちゃ:ああ、電子機器を動画に使うのは完全に趣味です(笑)。ヴィジュアル的にも若者に響きやすいイメージもあるんですよね。若い子たちが共感しやすいイメージを入れられたらな……というのはいつも心掛けています。
――niKuの結成から1年半ほど経ち、4曲リリースしてみたことで見えてきたものはありますか?
Chinozo:僕自身は結成当初とあんまり変わらないかな。niKuで書きたい曲を書き続けるだけ。逆に奏音さんとがちゃさんがやりたいことがあるなら、僕はそれに乗っかりたいし……だからいっぱいチャレンジをしていきたいですね。奏音さんにいっぱいいろいろな曲を歌ってほしい!(笑)。
奏音:(笑)。今までに歌ったことのないタイプの曲を歌っていきたい気持ちは大きいです。もともと自分は低い声に自信がなくて高い声ばっかり使っていたんです。でも「なまけもの」で初めて低い声にチャレンジできて。それは自分だけで活動していたら踏み出せなかったと思います。得意なものを伸ばすだけではなく、苦手なところにもチャレンジできたらできることも増えるし、ひとつのイメージに縛られず、いろいろなことができたらなと思っています。
――Chinozoさんとがちゃさんが奏音さんのことを努力家とおっしゃっていますが、それだけ努力できるほど歌がお好きということだろうなと。
奏音:ほんとめっちゃ歌が好きです(笑)。何時間でも歌っていられるんですよね。“もっとこんなふうに歌いたい”というイメージがあるので、自分の歌やほかのアーティストさんの歌を分析するのが好きで。それで時間を忘れちゃうんです(笑)。
――好きなだけではなく、もっとご自身の理想に近づきたいという欲求が掻き立てるということですね。
奏音:そうです、そうです。niKuで矢面に立って活動をするのはわたしだけなので、なおさら頑張らなきゃなと思っています。
がちゃ:お~! 心強い!
Chinozo:この感じなら遠慮なくいろんな曲をばんばん作っていけますね(笑)。今後もリリースやライブが決まっているので、頑張っていきます!
取材・文:沖さやこ
リリース情報
「なまけもの」
2/9より配信リリース
◆https://linkco.re/PTbR3VmT
◆インタビュー(1)へ戻る
関連記事リンク(外部サイト)
【インタビュー】上野優華、支えてくれている人へのプレゼントでもあり恩返しでもある「ジャスミン」
ファーストサマーウイカが七変化、「Open the Door」MV公開
predia、ラストベストAL『DIAMOND』全収録曲発表。最後のアートワークも公開

BARKS(バークス)は、国内外の最新音楽ニュース、アーティストの動画や画像、インタビュー、ライブレポートをお届けする音楽メディアです。
ウェブサイト: https://www.barks.jp/
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。