平成を象徴する30のヒット曲を分析 そこから見える社会の深層心理に迫った音楽評論

平成を象徴する30のヒット曲を分析 そこから見える社会の深層心理に迫った音楽評論

 1989年から2019年まで約30年間続いた「平成」。その時代に私たちの心を打つ数多くのヒット曲が生まれました。それらはどのような思いのもとに作られ、その結果、社会に何をもたらしたのでしょうか。

 平成を象徴する30のヒット曲を取り上げ、そこから見えてくる時代の実像や社会の深層心理に迫った評論が、今回紹介する柴 那典さんの著書『平成のヒット曲』です。

 平成という時代を3つの期間で区切っている同書。最初の10年(1989~1998年)は、CDセールス100万枚を超えるヒット曲が続出した「ミリオンセラーの時代」。90年代の幕開け的なB.B.クイーンズの『おどるポンポコリン』や、テレビドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ)の主題歌としてヒットした小田和正の『ラブ・ストーリーは突然に』、90年代J-POPの主役のひとりといえる小室哲哉のプロデュース曲などを取り上げ、音楽業界の黄金期を振り返ります。

 続く10年(1999~2008年)を柴さんは「スタンダードソングの時代」と位置づけます。1999年、デビューアルバム『First Love』の初動売上が200万枚超、しかも15歳の帰国子女ということで世間を驚愕させた宇多田ヒカル。彼女はまさに、90年代から00年代への主役交代の象徴といえる存在でした。しかし柴さんはこう言います。

「宇多田ヒカルは特定の世代のカリスマにならなかった」
「どれだけ沢山のCDが売れようと、聴き手は『一対一』の親密でパーソナルな関係の中で、宇多田ヒカルの歌を受け取ってきた」(同書より)

 柴さんは同書で、2002年に発売されたSMAPの『世界の一つだけの花』についても、「万人の共感を狙って作られた曲ではなく、こめられているのはあくまで『個』としての一人ひとりに向けたメッセージ」(同書より)と紹介しています。「大衆の共感よりも、一対一の関係にフォーカスする」という流れは、まさにJ-POPの歴史のひとつのターニングポイントと言えるかもしれません。

 「スタンダードソングの時代」の10年間で国民的ヒット曲は誕生したものの、その後はヒット曲が世の中で見えづらくなり、CDの売上は減少傾向に。音楽業界の風向きは確実に変わっていきます。

 最後の10年(2009~2019年)は「ソーシャルの時代」。YouTubeなどのSNSの普及により、CDの時代はついに終焉を迎えます。2012年にバーチャル・シンガーの初音ミクによる『千本桜』がヒットして創作の連鎖が生まれたり、2016年にピコ太郎の『ペンパイナッポーアッポーペン』が世界中でバイラルヒットしたり。

「もはや90年代のような”法則”や”方程式”で語れるものではなくなっている。むしろ感染症と同じように、最新の数学や物理学をもとにした”数理モデル”で解析すべき現象」

 2019年にCD売上枚数とデジタルダウンロード数あわせて300万セールスを突破したのは、米津玄師の『Lemon』。

「300万という数字は、社会現象やブームの勢いに押されたわけではなく、歌が描いた悲しみがそれぞれ”ひとり”の胸の内に深く刺さることで成し遂げられたものだ。平成最後の金字塔は、そういうタイプの曲であったのだ」(同書より)

 ほかにも美空ひばりからMr.Children、小沢健二、Perfume、嵐、星野 源など、さまざまな歌手のヒット曲を各年につき一曲ずつ取り上げています。「一つ一つの歌を紐解いていけば、ヒット曲が『時代を映す鏡』であることが、きっと伝わるのではないか」(同書より)と柴さんは記します。平成のヒット曲を思い出して懐かしむとともに、これまでの、そしてこれから先の未来を読み解いてみてはいかがでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]

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