『未来世紀 SHIBUYA』白石晃士監督インタビュー「自分で考えて道を切り開いていく生き方を得ることが、ひどい世界を生き抜いていくヒントなんじゃないか」
Huluオリジナル『未来世紀 SHIBUYA』(全6話)が配信中です。 物語の舞台は、15年後2036年のシブヤ。金子大地さんと醍醐虎汰朗さんが、「WeTuber」という動画配信者に扮し、デジタル化社会底辺を生きる若者に。日本のフェイクドキュメンタリーの第一人者であり、『不能犯』(18)『貞子 vs 伽椰子』(16)などを手がけてきた白石晃士監督がメガホンをとります。
本作へのこだわり、キャスティングについてなど、白石晃士監督にお話を伺いました。
――本作、大変楽しく拝見させていただきました。とても面白い設定ですが、どの様な経緯でこのドラマを作ることになったのでしょうか。
プロデューサーから企画をいただいたのがキッカケです。当初は近未来モノで、科学技術やAIについて警鐘を鳴らすという要素を扱ったPOVモノとお話を受けたのですが、その後 意見交換を重ねていくなかで「二人組のおバカな男の子が主人公で、YouTubeを模したWeTubeを存在させて、WeTuberである彼らの配信番組を見せていくというスタイルでのフェイクドキュメンタリーにしましょう」という大枠が決まりました。若い人たちに楽しみながら見てもらえる作品にしたかったので、企画書の「未来への警鐘」という部分で難しくなりすぎないように、コメディタッチを提案しました。
全体の構成としては、おバカな二人が、おバカなことをやる配信番組を見せながら、最終的には二人の軽やかさは変わらないままに、シリアスな問題に直面し、それを二人のバカパワーで乗り越える、というものを目指しています。若者の言葉遣いなどは、基本的にはおじさんたちが頑張って若者っぽさを探りましたが、20代女性AP(アシスタントプロデューサー)に、「若い人たちから見て違和感やおかしなことがあったら指摘してください」とお願いしました。たとえば、〈AI恋人〉の呼称〈デジ恋〉は彼女のアイデアです。
――作品作りの参考にYouTuberの研究などをしましたか? 監督が自主映画制作をしていた時との、カルチャーの違いや変化を感じたことがあればお聞きしたいです。
実はあまりできなかったんですが、撮影の前に見はじめて、感覚をつかんでから撮影にインしました。今は武術武道・格闘技系の動画を見てるのであんまり未来世紀SHIBUYAにつながるような感じではないんですがテロップの入れ方などは参考にさせてもらっています。
今は撮影する機材が身近にいくつもありますよね。手を伸ばせばすぐに、いつも持っているスマホで、ある程度撮れちゃうみたいなところは自分が自主映画制作をしていた頃とは一番違うところかなと思います。映像を撮ると撮られるということがものすごく軽くできますよね。特にYouTubeに関しては。それを重くしていろんな情報をギュッと集めてその映像と音だけを見る環境で見るものにするのが映画あるいはドラマだと思うんですけど、YouTubeの場合はもっと日常の中にある被写体と日常を撮る部分があって、日常が特に配信ではすごく面白い。
映画ってやっぱり自分でも見る時にある種の気合いがいるというか、映画館だったら自動的に着席するからいいんですけど、自宅で映画見るのって自分でいろんな情報をシャットアウトして周りでなんか音が聞こえても聞こえてないってつもりで見なきゃいけないから、そういう意味でなかなか映画見始められなかったりするんですけどYouTubeだったらなんかやりながら歯磨きしながらでも見れちゃうので、そこがやっぱり大きな違いだと思いました。
そこの軽さの感覚っていうのは『未来世紀SHIBUYA』を見始める時にも持ってくれたらいいな、というか。それくらいのすごい軽い感覚で見始めたらすごいドラマ的、映画的なフィクション性の高いところにまで連れて行かれるというふうなものにできるといいなと思っています。
――近未来SFということで、脳内チップ、AIなど、テクノロジーに関するストーリー展開になっていますが、 何か調べて驚いたこと、将来はこうなるのかな?と監督が感じたことなどがあれば教えてください。
リサーチの会社に頼んでかなりの量のリサーチ結果をもらって、5〜10年後くらいには実現可能と言われている未来・科学技術をいろいろ集めていただきました。どれも驚くようなことばっかりでした。
未来技術が進んでいく中でもっと内面にトリップしていくというか、内面が発展していくというか、大きく捉えるとそういう感覚があって。デバイスの形状が違うとかはあると思うんですけど、結局「人間の内面に変化をもたらす」ということなんだと思いました。すごいなって思うのはたくさんあったんですけど、結局映像とか音にするということになると描きにくいことの方が多かったです。人間の内面に関するもの多いので。
僕はシビアというか、どちらかというと悲観的に世界を捉えていて、その中で理想と希望を持って生きていきたいとは思っているんですけど、15年後の未来は、特に日本はもっとひどく格差が広がって『未来世紀SHIBUYA』で描かれているような世界よりももっと驚くぐらいひどい世界になっているんじゃないかというのが 自分の見解です。だからこそ、今からそういう世界の中でどうやって生きていくか考えてないといけないし、学がない人……自分だって学がない人間なんですけど、そういう人を見下して、情報と知識を持っている人間が優位に立つ世界になるのかな、と。
そういう、「学のある人間の言うことを聞いておけばいいんだよバカ」みたいな風潮が基本的には蔓延しているとは思うので、そういうものに対する怒りみたいなものは根底にはあるかなと思います。自分で考えて自分の道を切り開いていくという生き方を得ることが、ひどい世界を生き抜いていくヒントなんじゃないかなという希望を持って今回の作品を作りました。
――金子大地さん、醍醐虎汰朗さんという素晴らしい役者さんがミツルとカケルという2人の若者を熱演されていますね。
色白のイケメンの金子くんと割と浅黒い、動きの俊敏な醍醐くんということで、コンビの凸凹感みたいなものはすごく出ていると思います。ミツルは、体はなんていうのかな、自分の体を持て余してそうな感じ。あとは、知識がないなりに考えて自分の言葉で色々な考えを述べることができるっていうミツルの強さを、すごくバランスの難しいキャラクターだったと思うんですけど、金子くんがそこに血肉を与えてくれて、いいバランスで演じてくれました。本人は結構男っぽい方なんですが、普段の金子くんからはだいぶ離れて演じてもらいましたね。醍醐くんは動ける人なので、お芝居の中でもめちゃくちゃ動いてもらってそれでカケルのキャラクターを作っていただきました。
――宇野祥平さん、大迫茂生さんなど白石作品常連の方の出演はファンにとって嬉しいです!
Huluのプロデューサーの中村さんが私の作品を見てくれている方で、僕の作品でよく見る方を入れたいと言ってくれました。僕は役に合う役者さんが選ばれれば、という思いでいるので、どうしてもその人たちが良いということではなかったんですが、脚本を固めていく中でキャスティングを進めて、大迫さんも宇野くんも割と終盤に決まったという感じでした。
宇野くんについては、あのキャラクターに対して宇野くんはまだ若いんじゃないかと思っていて。プロデューサーからは名前が出ていたんですが、「いやちょっと彼だと若いと思います」と言ってたんです。でも、撮影をコロナで一年延期したので、その中で、宇野くんが日本アカデミー賞とかを受賞して、そこで挨拶している宇野くんを見ていたら、白いもの(白髪)も混じってきていて宇野くんもそれなりの年なんだなと思って(笑)。自分が最初に会った時の宇野くんは若かったので、その出会った時の感覚のまま大きくなっていたんですよね。僕自身も自分が50近いというのも忘れてるくらいなんで、よく考えたら宇野くんでもできるなと思いました。キャラクターの演じる要素も宇野くんはバッチリだったので、考えを改めて、宇野くんにお願いしたいとプロデューサーに言って、最終段階で配役が決まりました。
――宇野さん演じるマネキンおじさんは凄まじいインパクトのあるキャラクターですよね。
僕からはテーブルに乗ってとかも言ってないし、鍋を手でかき回してとも言ってないし、全部宇野くんが自分の考えでやってくれたことですね。 本を渡したことで、役者さんがそうやって想像を超えることを見せてくれると嬉しいです。宇野くんはいつもこっちの想像を超えてくることをやってくれるのでそこはすごく嬉しい、やりがいがあります。より作品が面白くなることをやってくれるのは、役者さんのみならずスタッフさんでもそういう仕事をしてくれる人はまたお願いしたいなと思います。
――白石監督作品のファンも、初めてご覧になる方も楽しめる作品だと思うので、多くの方に見て感想を言い合いたいと思います。今日は素敵なお話をありがとうございました!
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