集合住宅の省エネ対応、ZEHの普及は進んでる? メリット・デメリットは?
ZEH(ゼッチ ※ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称)とは、高断熱化と高効率設備の導入により、使うエネルギーを減らしつつ、太陽光発電等でエネルギーをつくり、1年間で消費する一次エネルギー消費量をおおむねゼロ以下にする住宅のことだ。これまで一戸建てを中心にZEHの普及が進んできたが、最近になって分譲マンションや賃貸住宅といった集合住宅のZEH化も始まっている。集合住宅がZEH化すると、入居者にはどんなメリットがあるのか? デメリットは?
そもそも「ZEH」って何? どんな種類やメリットがある?
集合住宅のZEHの状況について説明する前に、まずはZEH(Net Zero Energy House=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは何か?について、おさらいしておこう。
(写真/PIXTA)
まず住宅の断熱性能を高め、高効率設備を導入することで、使用するエネルギーを減らす。さらに太陽光発電等の再生可能エネルギーでエネルギーをつくり、1年間で消費する住宅のエネルギー量から創エネルギー量を引くことにより、正味(net=ネット)でおおむねゼロ以下となる住宅のことである。
ちなみに、ここで言うエネルギー量とは一次エネルギー消費量のことで、住宅で使う電気等をつくり出すエネルギー(石油や石炭、天然ガスなど)の量を指す。また、創エネルギーの使い道は太陽光発電を設置した住宅の所有者等にまかされていることから、必ずしも光熱費がゼロになるわけではないが、既にZEHに暮らしている人の中には、1年間の光熱費が実質ゼロになっている人もいるものと考えられる。
ZEHは、屋根や壁、窓等の断熱性能を高め、照明やエアコンといった設備を省エネ性能の高いものにすることで、建築物のエネルギー消費性能基準から一次エネルギー消費量を20%削減することが要件。その上で、都市部狭小地域や多雪地域等の地域的な制約がある場合に限り、太陽光発電がなくても「ZEH Oriented」が認められている。一方、太陽光発電等の創エネ設備を設置して、更に一次エネルギー消費量を削減したものが『ZEH』や「Nearly ZEH」となる(画像提供/経済産業省)
ZEHで暮らすことには下記のようなメリットがある。
●住宅の省エネルギー化や創エネルギーの活用によって光熱費を抑えられる
●住宅の高断熱化によって、夏は涼しく、冬は暖かい快適な住環境を実現できる
●断熱化により室温を保ちやすくなるので、ヒートショックなどのリスクの低減が期待できる
●太陽光発電の設置によって災害による停電時でも一定程度の生活を営むことができる
このように、光熱費を抑えられて、一年中快適かつ安心安全に暮らせるのがZEHというわけだ。
一方デメリットとしては、高断熱化や太陽光発電等の導入などの初期費用がかかること。そこで国は補助金制度によりZEHの普及促進を図っている。現在は、地域的な制約や政策目的に応じて下記のZEHが普及促進の対象となっている。
こうした様さまざまな種類のZEHがある理由は大きく二つある。一つは地域や周辺環境によって、どうしても太陽光発電による発電量が比較的少なくなるエリアがあることだ。例えば雪国などは冬の日射量や積雪の影響で発電量は見込めないし、ビルや家々がひしめくように立ち並ぶ都心部などは日陰になりがちだ。
こうしたエリアにおいてはエネルギー収支をゼロ以下にすることが困難であるが、これらのエリアにおいても可能な限り省エネルギー化を図り、再生可能エネルギーを導入していくことが重要であることから「Nearly ZEH」や「ZEH Oriented」が設けられた。これらのZEHもエネルギー収支こそゼロにはならないものの、外皮性能(屋根、天井、壁、開口部、床、基礎など)がZEH基準に達しているため、先に挙げたメリットを享受できる。
もう1つは、ZEHよりもさらに省エネルギー性能を高め、かつ再生可能エネルギーの自家消費率を高めたZEHの普及を政策的に促すためだ。いわばさらに高性能なZEHとして「ZEH+」や「次世代ZEH+」が設定されている。
集合住宅のZEH=ZEH-Mとは? 一戸建てのZEHと何が違う?
上記、一戸建て住宅におけるZEHに加えて、集合住宅のZEHについても説明しよう。集合住宅においても一戸建てのように種類が分けられているので、まずはそちらを見てみよう。
一戸建てのZEHと比べると、「Ready」という名称がつくZEH-Mが設けられていることがわかる。これは、一戸建てにはなかった「太陽光発電によって集合住宅全体の一次エネルギー消費量の50%以上を削減」しているもの。
なぜ“このようなZEH-Mが設けられているのか”といえば、一戸建てに比べて住戸数に対しての太陽光発電の設置面積が少ない集合住宅では、一次エネルギー消費量を100%以上削減することが現状の技術では難しいからだ。当然、高層になればなるほど難しくなる。
高層になるほど住戸数が増えるが、屋上に設置する太陽光発電の面積は同じ比率では増やせない。そのため高層の集合住宅になるほど太陽光発電による一次エネルギー消費量の削減が難しくなる(画像提供/経済産業省)
「集合住宅の場合、創エネルギーで全住戸の消費エネルギーをまかなうことが高層になるほど難しくなります」と資源エネルギー庁の鈴木さん。
とはいえ、外皮性能がZEH基準なら光熱費を削減しやすくなるし、一年中快適かつ安全に暮らしやすくなる。また、全住戸は無理だとしても、太陽光発電の電気を一部の住戸に分配することは可能だ。「集合住宅の場合、住棟単位のZEH-Mとしての評価に加えて、ZEHとして住戸単位で評価することも可能であり、分譲マンションの販売主や賃貸住宅のオーナーの方々にとっては、一部の住戸のみ一次エネルギー消費量を100%以上削減した『ZEH』として資産価値を差別化して販売や賃貸することも可能になっています」
高層の集合住宅における技術的課題については、太陽電池の発電換率の向上や、最近話題になっているフィルム状の太陽電池を壁面に設置するという方法により解消していくことが考えられるが、いずれもこれからの技術開発が待たれる分野だ。
集合住宅のZEH化は、入居者にどんなメリットがあるのか?
ではZEH-Mにすることで、分譲マンションの購入者や賃貸住宅の入居者にとってどんなメリットをもたらすのか。既にあるZEH-Mの中から、積水ハウスが手がけた賃貸住宅「シャーメゾンZEH」を例に見てみよう。
(写真提供/積水ハウス)
(写真提供/積水ハウス)
2020年度のシャーメゾンZEHの年間受注戸数は2976戸を記録した。これは「2022年までに年間受注数2500戸を達成」という同社の目標を2年前倒しでクリアしたことになる。それだけ賃貸住宅のオーナーからZEH-Mの注目度が高いといえるだろう。なお累計では2021年1月時点で3500戸を突破している。
上記の通りZEH-Mには「ZEH-M「Nearly ZEH-M」「ZEH-M Ready」「ZEH-M Oriented」があるが、シャーメゾンZEHはZEH-M Ready以上、つまり太陽光発電等で一次エネルギーの使用量を50%以上削減できる賃貸住宅となる。
積水ハウスの賃貸住宅「シャーメゾン」ZEH仕様の埼玉県さいたま市の実例。屋根に太陽光発電パネルが搭載されている以外、ZEHのために特殊な形にしているというわけではない(写真提供/積水ハウス)
住戸の断熱性能を高めるため、窓は全て高断熱窓が採用されている(写真提供/積水ハウス)
各住戸には現在のエネルギー状況が一目でわかるHEMS(ヘムス※ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)の端末が置かれている(写真提供/積水ハウス)
同社が入居者に向けたアンケート結果によると、入居後の満足の理由に「光熱費が安くなるから」「太陽光発電があるから」「断熱性能が高いから」が上位にランクインした(下記表参照)。
積水ハウスが行ったシャーメゾンZEHの入居者アンケートより。入居前から大きくランクを、つまり満足度を上げたのはいずれもZEH由来のメリットであることがわかる(資料提供:積水ハウス)
いずれも入居前には入居者にとってあまり重要視されていなかったZEH-M化のメリットが、リアルな体験を通して満足度の順位をグンと上げたことになる。
確かに「あれ、今月の光熱費ってこれだけ?」とか「エアコンを切って寝ても朝まで暑くない(寒くない)」など快適な暮らしを体感したからこそ、満足度が高まったのだろう。ちなみに同社の調べでは、年間光熱費が約4割も削減できるという(下記グラフ参照)。
積水ハウスが試算した年間光熱費の比較。約4割の削減はかなり大きいと言えるだろう(資料提供:積水ハウス)
入居者の満足が上がることは、賃貸住宅のオーナーにとってもメリットがある。満足度が高ければ、それだけ長期入居が見込めるため、家賃収入の安定化が図れるからだ。またこれらの高付加価値があれば、周囲より高い家賃設定も可能になる。ZEH-Mの事例が増えるほど、ますます賃貸住宅オーナーからの注目が高まり、普及につながりそうだ。
ZEHの普及についてはまだまだこれから。その課題は?
では今後はどのようにZEHの普及が進んで行くのだろう。
国は、2014年の「エネルギー基本計画」において、「住宅については、2020 年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建住宅の半数以上でZEHの実現を目指す」と掲げていた。
「『エネルギー基本計画』における『2020 年までにハウスメーカー等が新築する注文住宅の半数以上でZEH』というのは、数値目標としては新築一戸建ての50%をZEHにすることでした。その進捗ですが、2019年時点で見ると、大手住宅メーカーに限れば約50%ですが、全体ではまだ約20%と、達成とはいえない状況です」と資源エネルギー庁の鈴木さん。
ZEHロードマップフォローアップ委員会が令和3年3月31日に発表した資料より。一般工務店によるZEHがなかなか進んでいないことを示している(画像提供/経済産業省)
「こうした状況を踏まえ、昨年8月に国土交通省、経済産業省、環境省の3省合同で開催した『脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方・進め方検討会』で検討が行われ、2030年に目指すべき住宅の姿が定められました」
まず省エネルギーについては「新築される住宅についてはZEH基準の水準の省エネルギー性能」を目指すとされた。一方の再生可能エネルギーについては「新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入されること」を目指すとしている。ZEH-Mで説明したように、集合住宅については、現状では太陽光発電の技術開発を待たなければならないということのようだ。
(写真/PIXTA)
これらの目標に対し、既にロードマップもつくられ、ZEH化の促進が図られているが、その際のポイントの一つは、「ZEHの周知」だという。ZEHやZEH-Mの認知度、認識がまだまだ不足しているのが実情だ。施主に求められなければ建てる側も建てようがない。
最後に資源エネルギー庁の鈴木さんは、「まずはZEH・ZEH-Mについて多くの人に知ってもらうことが重要だと考えています。そのためには光熱費の削減といった経済的メリットだけではなく、ZEH・ZEH-Mが快適に暮らせること、安心安全に過ごせること、災害による停電時でも自宅で過ごせるメリットを伝えていくことが大切です」と強調した。
世界的な脱炭素社会への潮流の中、昨年政府から「2050年カーボンニュートラル」が宣言され、その中で2030年代半ばまでに、新車販売で電動車100%を実現するとした。また東京都では新築住宅への太陽光発電の設置義務付けが検討されるという。ほかにも省エネ性能をさらに高めた家電の開発や、太陽光発電以外の再生可能エネルギーの検討など、さまざまな動きが今後もあると思われるが、大事なのは脱炭素社会になることで私たちがどんなメリットを享受できるのか、ということを改めて理解することではないだろうか。
電気自動車に乗ったり、太陽光発電を住宅に載せたりすることが私たちの「メリット」ではない。脱炭素化によって光熱費が抑えられ、暮らしが快適に、安心安全になり、それが地球温暖化の防止につながっていくということが「メリット」であるはずだ。そのメリットを手に入れるにはどんな住宅に暮らせばかなうのか。それを今一度問いなおしてみてほしい。今なら望みさえすれば、すぐに手に入るメリットなのだから。
●取材協力
経済産業省
積水ハウス
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