『トイ・ストーリー』主人公がカウボーイなのはなぜ? 知識や感性を底上げする「超戦略的シネマ鑑賞法」
映画がこの世に誕生したのは1895年。文学や絵画、演劇などが長い歴史を持つのに対し、映画は比較的若い芸術・娯楽のジャンルです。
映画の中には私たちの仕事にも役立つ実践的な気づきがある、と言うのは『仕事と人生に効く教養としての映画』の著者・伊藤弘了さん。映画はまだ歴史が短いからこそ、「少し親しんでおくだけで他の人と圧倒的な差をつけられる領域」(本書より)なのだと言います。
本書は、映画研究者で大学講師でもある伊藤さんが、映画を見る効用、映画の歴史、映画を分析的に見る方法、アウトプット術などをビジネスとの関わりを意識しながら解説した一冊です。
たとえば、プロローグで取り上げられている作品がディズニー作品『トイ・ストーリー』。子どもから大人まで誰もが楽しめる娯楽作品ですが、「そこにはアメリカの歴史と国民性、ハリウッド製のジャンル映画の記憶がこれでもかとばかりに色濃く刻印されている」(本書より)そうなのです。そのことを気に留めるか留めないかで、作品鑑賞の質が変わってくるのだとか。
主人公のウッディがカウボーイ(保安官)の人形に設定されているのはなぜなのか? ウッディの相棒役のバズ・ライトイヤーがスペース・レンジャーなのはなぜなのか? アメリカ人であれば、この二つをあるキーワードで結びつけることはきわめて自然で理にかなったことだといいます。
もちろん、こうした知識がなくても映画を楽しむことは可能。けれど、「知識を身につけることで映画の見方は無限に広がっていきます」(本書より)と伊藤さんは言い、「映画史の膨大な情報を前にして、メタな視点からその特徴を抽出し、それぞれにラベルを貼って使えるように整理し直すことは『ビジネスの基本』にもつながるのではないでしょうか」と読者に問いかけます。
こうした観点から、第1講では映画を観るべき理由について、第2講では映画を観る際の基本的な歴史やキーワードについて解説。第3~7講では、溝口健二の『お遊さま』、小津安二郎の『東京物語』、ブライアン・シンガーの『ボヘミアン・ラプソディ』など、さまざまな映画を取り上げながら詳しく見ていきます。どのような点に注意して各作品を鑑賞すべきかが独自の視点で語られていて、非常に興味深いです。
最終講では、映画を見たあとのアウトプット術も紹介。自分が見たり感じたりしたことを的確に表現する能力は、SNSでの発信に欠かせないだけでなく、仕事のプレゼンテーションスキルなどを磨くのにも大いに役立つことでしょう。
巻末には洋画と邦画の重要作品111タイトルを年代順にマッピングした図表、映画のデータやメモなどを書き込める「映画鑑賞ノート」が掲載されているほか、途中には「Homework」とした読者がトライできる課題もあり、とても実用的。映画をさらに深く鑑賞するスキルを身につけて仕事や人生に生かしたい人にぴったりな一冊です。
[文・鷺ノ宮やよい]
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