部員4人それぞれの変化〜青谷真未『水野瀬高校放送部の四つの声』

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部員4人それぞれの変化〜青谷真未『水野瀬高校放送部の四つの声』

 タイトルから想像される通り、本書に収録されているのは、”水野瀬高校放送部の4人の部員がそれぞれ語り手となっている4つの作品”である。3年生で部長を務める巌泰司。入学してすぐ、仮入部をすっ飛ばして正式な部員となった1年生の赤羽涼音と白瀬達彦。かたや、提出期限ぎりぎりに入部届を出してきた2年生の南条梓。彼らはそれぞれに事情を抱えながら放送部に入部するという選択をした。語り手の部員たちの紹介も兼ねて、第一話からの順番通りに部の1年間の動きを追ってみる。

 巌は小学生の頃からずっと野球をやってきた。同じ学年の高村ほど抜きん出た野球の才能はないとしても、巌自身は部長として部員たちをまとめる力ならあるつもりだった。でも、実際に部長に選ばれたのは高村。高村自身が部長に立候補したことを後になって知り、巌は2年生の冬に野球部を退部。廃部となっていた放送部をふとしたきっかけで復活させることになったものの、活動内容についての知識もない巌は悪戦苦闘する。でも、「Nコン」すなわち「NHK杯全国高校放送コンテスト」に出たいと希望する1年生たち、そして彼以上にやる気のなさそうだった南条までも部活に打ち込むようになり、特に展望や意気込みがあって放送部を始めたわけではなかった巌の心に変化が起きる…。

 南条が放送部に入部したのは、どうせ委員会か部活のどちらかに入らなければいけないなら、去年まで存在してもいなかったような部活なら暇そうだと思ったから。登校中の口癖のような競馬実況が注目されて放送部に誘われるなど予想もしておらずついオッケーしてしまったものの、最初は失敗したかなとも思った。「Nコン」への出場を目指すには実績が必要で、そのために校外インタビューに行こうとはりきる赤羽たちに、うっかり学校近くの森杉パン屋のことをしゃべったことについても後悔の気持ちが先立つ。しかし、しかたなく準備につきあっているうちに南条の心に変化が。父がいなくなって、母とその両親である祖父母との生活もぎくしゃくしていて、クラスに友だちもいない彼女の気持ちに…。

 白瀬には空気を読めないという自覚がある。中学時代に入っていた演劇部でも、それで失敗した。そのときに同じく演劇部員だった赤羽に熱心に誘われて、高校では結果的に放送部に入部したけれども、自分に何か伝えたいことなどないのだという思いはくすぶっていた。放送部も文化祭に参加したいと意思表明した赤羽はラジオドラマをやりたいと提案するが、演技をすることに対して抵抗がある白瀬は気が進まない。そんな白瀬の気持ちとは反対に、ラジオドラマ制作は本決まりとなる。ところがその後、森杉パン屋について驚くべき情報がもたらされた。噂の真相を確かめ、自分にできる限りのことをしようと奮闘する白瀬の気持ちには、変化が起こり始めて…。

 来年度は放送部も新一年生の前での部活紹介に参加すると同時に、司会進行も担当させてもらおうと提案したのは赤羽だった。白瀬は乗り気、南条も面倒がりながらもしぶしぶ承知。しかしながら、高校の推薦入試合格発表の日、合格者の中に中学の演劇部の後輩の姿を見つけた赤羽は突然体調を崩す。翌日からほぼ1週間学校を休んだ赤羽は、白瀬にある決意を打ち明ける。驚く白瀬を前にしても、赤羽は翻意するつもりはない。だがその日の放課後に顔を合わせた南条の言葉から、赤羽はずっと悩みを抱えていたことに気づかれていたと知る。南条、そして白瀬や巌に自分のほんとうの思いを伝えられたことで、赤羽の気持ちには変化が生じ…。

 放送部での活動を通じて、4人それぞれの気持ちに変化があったことはおわかりいただけたかと思う。もちろん、主役たちの気持ちに変化が生じない小説などまず存在しないわけだが、本書の語り手たちが語る心情には胸に迫るものがあった。なぜだろう、と考えて、彼らが放送部員であることとも関係があるのではと思い至る。「百聞は一見にしかず」というように、視覚と聴覚では受け取る情報量に大きな差がある(例えばスポーツ中継などでその場の状況がどうなっているかについては、テレビであれば視聴者自身が目で見てわかる部分も多いけれども、ラジオではアナウンサーたち話者の実況から判断するしかない)。声だけで伝える難しさを知る放送部員たちは、言葉を尽くして自分の気持ちを表現することの大切さもまた身に染みているのではないだろうか。彼らのひとりが口にした、「呪いをかけるのは言葉だけど、呪いを解くのも言葉だと思うから」というひと言を力強く感じた。

 言葉に縛られたくはない。だけど、言葉でなければ伝えられない。だからあきらめずに、伝え合わなければならない。巌と高村のように。南条と母のように。白瀬とパン屋の菫さんのように。そして、赤羽と白瀬のように。彼らの、つまり著者の紡いだ言葉は私にも届いた。次はあなたが、彼らの言葉を聴いてほしい。

(松井ゆかり)

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