買い物を自動運転車でサポート! 東広島市の“小売MaaS”プロジェクト始動

自動運転車が買い物を支援! 東広島市の“小売MaaS”プロジェクト始動

本格導入に向けて全国各地で実証実験が行われている「MaaS(マース・Mobility as a Service)」。バス、電車、タクシー、近年増えているシェアサイクルといったあらゆる交通機関を、アプリ等のIT技術を用いてルートを一括検索し、うまく接続したり、予約・決済もできるようにするものだ。いま広島県東広島市で、子育て世代や高齢者などに向けたMaaS×買い物支援サービスの取り組みが進んでいる。プロジェクトを運営するMONET Technologies株式会社の阿部 陸さんにお話を伺った。

環境にも人にもやさしい、新たな交通サービスの実現に向けて

自動車業界は今、大きな変革期を迎えている。地球温暖化が問題となるなか、車の排ガスは大きな社会問題の一つとなり、CO2排出量を減らすべく、電気や水素で走るエコカーが数多く登場している。さらに、都心部を中心に車を持たない暮らしを選ぶ人が増えている一方で、電車やバス路線がない、もしくは減便・廃止され、車なしでは生活できないという地域が少なくないのも事実だ。「MaaS」が注目されるのには、こうした背景がある。

そんななか、内閣府により「SDGs未来都市」に選定された東広島市では、長く住み続けられる街づくりの推進と、自動運転時代を見据えた、一歩先を行く国際学術研究都市の実現に向けて、今回のプロジェクトを立ち上げた。
将来的に東広島市全域で子育て世代や高齢者などのお買物を支援するサービスを行っていくことを目指して、まずは広島大学の学生および教職員や近隣の住民を対象として、広島大学東広島キャンパス周辺を中心としたエリアにおいて、段階的に「自動運転車による小売りMaaS」の実証に取り組んでいく。

広島大学の東広島キャンパスは、約249haという広大な敷地。その中に学部ごとに多くの施設が点在し、構内の移動にはかなりの時間を要することも(画像提供/広島大学)

広島大学の東広島キャンパスは、約249haという広大な敷地。その中に学部ごとに多くの施設が点在し、構内の移動にはかなりの時間を要することも(画像提供/広島大学)

プロジェクトの全体像。プロジェクトは2021年2月から始まり、現在は上の図の自動運転シャトルの実証までの部分を進めている(画像提供/MONET Technologies)

プロジェクトの全体像。プロジェクトは2021年2月から始まり、現在は上の図の自動運転シャトルの実証までの部分を進めている(画像提供/MONET Technologies)

構内の車移動を減らし、地域の交通空白地域解消への一助にも

広島大学は鉄道路線から離れた場所に存在する。JR西条駅や新幹線東広島駅から路線バスによる移動は可能なものの、交通利便性が高いとは言い難く、周辺地域での移動はもっぱら自動車に頼っているのが現状だ。広島大学構内にも多くの自動車があふれ、さらに、広い構内移動のための自転車利用者も多い。
そこでまずプロジェクトの第一段階として導入されたのが有人のオンデマンドバスだ。広島大学構内や、ゆめタウン学園店といった商業施設、さらには大学職員の職員住宅、学生アパートが多いエリアなどを巡るオンデマンドバスで、「利用者層や数を把握することと、運行ルートのデータを蓄積しながら、利用者への認知を進めることなどが目的でした」と阿部さん。
このオンデマンドバスは現在も運行中で、周辺住民を含む多くの人が利用している。

東広島市で実際に運行されているオンデマンドバス(画像提供/MONET Technologies)

東広島市で実際に運行されているオンデマンドバス(画像提供/MONET Technologies)

「車がない=買い物できない」という不便を解消する商品配送サービス

商業施設に行く手段ができても、重い荷物を抱えての移動は大変。そこで利用者が提携する商業施設に電話し、必要な商品を注文すると、利用者の指定した日時・場所にその商品を配送する実証実験も実施している。
利用者からは、「水のペットボトルを20本、といった大きな買い物の時に重宝しています」という声があるという。

有人のオンデマンドバスの運行から、自動運転シャトル運行へ

そして、このプロジェクトの大きなポイントの一つが「自動運転」だ。近年、一般に販売される車に自動運転支援機能が付くなど、自動運転自動車の実用化への動きは加速している。さらに、「世界的に見れば、アメリカではすでに無人の自動運転車による商用運行が実現しているところもあります」と阿部さんは話す。
プロジェクトでも、前述のオンデマンドバスのほかに、広島大学の構内を走る自動運転シャトルの運行が始まっている。シャトルバスに運転手は乗務するが、あくまでもしものときの保険的な意味合い。基本的には運転手はハンドルに触れない。あらかじめプログラムされたルートに沿って走行し、決められたバス停に止まっていく仕組みだ。

走行中、運転手がハンドルに触れることはほぼない。その分、学生たちと会話するなどコミュニケーションも進んでいる(画像提供/MONET Technologies)

走行中、運転手がハンドルに触れることはほぼない。その分、学生たちと会話するなどコミュニケーションも進んでいる(画像提供/MONET Technologies)

(画像提供/MONET Technologies) 

(画像提供/MONET Technologies)

運行は平日朝10時から16時半までの間(13時半からの1時間は休憩)。決められたルート1往復あたり30分かかるため、1日11往復の運行となっている。乗客の定員は4名。3月から始まったシャトルバス運行で、コロナによる休業期間があったにもかかわらず、現在までに550人の利用があったという。

「自動運転に慣れない利用者からは、最初のうちこそ『ちょっと怖いかも』という正直な声もあったものの、最近では、『今では普通に足として利用している』『最初のころより運転がずいぶんスムーズになったと感じる』といった声も上がっています」。同乗する運転士の声を聴きながら、カーブの減速タイミングや、バス停への近づき方など細かいところまで調整を重ねることで、サービスは日々進化しているようだ。

次のステップは、台数増や公道を含むルート設計へのチャレンジ

「次の課題はいよいよ公道利用です」と阿部さん。秋以降には、自動運転シャトルで大学構内を出て、近隣の商業施設・ゆめタウン学園店を含めた新たな運行ルートを検討中だ。比較的状況の把握がしやすい大学構内とは異なり、公道は予想外のことへの対応が増えることになる。「周辺住民への周知を進め、理解を得るとともに、より安全な運行を目指して、プログラム開発に努めたいと思います」

さらに、車両の台数を増やして、運行本数を増やすことも予定しているという。「運行本数が増えれば、次の授業への移動がスムーズにでき、構内の車移動などを減らすことに現実的に貢献できるはず」と意気込む。
「このプロジェクトは、東広島市や広島大学など、かかわるたくさんの人たちからの期待を背負っています。関係先との調整や技術開発を重ねながら、大きな一歩を踏み出したいですね」

東広島市では、持続可能な社会の実現に向けて、耕作放棄地を活用した「農育」や、賛同する企業による環境改善活動など、さまざまな取り組みを進めている。今回の取り組みもその一つだ。便利なだけでなく、人にも環境にも優しい社会の実現のための取り組みに、今後も注目していきたい。

●取材協力
MONET Technologies

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