猫マスター響介さんが叶えた“猫ファースト”の注文住宅。賃貸ワンルームから猫御殿まで変遷も紹介!
ブログ「リュックと愉快な仲間たち」やTwitterで、可愛い愛猫の写真とユニークな文章が人気の猫マスター兼作曲家の響介さん。20代前半はワンルームのアパートに住んでいましたが、5匹の猫を飼い始めてからなぜか運気が上がり、本気度も急上昇。猫のための豪邸(一戸建て)を建ててしまいました。その家づくりをまとめた書籍『下僕の恩返し』(ビジネス社 刊)も好評発売中です。猫のためにこだわりつくした注文住宅を建てるまでのストーリーを聞きました。
猫5匹と暮らし、賃貸ワンルームから100平米のマンションへ
子どものころ、家に帰る途中でついてきた猫を飼いたいと言ったところ、母親に怒られて、元の場所に戻しに行ったことが忘れられずに「いつか猫と暮らしたい」と思っていた響介さん。実家を出てアパート暮らしを始めて、ようやく猫を飼える環境になりました。
そんな時、たまたま目に入った里親募集の広告に載っていた2匹の猫にひと目惚れして、身体に衝撃が走ったそう。「この子たちはうちにくる、絶対この子たちと暮らすんだ」とすぐに電話をかけて、翌日迎えに行きました。
猫専用のソファで人間のようにくつろぐ2匹は、最初に恭介さん宅に来た保護猫のリュックとソラ(画像提供/恭介さん)
その後も行き先が決まらない保護猫を2匹引き取り、「もうこれ以上増やせない」と思っていたところ捨て猫と出会い、猫5匹との同居生活が始まりました。「当時はワンルームの賃貸アパート住まいで、楽器や機材、漫画、キャットタワー、おもちゃもあり、寝るときは僕の頭の周りに5匹が囲むように寝ていました。家の中を1、2歩歩くと壁にぶつかる約8畳(約26平米)のワンルームで、運動もできないし健康にも良くない環境でした」
面積に対する猫の人口密度(猫密度)が高かった賃貸アパート時代。「狭かったから5匹が仲良くなれたのかも?」と振り返る(画像提供/響介さん)
「このままでは猫たちがかわいそう、と思っても、当時は仕事の芽が出ず、録音機材を含む設備投資や楽器代などで1000万円もの借金がありました。それでも、30歳までには家を建てよう、絶対建てる!という謎の自信がありました」と響介さん。「念ずれば叶う」のか、「猫たちを幸せにしたい」という意識の変化か、仕事の調子がぐんぐん良くなってきたのです。
「まずは猫たちが走り回れる広さのマンションを買おう」と突然思いたった響介さんは、約100平米のマンションの購入を決断。25歳で、音楽制作の仕事部屋のひと部屋以外はすべて5匹の猫たちが自由に走り回れる、広々とした4LDKのマンションを、なんと現金一括払いで手に入れたのでした。
猫とテレビを同時に見られる壁とアウトドア気分の“庭部屋”をつくった
響介さんにとってマンション購入は注文住宅への通過点でしたが、「自分の持ち家ができると気持ちは変わって、一気にいろいろやりたくなりました」とDIYやインテリアに凝り始めました。下の猫部屋も一例です。
猫のためだけのひと部屋。悠々とくつろぐ猫たちの姿を見るのは何よりの喜び(画像提供/響介さん)
2匹の猫を飼っている筆者も常々経験していますが、猫はパソコンに向かって仕事をしているとパソコンの前やキーボードの上を行ったり来たりしますし、テレビを見ていると「テレビより私を見ニャさい!」と画面の前でポーズをとって立ちふさがります。響介さんは、そんな「かまってちゃん」にデレッとしているだけでなく、「テレビを見ていると、その間は猫が見られない。1秒でも猫を視界に入れたい」と、猫もテレビも同時に見られるようテレビの壁掛けを造作しました。
「壁に穴を開けずにテレビを壁掛けにできるDIYセット」を使うと、初めての人でも簡単にできるそう。さらに、石膏ボードや軽量レンガタイルを貼り、配線を隠す工夫をして、間接照明をしつらえ、インテリアとしてもかっこいい壁に仕上げました。
Before(画像提供/響介さん)
After/テレビ台には猫のベッドを置いて、テレビを見ながら愛猫の寝姿も見られるようになった(画像提供/響介さん)
次につくったのは“庭部屋”。響介さん宅の猫たちは脱走や交通事故などの危険から守るために完全室内飼いです。賃貸アパート時代よりはるかに広いマンションで猫たちは走り回ることができるようになりましたが、「猫たちに外を経験させたい」と、庭を模した部屋をつくることにしたのです。
まるでリゾート(画像提供/響介さん)
庭部屋には人工芝を敷いて、ウッドデッキを手づくりし、草花のモチーフや切り株のクッションで森の雰囲気を演出しました。キャンプ風に猫テントやランタンも設置しました。天井には星のモチーフを貼り、プロジェクターで外の世界が映るようにしました。
ハンモックに響介さんが寝てリラックスすると、猫たちがお腹や脚に乗ってきます。猫たちとリゾートホテルに遊びに来たような気分が味わえる猫のための部屋。「人間の部屋より豪華」とため息をつく方もいるのではないでしょうか。
30歳までを目標に、理想の家のイメージに向かって着々と準備
マンションに引越してから、猫たちは運動量が増えて筋肉がつき、多少太めだった猫は身体が引き締まり、ストレスも減ったそうです。けれども響介さんは「30歳までに家を建てる」という目標を達成するために、がむしゃらに働き、「こんな家を建てたい」と紙に書いたり、好みの家の写真を保存したりして、家づくりの次のステップの準備を始めました。
30社くらいのモデルハウスを見て、候補を7社にしぼり「猫のための家を建てたい」と相談してプランの提案をしてもらいました。「猫のための家なんて大丈夫?」「フリーランスの音楽家が家を建てるのは無理でしょう」という反応を肌で感じたこともあったそうですが、担当者の年齢が近く、前向きに賛同してくれた建築会社に依頼を決めました。
「家を建てるぞ」と誓ってから約4年、打ち合わせ開始から上棟まで約1年、工期約5カ月、響介さんは31歳で理想の「猫たちを最強に幸せにする理想の家」を実現したのです。
左からピーボ(メス)、ソラ(メス)、ニック(メス)、リュック(オス)、ポポロン(オス)。約150平米と5匹が横並びでも悠々と歩ける新居が完成した(画像提供/響介さん)
目標は「人間から見てもカッコイイオシャレな家で、猫のためもしっかり考えている家」。
「猫と暮らす注文住宅」をうたっている建築例には、猫が部屋を自由に行き来できるペット用ドア、壁に造作したキャットウォーク、階段下を利用したトイレスペース、ペット用の壁紙や腰壁、床材、消臭対策などがあります。
けれどもそういった“あるある”にとらわれず、響介さんが5匹の猫たちと暮らした経験をもとにイチから考えたプランでした。「人間が良かれと思うことが必ずしも猫にとっていいとは限らない」という考えのもと、希望条件を箇条書きに。建築基準法でクリアできない部分を除いて希望をほぼ叶えたのです。
約30畳(約100平米)のLDKの一角に設けた画期的な「リビングイン猫部屋」
響介さんならではのアイデアが生かされたプランのひとつに、リビング・ダイニング・キッチンがあります。以下は最初に響介さんが描いたラフです。
1階のイメージ。「画力ゼロのゴミのような図面」と響介さんは謙遜しますが、ポイントはおさえています(画像提供/響介さん)
リビングダイニングはできるだけ広い空間を確保するために、1階は玄関、トイレ、LDK(リビング・ダイニング・キッチン)のみ。猫たちが屋外に脱走しないよう玄関との間にはリビングドアを設け、居室と完全に分けています。希望したのは以下の7点でした。
LDKの絶対条件
●LDKは最低30畳以上、壁や仕切りはいらない(猫が追いかけっこするときに邪魔になるため)
●猫たちが窓辺に寝転んで日向ぼっこができるように大きな窓をつくる
●高級マンションさながらのアイランドキッチン(猫たちが周りをぐるぐる回れる)
●テレビの背面壁を造作(猫たちが周りをぐるぐる回れる)
●造作壁の裏側に落ち着ける猫スペースをつくる
●キャットウォークはあらかじめ取り付ける造作ではなく、自分で設置したり取り外せたりするアイテムを設置
●リビングイン階段はスケルトン階段に(常に猫たちが見えるように)
3階建て(画像提供/響介さん)
内装やインテリアにもこだわり、間接照明を多用したリビング・ダイニング・キッチン(画像提供/響介さん)
LDKの鏡面の床は、以前5匹全員が同じ日にウイルスに感染して10分に1回ぐらい嘔吐物を処理した経験から、掃除のしやすさで選びました。猫にはつきものの吐き戻しも、さっと拭くだけできれいになり、清潔さが保てます。
また、猫は高い所、縦運動が大好きです。キャットウォーク代わりになり運動不足解消に役立つ階段は、響介さんが上下左右から猫を見られるようスケルトン階段にしました。サイドからの落下を防ぐ手摺りも透明なポリカーボネイト製を採用しています。
階段も猫の遊び場。踊り場に窓を設け、日中は自然光で、夜は照明で足元が見えるようにしている(画像提供/響介さん)
部屋の壁の手前、テレビを掛けているのは造作壁で、周囲はぐるりと回ることができ、リビングと猫スペースをさりげなく仕切る役割も併せ持っています。造作壁の向こうは、猫たちの「遊ぶ、眠る、寛ぐ、トイレをする」スペースで、人と猫がお互いの気配を感じながら自由に過ごし、気になったときは小窓から猫を眺めたり、眺められたり双方向のコミュニケーションができるのです。このアイデアは、子ども部屋にも応用できそうです。
LDKの壁掛けテレビ用の造作壁。上の小窓から猫たちがリビングを見ている(画像提供/響介さん)
テレビを掛けた造作壁の後ろの猫スペース。トイレ、遊び場、寝床を設置している(画像提供/響介さん)
「壁にキャットウォークをあらかじめつくると、猫たちが年をとったときに、ジャンプに失敗して落下してケガをするリスクがあり、再工事が必要となるため、将来の変化に応じて取り外せるキャットステップを採用しました」
それが、六角形や三日月、雲の形など見た目も可愛らしい「MY ZOO」というブランドのもので、DIYで壁をつくると、賃貸でも元の壁に穴を開けずに設置が可能になります。
リビング側から三日月のキャットステップに乗った猫も見える(画像提供/響介さん)
可愛くてスタイリッシュなデザイン(画像提供/響介さん)
猫スペースの窓際にハンモックのベッドを一列に並べた。直射日光に当たりすぎるのも良くないそうでカーテン越しの光で日向ぼっこ(画像提供/響介さん)
約150平米の3階建ての一軒家には、ほかにも猫のための工夫がいろいろ
2階には響介さんの仕事部屋(音楽スタジオ)、寝室を含む洋室3室、ウォークインクローゼットと、お風呂、トイレ、浴室、ランドリールームを設けました。猫が自由に移動できるようにドアや仕切りは極力少なくしていますが、仕事部屋には猫は入れません。また、柔軟剤のニオイが気化して部屋に充満することは猫の健康に良くないことから、各室に収納を設けずに大きなウォークインクローゼットを別途設け、室内干しをするランドリールームも独立させました。
猫は入室禁止の仕事部屋。防音対策は万全、配線を表に出さずにすっきりさせ、照明にもこだわった(画像提供/響介さん)
3階には天井高140cmギリギリにして小屋裏収納扱いになる部屋を設けました。ここはマンション時代にも確保した、猫のモノだけを置いた、猫が寝て遊んでくつろぐオールインワンの猫部屋です。勾配天井には空のクロスを貼り、遊園地のように楽しそうな空間になりました。
3階の部屋のイメージを建築会社に伝えたラフ画。部屋の目的は明確(画像提供/響介さん)
ベッドやトイレを置いた約7.5畳の猫部屋は、たとえ響介さんでも掃除のとき以外は立ち入り禁止(画像提供/響介さん)
「トイレは猫の頭数プラス1個は必要と言われています。トイレを我慢するのは健康にも良くないので、したいときにできるように各階に2、3個ずつ、合計6個設置しています。トイレ掃除だけでも大変です」と響介さん。ちなみに各室の壁は消臭効果のあるクロスを採用しています。
爪とぎは、リビングに7個、寝室に4個、廊下に3個、3階の猫部屋には爪とぎ兼ベッドも置いています。他にも、猫のおもちゃ、猫専用のソファ、猫が入れるテーブル兼居場所なども、インテリアになじむオシャレなアイテムを設置しました。
豪邸への引越しに最初は戸惑った猫たちですが、約3、4カ月で新しい住まいと生活に馴れて、我が物顔で家を使いこなしています。
個人事業主でも住宅ローン審査は通る、トラブルは猫愛で解決?
「家が完成するまでは、いろいろなことがありました。猫のためにと一般的な家づくりと違うことを要望して『本当にそれでいいんですか?』と何度も聞かれたり、『猫のために』と思いついて急に変更させてもらったこともありました。
リビングの天井の高さの変更が新しい担当者さんに引き継がれていなくて建築がだいぶ進んでから気づいたりといった予定外のこともありました」と振り返る響介さん。それでも、それらのトラブルは、担当者と円滑なコミュニケーションを常日ごろから取っていたこと、熱い猫愛を冷静に伝えることで乗り越えることができました。
資金面では、フリーランスの作曲家、個人事業主という仕事柄、毎月の収入は一定額ではないため、多少の不安はありました。「住宅ローンの審査基準は明らかにはなっていませんが、どうしたら住宅ローンが借りられるかを考えました。買い物は極力クレジットカードで買い物をして、毎月一定の金額を返済するリボ払いにして、3年間一日たりとも遅れずに返済して、毎月このくらい払えるという実績をつくったんです」
個人事業主だから住宅ローンを組めないということはありませんが、クレジットカードの支払いの延滞履歴がないことは信頼につながります。マンションを持っていることも評価されたかもしれません。努力の甲斐あって住宅ローン審査を無事クリアすることができました。
新居に馴れてソファで大の字になって人間のようにくつろぐリュックくん(画像提供/響介さん)
「愛猫たちを思いきり走り回れるストレスフリーな環境で育てたい」「僕と暮らせて幸せだ、この家に来て良かった」と猫に思ってもらいたい一心で建てた注文住宅。猫たちは保護猫から「ニャンデレラ」になりましたが、響介さんにとっては幸運の招き猫だったのかもしれません。大切なものと出会ったからこそ目標を持ち、人生や働き方、意識が変わり、Twitterで人気を得て2冊の書籍を発売し、豪邸を実現し、理想の未来を切り拓くことができたのではないでしょうか。
徹底した猫ファーストの家ですが、“好き”にこだわって家を建てたり、好きな家族が喜ぶ顔や姿を見たくて家を建てるという観点では、家づくりを検討している人の参考になる点が多くあると思います。響介さんの理想の家づくりのサクセスストーリーはひと段落ですが、新居でのハッピーストーリーはまだ始まったばかりです。
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『下僕の恩返し 保護猫たちがくれたニャンデレラストーリー』
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