一定数存在する「頑張れない人たち」をどうサポートすべき? 支援者の心がけを児童精神科医が説く
2019年に発売されて話題となったベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』。児童精神科医である宮口幸治氏が、人口の十数パーセントはいるとされる「境界知能」の人々にフォーカスし、彼らが学校や社会で困らないための実践的なメソッドを公開した一冊です。
その続編にあたるのが、今回紹介する『どうしても頑張れない人たち~ケーキの切れない非行少年たち2』。宮口氏は、前作を書いたころから「”頑張っている人を応援します”はよく聞くキャッチコピーだが、そもそも頑張れない人たち、怠けてしまう人たちにこそ、本当は支援が必要ではないか」との疑問があったといいます。
そうした「頑張れない人たち」にむけて、支援者が心がけるべき配慮や工夫、そなえるべきメソッドを記したのが本書です。
子どものころに「やればできるんだから頑張りなさい」と言われたことはないでしょうか。しかし宮口氏は「そもそも”やれない子””頑張れない子”がいる」(本書より)と言い、以前勤務していた医療少年院で山ほど目にしてきたそうです。
なぜ頑張ろうとしても頑張れないのでしょうか。その理由のひとつが「認知機能の低さ」です。見る、聞く、想像するといった力が弱いため、入ってくる情報にゆがみが生じ、いくら頑張ってもうまくいかず、次第に「やっても無駄だ」と感じるようになり、頑張れなくなるのだといいます。
また、人間は「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求/所属と愛の欲求」「承認の欲求」という4つの欲求が満たされて初めて自己実現の欲求が出てくるもの。けれど、虐待など恵まれない家庭で育った者は、これらの土台が満たされていないケースも多く、それでは頑張る以前の問題になってしまうのだそうです。
いっぽうで、「頑張れない人でも、うまくスイッチを入れてあげると、想像ができないくらい頑張れることもあります。また周りにいる支援者からの承認で自信がつくこともあります」(本書より)とも宮口氏は記しています。
その具体的な方法を説明しているのが、第6章「支援者は何をどうすればいいのか」。理想としては「頑張れない行動の背景を考え、付き合っていく」のがベストで、支援者は「安心の土台」「伴走者」「チャレンジできる環境」の3つを提供することで、相手のやる気を引き出すことができるそうです。
児童の教育相談の中で、宮口氏が子ども自身から聞いた、こんな話が本書に出てきます。
勉強が苦手だという小学5年生の子どもは「教えてもらっても分からないので先生に失礼と思う」(本書より)と話したそうです。宮口氏は、「小さな子どもが『出来ない自分』を申し訳なく思って、大人に気を遣ってしまうほど、心を傷つけている」ことに愕然としたといいます。
誰かに認められたいという気持ちはありながらも、頑張りたくても頑張れず、自信を持てず、助けの声も出せないままでいるのなら、それは本人にとってどんなに苦しく、生きづらいことでしょう。
本書の「支援者」とは、仕事として援助職についている人に限らず、保護者、家族、友人、学校の先生、会社の上司などすべての人たちを指します。すぐ身近にいるかもしれない「頑張れない人」にどう手を差し伸べればよいのか、そのヒントを本書から探ってみてはいかがでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。