アジカン後藤正文さんと僧侶の対話「握っている手をどう離す?」 メリシャカLIVE2012レポート(1/2)

アジカン後藤正文さんと僧侶の対話「握っている手をどう離す?」 メリシャカLIVE2012レポート(1/2)

去る2012年12月22日『メリシャカLIVE2013』が開催されました。『メリシャカLIVE』は、浄土真宗本願寺派若手僧侶によるコミュニティ「メリシャカ」が京都・本願寺聞法会館で開催しているイベント。4回目となる今年は「think future―仏教と、音楽と、」をテーマに、僧侶による読経と法話、ライブに加えてミュージシャンと僧侶たちによる「対話」の場づくりにも挑戦しました。

ライブアクトは、ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)のボーカル&ギターであり、『THE FUTURE TIMES』編集長の後藤正文さんと、後藤さんのソロ作品『LOST』にも参加したYeYeさん。パネルディスカッションには、本願寺派僧侶であり宗教学者の釈徹宗先生、彼岸寺の松本紹圭、後藤さんが参加されました。MCは、毎年おなじみの元・ジョビジョバ 木下明水さんです!

本レポートは、前編でパネルディスカッションの様子を、後編では後藤さんのインタビューをお伝えします。

後藤さんが『THE FUTURE TIMES』を創刊するまでのこと

THE FUTURE TIMES vol.4表紙

後藤さんは『THE FUTURE TIMES』を創刊する以前、2008年頃に「原子力発電所の放射性廃棄物を捨てる場所がない」ことを知り、青森・六ヶ所村の埋設センターを訪れたそうです。また、米軍基地問題に関心を寄せて普天間飛行場の移転先候補地になっている辺野古で、あるいは過去のエネルギー問題について考えるなかで、炭鉱の街として栄えたのち無人島になった軍艦島(長崎・端島)へ行って廃墟を目の当たりにして考えたことを、「Vo.ゴッチの日記(http://6109.jp/akg_gotch/)」で発信されていました。

後藤さんの日記は、多くの人に影響を与えると同時に「電気を使うミュージシャンが何を言ってるんだ」と一部の人たちから反発を受けることもあったそうです。そんななか、東日本大震災が発生。後藤さんは「インターネットから、画面から飛び出さないといけない。もっと確かなメディアに焼きつけよう」と紙を選び、『THE FUTURE TIMES』を自腹で発行し無料で配布しはじめたのです。

紙を選んだ理由は大きくふたつ。ネットでは人は「見たいページだけにアクセスして去っていく」けれども、紙は手にとってめくるうちに知ろうとしていなかった情報に新しく出会う可能性があります。もうひとつは、うっかり喫茶店などに置き忘れていくことで、知らない人が手にとって読むこともあります。こうした”発展性”を後藤さんは「強み」だと考えています。

また、自腹で制作し無料で配布するのは、「お金によるしがらみ」から距離をとり、「広告収入を得ることで広告主に気遣う」ようなことがない状態を保つためです。後藤さんには「何でもお金で買えるという資本主義的な考え方が行きすぎている」という直感があり、「値段のないものを作って、そこで起きる現象が自分の学びになるのではないか」と話されていました。

被災地への寄付は「お金」でいいのか? 

メリシャカLIVE2013 パネルディスカッション 釈徹宗先生と後藤正文さん

パネルディスカッションのなかで、後藤さんは震災直後に「どこに寄付をしよう?」と考えるうちに「本当にお金での寄付がいいのか?」という気持ちになったことを振り返っておられました。「等価交換」ではなく、見返りを求めずにお金や品物、行為を相手に手渡すこと――仏教の「御布施」は「寄付」に通じるところがあります。後藤さんから「御布施について聞いてみたい」と質問を受けて、釈先生が「御布施」の基本的な意味を解説されました。

「御布施は、基本的には手を離すトレーニング。握っている手を離すということは、日々訓練しておかないと、ここ一番というときに手が離れないんです。”老い”や”死”のように、どうしても直面しなければいけない苦しみは、一度捨てないと引きうけられないんですね。御布施には、自分自身の修行という意味があります」

 もうひとつは、シェアするトレーニング。ひとつのものをふたりで食べたほうがおいしいということがありますね。決して金品だけでなく、相手に恐れを与えないことも御布施です。きげんのいい人のそばにいると気持ちがいいですよね。この一瞬を良くするために、御布施としてきげんよくするということもありうると思います」

「見返りを求めずに何かを手渡す」のは、「寄付」にも「御布施」にも共通する行為ですが、「御布施」には「握っている手を離すトレーニング」という意味がある――後藤さんはこのお話に感じるところがあったようです。

大切な人の死を前に「どうやって握っている手を離せばいい?」

メリシャカLIVE2013 後藤正文さんとYeYeさん「LOST」を歌う

後藤さんは、2011年11月30日に『THE FUTURE TIMES』創刊号を記念してダウンロード配信(2012年8月1日からは80KIDZリミックス収録の7インチレコードとして通信発売)した楽曲『LOST』で、「すべてを失うためにすべてを手に入れようぜ」と歌っています。

後藤さんは、「握っている手の離し方」についてもう一歩踏み込んで質問されました。

「死によって一切合財を失うのに、どうしてそんなに貯めこむんだろうって思うんです。ここ何年か、これから先を生きていくにあたって欲望とのつきあい方を考えなければいけないと考えはじめました。自分の大切な人の死との向かい方については、どういうふうに手を離していくと考えるのですか?」

釈先生によると、仏教の原型では「私たちは肉体や精神などいくつかの要素からなる一時的な集合体(仮和合/けわごう)」であり、刻々と状態が変化していくと考えるそうです。「死」とは、あるときこの集合体をつなぎとめている意識が途切れてバラバラになること。それは「この世界・宇宙全体の法則なので、一時的な状態を”あたりまえ”だと思うから死を受けとめられない」ということになります。

しかし、日本仏教は「あっさりとバラバラになってしまう」からこそ「美しいし愛おしいと共に泣く」というウエットな情緒を許容するところに特徴があると話されました。

「人の死には手も足も出ない。なすすべがないわけです。我々はいつの間にか、人生をデザインできるような気になっているけれど、どうにもならないときが来るんですよね。そういうときに人類は宗教儀礼を営むことでちょっとずつ死を受け入れてきました。人が息を引き取った瞬間に、その人のすべてが終わるという文化圏は人類史上どこにもありません。宗教は、死を超えてまだ続くストーリーを持っているのです」

未来と過去は「現在の時間を伸ばす装置」

メリシャカLIVE2013 パネルディスカッション 後藤正文さんと松本圭介

後藤さんは「今は、過去からしか学べないという姿勢がどんどん薄れていて。今あるものに反応するだけでは、良い未来像は出て来ないと思う」と発言。たとえば、「このミュージシャンは今どうしてこの音楽をやっているのか」を理解するには、どういうミュージシャンに影響を受けているのかを知り、そのつながりを見て行く必要があることを指摘されました。その作業には、「つながりを発見する」喜びもまた伴います。

松本さんからは「300年、400年と長い時間のなかにあるお寺を、未来を語る場として活用してほしい」というお話がありました。「どこかの企業の会議室を開放して『未来を考えましょう』と言っても、なかなか50年、100年後をイメージできないと思うけれども、お寺なら長い時間スパンがその場でリアルに感じられることは大きい」と言うのです。たしかに、すでに300年や400年存在しているお寺という場の持つ説得力は、100年後をイメージするときに影響しそうです。

釈先生は、現代にはびこる”消費者体質”について言及されました。待たせないシステムのコンビニのレジ、スイッチを押せばすぐ反応する家電。「パッケージされたサービスを対価を支払って受け取ることに慣れ過ぎて、すぐに結果が出ないとクレームを言ってしまう。時間を短く凝縮する方向が行きすぎると、すごくイライラした社会になるんです」。未来を考え、過去を遡ることが「現在の時間感覚を”伸ばす装置”」として働きます。

後藤さんは「何でもお金に換算して、お金だけが物差しになっているのはおかしいと思う」と言われていました。お金ではなく、思いのやりとりのなかで伝わっていくもの。そして、伝わった相手から受け取るものとは何でしょうか?

「たとえば、僕が『THE FUTURE TIMES』にバイオマスの記事を載せましたけれど、それを読んだ10代の子が将来大学でバイオマスの研究をするようになったら、その未来が僕にとっての収穫です。一銭も入らなくても、僕が思う利益はそれなんです。価値は受け取る側が決めてくれる。お金がいくらとかではなくて。」

「価値を受け取る側が決める」という点において、仏教者(あるいは、宗教者)とミュージシャン(あるいは、アーティスト)には、通じるところがあるように思います。どちらも、お金で換算することができない何かを提供する人たちです。そして、その「何か」は、今生きている時を豊かにするために提供されているのではないでしょうか。(後編、後藤正文さんのインタビューに続く
(写真:メリシャカ提供)

後藤正文さんプロフィール
1976年生まれ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターであり、全ての楽曲の作詞とほとんどの作曲を手がける。これまでにキューンミュージック(ソニー)から7枚のオリジナル・アルバムをリリース。10年にはレーベル「only in dreams」を発足しwebサイトも同時に開設。また、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞「THE FUTURE TIMES」を発行するなど、 音楽はもちろんブログやTwitterでの社会とコミットした言動でも注目され、後藤のTwitterフォロワー数は現在210,000人を超える。

ASIAN KUNG-FU GENERATION http://www.asiankung-fu.com/
THE FUTURE TIMES http://www.thefuturetimes.jp/
後藤正文さんのTwitter https://twitter.com/gotch_akg

○連載:仏教なう

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彼岸寺

ウェブサイト: http://www.higan.net/

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