栃木県【魅力度最下位はホント!?】知られざる魅力を探す旅

栃木県【魅力度最下位はホント!?】知られざる魅力を探す旅

なんでもこの世には「都道府県魅力度ランキング」なるものが存在し、最新の2020年版においては栃木県が最下位になってしまったという。

それを聞いて、急に栃木県の肩を持ちたくなった。小学生の頃、運動会の徒競走で常にビリの存在だった私だ。最下位を喫する無念というのは痛いほどにわかる。

しかし、自分に栃木県を応援する資格などあるのだろうか。胸に手を当てて考えてみる。「栃木県」と聞いて、私が想起するイメージ。まず宇都宮の餃子がぼんやりと現れ、続いてなんとなくイチゴがちらつき、それから日光さる軍団の姿がおぼろげに浮かんで、あとは、……無である。

ハッとする。そういえば、私は一度も栃木県をきちんと観光したことがない。栃木県に対する解像度は、おそろしく低い。ああ、なんということだろう。ランキング最下位にしてしまった一因は、私自身の中にも存在していたのだ。

責任を取るためにも、いますぐ栃木県を旅する必要がある。しかし、どこを訪れれば正解なのか、その見当すらつかない。どうしたらよいものか……。

東京駅

栃木県に対する解像度を上げたい

そんな私に、心強い味方が現れた。「栃木県 観光交流課」というオフィシャルな存在が、栃木県を旅する際の観光スポットを提案してくれるというのだ。

私は大船に乗った気持ちで、JR東京駅から東北新幹線「なすの」号を利用し、関東を北へと目指した。これは栃木県に対する解像度を上げるための旅である。

東北新幹線 なすの

約50分で、JR宇都宮駅着。日光線に乗り換えて約45分、JR日光駅に到着する。

「関東の駅百選」にも選ばれている、ヨーロッパ調の建築様式を取り入れた美しい駅舎が観光客たちを迎え入れている。

日光駅

栃木県 観光交流課から勧められた1日目の観光先、それは言わずと知れた世界遺産「日光の社寺」だ。言わずと知れた、と述べておいてあれだが、その中でも特に有名な日光東照宮が栃木県にあったことを、私は言われるまですっかり忘れていた。

そうだ、栃木県には「日光東照宮」があったのだ。

日光東照宮

キャラが立ちまくりの日光東照宮

日光駅前からバスで約10分、神橋バス停で下車。15分ほど歩くと、日光東照宮の参道が現れる。

日光東照宮 参道

拝観料を支払い、中に進んでみて驚いた。

日光東照宮、思っていた以上に情報量が多いのである。他の神社とは一線を画す、豪華絢爛で色鮮やかな景色がそこには広がっている。

日光東照宮 陽明門

さまざまな動物や人物、それに花鳥風月をあしらった無数の彫刻群が、敷地内のありとあらゆるところに。

どこに視線を集中させればいいのかわからない……。いやいや、冷静にならなければ。私は栃木県に対する解像度を上げるためにここへと来たのだ。

そう思い直し、まずは入り口のすぐそばにある「神厩舎(しんきゅうしゃ)」にピントを合わせることにした。そこには日光東照宮が生んだスーパースター、「見ざる・言わざる・聞かざる」の三猿の彫刻が施されている。

三猿の彫刻

この三猿は人間の幼少期を風刺した彫刻で、「子どもの時は悪事を見たり聞いたり喋ったりしないほうがいい」という教えが込められているという。そしてこの三猿があまりにも有名なものだから見落とされがちなのだが、その隣には人間の青年期、壮年期、そして老齢期を表した猿の彫刻が続く。

私が気に入ったのは、青年期をモチーフにしたこちらの猿だ。

青年期 猿の彫刻

絶望したように、がっくりと俯く猿。「挫折猿」と命名したい。恋人にフラれたのか、それともバイト先で店長に叱られたのか。青春にありがちな1コマである。励ますようにして肩に手を添えている仲間の猿の表情もいい。

それから、こっちの猿にもグッときた。

青年期 猿の彫刻

社会に背を向けて、部屋に閉じこもっている青年を描いたのであろう「モラトリアム猿」である。平気で歯医者をドタキャンしたりしそうな、不貞腐れたトーンがたまらない。私は断然、この猿を推したい。

このように日光東照宮の彫刻たちは、ひとつひとつのキャラが立っている。それぞれを丁寧に見ていくと、きっと日が暮れてしまうことだろう。

眠り猫

三猿と肩を並べるスター「眠り猫」

狩野探幽下絵「想像の象」

狩野探幽下絵といわれる二頭の象

有名どころを押さえていくのもよいが、五千体を超えるといわれている彫刻群の中から、自分だけの「スター候補生」を探していくのも楽しい。たとえば私は、「陽明門」の片側に施されたこちらの彫刻に「将来的に売れる」予感を得た。

陽明門 彫刻

爆睡する虎と3名の大人。眠り猫よりも寝入っている感じが、隙だらけで愛らしい。このカルテットがやがて日光東照宮を代表するタレントになることを私は願ってやまない。

陽明門

彫刻が密集する陽明門

平成の大修理が終わり、どの彫刻も鮮やかな色を放っている。大修理の際に用いられた彩色と漆塗の技術はユネスコ無形文化遺産にも登録されているという。いやはや、圧巻の一言だ。どこを見ても目を奪われる。このタイミングでここに来られてよかった。

近くには、日光東照宮と一緒に「二社一寺」と称される「日光二荒山神社」や「日光山輪王寺」などの風格ある神社仏閣が存在している。体力と時間に余裕があれば是非そちらにも寄ってみてほしい。

日光二荒山神社

西参道茶屋

新スポット・西参道茶屋で休憩

日光東照宮を満喫し、栃木県に対する解像度も上がってきたところで、私は西参道へと向かった。そこには2020年にオープンした、「西参道茶屋」がある。

西参道茶屋

小腹が空いていたので、ここで遅めの昼食をとることにする。「manten chicken grill nikko」でマンテンチキングリルとマンテン焼きオニギリ、さつま芋のサラダなどを注文した。

manten chicken grill nikko マンテンチキングリル マンテン焼きオニギリ さつま芋のサラダ

チキングリルには日光でつくられた醤油と麹が使われていて、素材の旨味をそのままに焼き上げてある。ほのかに山椒が混ぜられている焼きオニギリは香りも含めて美味しい。さつま芋のサラダはグリーンカレー風味ながらも、丸みのある優しい味わい。たくさん歩いたあとには、こういう軽食がなによりも嬉しい。

食後のお茶を求めて、隣にある「茶寮 日りん」にも寄った。

茶寮 日りん ほうじ茶ラテ

ほうじ茶ラテを注文する。
運ばれてきたカップは大きく、そこにたっぷりとほうじ茶のラテが注がれていて、落ち着いた休憩時間を約束してくれる。「茶寮」の名に偽りなしである。添えられたクリームや餡子で味の変化をゆっくりと味わいながら、今日の旅情を振り返る。

初日、日光の観光地としてのポテンシャルは非常に高かった。ランキング最下位なんて、まったくもっておかしな話である。

この日の観光はここで終了。日光駅に戻り、ホテルにて1泊する。

中禅寺湖

異国情緒漂う中禅寺湖

そして2日目。本日のスポットは中禅寺湖である。名前は聞いたことがあるが、その語感からなんとなく長野県あたりに存在している湖だと、いままで勘違いしていた。猛省しつつ日光駅前からバスに揺られること約50分、いろは坂の曲がりくねった道を辿った先に、抜けるような景色が広がった。

中禅寺湖

おおおお。

思わず感嘆の声を漏らす。

実に爽やかな眺望だ。遠くに見える山の稜線がアルプスを思わせ、ヨーロッパを訪れているような錯覚に陥る。本当にここは栃木県なのか。

中禅寺湖では遊覧船のクルーズが楽しめる。だがこの日は湖の水位が低く、中継地の桟橋には着船ができないとのこと。そこで遊覧船は諦め、湖の周辺を徒歩で散策することにした。

中禅寺湖

右手には深く澄んだ湖のブルーがあり、左手には木々が織りなす静かな森の景色が広がっている。頭上から薄く響く小鳥のさえずりが耳に心地よい。

中禅寺湖周辺

中禅寺湖周辺

昔から愛されてきた避暑地

しばらく歩いていくと、桟橋が現れる。

南岸の桟橋

2019年、南岸に完成した桟橋

この桟橋のほど近くにあるのが、「イタリア大使館別荘記念公園」である。

栃木県 観光交流課よると、中禅寺湖畔の豊かな自然や、国際避暑地の歴史とのふれあいが楽しめる公園とのこと。

イタリア大使館別荘

明治の中頃より、中禅寺湖畔は多くの外国人の避暑地として利用されてきたのだという。このイタリア大使館別荘は1928年(昭和3年)に建てられ、1997年(平成9年)まで利用されていた。現在は別荘内も見学することができる。

イタリア大使館別荘 イタリア大使館別荘

自然に調和したデザインが溢れる別荘内は、見学しているだけで豊かな気分になれる。私も老後は、こんな別荘で暮らしたい。そしてロッキングチェアに揺られながら「昔、とても大きなヘラジカを仕留めたことがある」みたいな自慢話を孫たちにしたい。

その隣には、「英国大使館別荘記念公園」がある。

英国大使館別荘

園内には英国大使館の別荘が資料館として復元されている。元々は明治維新に影響を与えた英国の外交官であるアーネスト・サトウの個人別荘だったらしい。

2階には「南4番Classic」というティーラウンジが併設されている。そこでは眼前に広がる中禅寺湖を眺めながら、英国風のスコーンと紅茶を楽しむことができる。

スコーン 紅茶

大ぶりのスコーンを口に運びながら、英国式のアフタヌーンティータイムを嗜む。窓の外の湖を見れば、鴨たちが水面を揺らすようにして泳いでいる。ああ、私はいま、ヨーロッパでのバカンスを存分に味わっている。

中禅寺湖

栃木県は、まったくもって底の知れぬエリアであった。解像度を上げて旅してみれば、そこには予想外にも欧州の姿が立ち昇ったのである。

あらためて疑問に思う。こんなにも多彩な顔を持つ場所が、どうして「都道府県魅力度ランキング」で最下位になってしまったのか。少なくとも、私の中で栃木県はすでに最下位を脱出した。それどころかランキング上位に食い込む勢いだ。

おそらく、栃木県はまだまだ私の知らない未知の景色を隠し持っているはずだ。いままでそこにピントを合わせることをしなかった自分を恥じつつ、日光駅から帰路につく。これからはもっと栃木県に注目していこうと気持ちを新たにした私であった。

東京駅

掲載情報は2021年5月25日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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