JAXAより最新情報奪取成功!? 『太陽は動かない』でも描かれたエネルギー問題の未来を担う 全世界注目の宇宙太陽光発電システムとは
「怒り」「悪人」などヒット作を生み出し続ける人気小説家・吉田修一のサスペンス小説「太陽は動かない」。世界を股にかけた壮大なスケールと、様々なシチュエーションでのアクションシーンなどから映像化は不可能と言われた原作が、主演に数々の作品で強烈なキャラクターを演じ、常に日本映画界のトップを走り続けてきた藤原竜也、共演に竹内涼真をはじめとした豪華キャストを迎え、「海猿」シリーズ、「暗殺教室」シリーズなど日本を代表するエンターテイメント超大作を手掛けてきた監督・羽住英一郎によってついに映像化! 現在、全国で大ヒット上映中です。
【ストーリー】心臓に爆弾を埋め込まれ、24時間ごとに本部への定期連絡を行わなければ5分で爆死してしまう秘密組織”AN通信”のエージェント、鷹野(藤原竜也)と田岡(竹内涼真)の最強バディが、過去最悪のミッションに挑む。そのミッションの内容とは、全人類の未来を決める次世代エネルギーの情報を手に入れるというもの─。この次世代エネルギーの情報を手にし、掌握するということは、まさに世界を支配できるのと同じことだ。権力者の誰もが欲しがるこの情報を求めて、鷹野と田岡だけでなく、世界各国のエージェントや大国の裏組織の人間が一斉に争奪戦に動き出し、命がけの頭脳戦と肉弾戦を繰り広げる!
劇中で藤原竜也演じる鷹野と、竹内涼真演じる田岡が何度も絶体絶命のピンチに陥り、それこそヘリで飛ぼうものなら撃墜され、時に拷問され、時に海に沈められそうになりながら必死に手にしようとする極秘情報こと“次世代型太陽光エネルギー”。現実でも開発されているということを聞きつけ、今回、鷹野と田岡に変わり、日本の宇宙研究の最先端を走る“JAXA(宇宙航空研究開発機構)”の研究開発部門 宇宙太陽光発電システム(SSPS)研究チーム長 杉田寛之氏にお話を伺いました!
(C)JAXA
Q:『太陽は動かない』の設定でも使われている宇宙太陽光発電システム(SSPS: Space Solar Power Systems)は、「宇宙に浮かぶ発電所」とも呼ばれ、再生可能エネルギーの1つとして、エネルギー、気候変動、環境等の人類が直面する地球規模の課題に対して解決の可能性があるシステムと期待されていますが、改めてシステム構造をお聞かせください。
まず、宇宙太陽光発電システム(Space Solar Power Systems:以下SSPS)とは何かご説明させていただきます。いま我々が構想しているのは高度36000kmの静止軌道に大きさ約2.5km×2.4km四方の太陽光発電所を構築して電波(マイクロ波)もしくは光(レーザー)によって宇宙空間で発電した電力を地上に送るという方法です。静止軌道とは地球の自転に同期した軌道で、厳密に言うと静止しているのではなく、約24時間で一周するため、常に地上のある場所から見て真上に位置しており、静止しているように見える軌道です。この軌道ですと地球の影になることもあるのですが、ほぼ24時間太陽光を受けて発電することが出来ます。24時間宇宙で発電して、これをマイクロ波、もしくはレーザーで地球に送るという方法を想定していまして、どちらも電磁波なのですがマイクロ波とレーザーとでは波長が違い、それぞれ一長一短があります。レーザーは雲や雨に遮られやすい性質があるのですが、マイクロ波よりも小型軽量化が可能です。電波の場合は衛星放送をイメージしていただくとわかりやすいと思うのですが、天候に大きな影響を受けることなく地上に届きますので、宇宙で作った電気を常に地上に供給出来ることが大きなメリットになっています。
Q:宇宙に太陽光発電所を作るということですが、それだけ大きな施設を宇宙に作るためにどのような方法を検討されているのでしょうか?
まさに、この発電所をどのように作るかが問題なのですが、約2.5km×2.4km四方となるととても巨大で、いま我々が…人類が作っている最大の構築物である、国際宇宙ステーションが大体サッカー場1面分(約108.5メートル×約72.8メートル)と比べても、とてつもない大きさになります。ここまで大きなものを人類が宇宙で作ったことがないので、どのように段階を踏んで作っていくかが、まさに我々が現在研究している部分になります。とても巨大なので、丸ごと全部地球で作るというのは現実的ではなく、部分部分が一つずつ独立したモジュール単位になったものを打ち上げていき、宇宙空間で繋げていくというような設計にしようとしています。
Q:送電できる範囲はどの程度になるのでしょうか?
宇宙太陽光発電所は日本の上空の静止軌道上にいますので、基本的にはそこから見える範囲には送電可能です。例えばBSの放送が見られる範囲と同じ感覚だと思います。つまり他の東アジアの国に送ることも技術としてはできると思いますので、そういった意味では世界平和への貢献といいますか‥いまは基本的に電力網が各国で確立していると思うのですが、エネルギーネットワークとして国同士が結ばれるひとつの手段にはなりうるかもしれないと思っています。
Q:これから多くのことをクリアしていかないといけないと思うのですが具体的な懸念事項などはございますでしょうか?
我々、JAXAのSSPSチームだけではすべて出来ないというのが現実で、例えば大型の貨物を宇宙へ輸送するという面では、アメリカを中心に大きなロケットを、コストを抑えて打ち上げるような開発が行われており、そういった技術発展を期待している部分もあります。我々としてはマイクロ波とレーザーで効率良く電気を送るという送電方法の研究や、大型の構造物を構築する技術に注目して研究を進めています。
Q:今後どのようなスケジュールで研究が進んでいくのでしょうか?
これは、まだ先の話になるので、時間軸が具体的にはっきり言える段階にないのですが、一つの実証の流れとしては、地上での実験から少しずつ軌道上(宇宙空間)での実験を経て、先ほど申し上げたようなモジュール単位で作っていくような仕組みを、今世紀の後半の実用化に向けて進めていきたいと思っています。JAXAでは国際宇宙ステーションに物資を補給する無人輸送機「こうのとり」の運用がちょうど終わったところで、その後継機のHTV-Xというものを開発しています。その初号機が2022年度に打上げ予定なのでそこに実証実験という形で搭載して、軽量平面アンテナを展開する…SSPSから見ればごく一部ではあるのですが、自動的に展開して結合するような実験システム「DELIGHT」の開発をいま進めているところです。
Q:SSPSが実用化されると、具体的にわたしたちの生活にどんな変化がありますでしょうか?
これもあくまで私個人の意見になるのですが、先程ご紹介したシステムひとつで原子力発電所1基分の電力を賄う規模の想定なので日本中の電力をカバーできるわけではないのです。しかし、このシステムを安く安全に、早く作れるようになれば、我々が使うエネルギーの何割かを賄える発電技術だと思っています。すぐにすべて取って代わるというのは考えにくいのですが、送電できる範囲であれば、送電先をすぐに切り替えることが出来るので、例えば災害時や緊急時にピンポイントでそこに電気を送るという従来にない電力供給方法が実現出来る可能性があると思っています。
Q:地球規模でエネルギー問題に向き合わないといけない状況下にありますがSSPS以外にはどのような研究をされているのでしょうか?
JAXA全体の取り組みという意味ですと、例えばCO2の発生量や分布ですとか、あるいは災害の様子を科学的なデータとして蓄積すること、地球の気候変動をうまく正確に観測するということは我々JAXAの大きな役割のひとつです。SSPS以上に先になるかもしれませんが、エネルギー問題と言う意味では、月の資源を活用して、月面での人類が活動する…自給自足に近いかたちでエネルギーを確保して、地産地消できるような試みは研究として取り組んでいます。それがすぐに地球のエネルギー問題解決につながるかというとわかりませんが、宇宙で出来ることは地球でも出来ると考えることが出来るので、そういった意味では長期的なエネルギー問題の解決には貢献できるのではと考えています。
Q:本作『太陽は動かない』がきっかけで初めてSSPSや、こういった技術やシステムが運用されていることを知り、興味を持った方々もいると思います。エネルギー技術や宇宙産業に関して学ぶことの楽しさ・奥深さについて、メッセージをお願いします。
宇宙に関する研究をしているというと一般の方は、特殊なことをしているという印象をもたれるかもしれないのですが、基本的には身の回りにある自動車ですとか、携帯電話と同じように、技術的には繋がっているものがほとんどです。もちろんまだ使い方が特殊なので、宇宙用の機器やシステムも特殊であることは事実なのですが、我々JAXAとしてはそういったものが、皆さんの身近に、例えば自動車のようにごく普通に使えたり、所有できるものになっていく未来を作ることを考えながら研究を進めています。そういった意味では、特別なものではなく我々の生活の少し先にあるぐらいのものとして捉えていただければと思っています。宇宙での活動領域が広がれば、先ほどお話したような地上のエネルギー問題ですとか環境問題にも、必然的に使える技術が増えますし、我々の視野も含めて様々な選択肢や可能性が広がってくると思います。我々も、地球も宇宙の一部ですから、地球と宇宙は地続きで、同じ世界という意識は持っていて欲しいなと思います。
【動画】映画『太陽は動かない』スペシャル予告
https://www.youtube.com/watch?v=BTYPwvQXnVc
(C)吉田修一/幻冬舎 (C)2020 「太陽は動かない」製作委員会
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