甲冑から高度AIまで、さまざまなパワードスーツのアンソロジー
J・J・アダムズ編『この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選』(創元SF文庫)
パワードスーツは、SFのガジェットとしても、また文学的モチーフとしてもニッチなものだが、きわめて熱心な愛好者がいる。編者のJ・J・アダムズもそのひとり。「自分の全キャリアはこのアンソロジーのためにあった」と言いきっている。
この邦訳版は、二十三篇を収録した原書から、訳者の中原尚哉さんが十二篇をセレクトしたもの。
ひとくちにパワードスーツと言っても、その内容は作品によってさまざまだ。
デヴィッド・バー・カートリー「アーマーの恋の物語」では、装着する者を守る甲冑にして、世界から隔てる圧倒的な壁として描かれる。それを分岐する時間線のアイデアと組みあわせて、甘やかなタイムトラベル・ロマンスに仕立てている。
ジャック・キャンベル「この地獄の片隅に」では、装着者の挙動を学習するAIを搭載したメカニズムである。異星人との戦闘で威力を発揮するはずだったが、小隊は正面攻撃しては無駄死を繰り返している。疲弊するばかりの前線のありさまが生々しく描かれる。
クリスティ・ヤント「所有権の移転」は、人格を備えたパワードスーツの物語だ。元の着用者が殺され、殺した男が新しい着用者になる。一連の事態を、パワードスーツの視点で述べられていく。
高度な学習機能や独立した人格を搭載したパワードスーツは、もはやパワードスーツの姿をしたAIであり、テーマ展開としては現代的なロボットSFになる。これがコミックやアニメならビジュアル的な要素が大きいので、パワードスーツならではのイメージが打ちだせるのだが、小説の場合はそうもいかない。ただし、この邦訳版では、加藤直之さんの扉絵が作品ごとに施されており、イメージを補ってくれる。心憎い演出と言うべきだろう。
ITやマテリアルの先進技術が凝らされたパワードスーツよりも、むしろ無骨な機構を集積してつくられた戦闘装甲のほうが、趣があって人気が出そうな気がする。デイヴィッド・D・レヴァイン「ケリー盗賊団の最期」では、開拓時代のオーストラリアを舞台に、無法者の親玉に依頼され(なかば脅されたのだが)、老発明家が制御機構を備えた甲冑を開発する。テンポの良いスチームパンクで、物語の面白さにおいてはこのアンソロジー随一である。
ジャック・マクデヴィット「猫のパジャマ」も、ストーリーテリングで読ませる。事故で破損した宇宙ステーションから一匹の猫を救いだそうとする、ただそれだけの話だが、救助を決断する主人公とそれをサポートする研修生のやりとりが絶妙で面白い。ステーションの近傍にパルサーがあるという、特殊な状況下で、些細な(しかし主人公にとっては切実な)目的を、いかに達成するか。その工夫にパワードスーツがかかわってくる。
(牧眞司)
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