ごみ捨て場が憩いのサロンに! 奈良県生駒市「こみすて」が面白い

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ごみ捨て場が憩いのサロンに!  奈良県生駒市「こみすて」が面白い

日々、何気なく行っている「ごみ捨て」を切り口として、地域のコミュニティを活性化させる「こみすて」という取り組みが奈良県生駒市の萩の台住宅地ではじまりました。どんな取り組みで、まちにどんな変化があったのでしょうか。中心となっている自治会や行政、企業に話を聞きました。

ごみ捨てしながらおしゃべり。子どもも大人も楽しめる場所に!

一戸建てやマンション、住まいの種別によっても異なりますが、日々、行う「ごみ捨て」。ご近所の人や同じマンションの人が自然と集まるため、すれ違えば軽く会釈をする、あいさつをするという人も多いことでしょう。このごみ捨ての「自然と人が集まる」特性を利用してはじまったのが、「こみすて」という取り組み。「こみすて」は、「ごみすて」と「コミュニティステーション」をかけて名付けられた愛称です。

「こみすて」をはじめた奈良県生駒市の萩の台住宅地自治会。加入している世帯は700世帯ほどで、大阪からのアクセスが良い郊外の住宅街です。ここでは、自治会館脇の入り口付近に資源ごみ回収ボックスを設置し、家から出る生ごみや廃油、小型家電、ベルマークやペットボトルキャップ、廃トナー、使用済み切手が持ち込めるようになっています。

ごみ捨てをきっかけにした地域活性化の取り組み。宮城県南三陸町でアミタが行った実証実験がベースになっている(写真提供/アミタ株式会社)

ごみ捨てをきっかけにした地域活性化の取り組み。宮城県南三陸町でアミタが行った実証実験がベースになっている(写真提供/アミタ株式会社)

この「こみすて」の最大の魅力は、この場に行けばコーヒーを飲みながらご近所の誰かに会えて話しができたり、思い思いに過ごせたりする点でしょう。特に現在は新型コロナウイルスの影響で、なかなか大勢の人が一度に集まることは難しくなっていますが、ここでは子どもから高齢者まで自然と会話が生まれ、少しずつ距離を縮めて、顔なじみになっていくといいます。

訪れた人にコーヒーがふるまわれることもある(写真提供/中垣由梨さん)

訪れた人にコーヒーがふるまわれることもある(写真提供/中垣由梨さん)

マルシェでは子どもたちが活躍する姿も(写真提供/アミタ株式会社)

マルシェでは子どもたちが活躍する姿も(写真提供/アミタ株式会社)

実証実験時はリユース市も常設されていた(写真提供/アミタ株式会社)

実証実験時はリユース市も常設されていた(写真提供/アミタ株式会社)

2019年12月に「日常の『ごみ出し』を活用した地域コミュニティ向上モデル事業(※)」の実証実験として始まったこの「こみすて」の運営を担っているのは、現在は自治会長の山下博史さん、佐藤郁代さん、大谷良子さん、木村文穂さんはじめ、地域住民のみなさん。最初に社会実験としての立ち上げに携わったのは、アミタ株式会社の社会デザインPJチーム(当時)、設計のアドバイスを行ったのが株式会社グランドレベルの大西正紀さんです。

アミタの、ごみ出しという誰もが日常的に必要な行為をきっかけに、誰もが参画・協働できる持続可能なコミュニティを形成したいという想い。ごみ捨てに来てコーヒーを飲めるなどさまざまな要素が集まる、生駒市の複合型コミュニティづくりを推し進めていきたいという想い。それらが重なり、実証実験を経て、2020年度からは、「複合型コミュニティづくり」という施策のひとつとして進めています。また、地域新電力会社であるいこま市民パワー株式会社がコミュニティサービスの一環で「こみすて」をはじめとする「複合型コミュニティづくり」支援をしています。

「何するの?」からスタート。すると思わぬ出会いが!

とはいえ、そもそも「ごみ捨て」で地域活性化といっても、今までの世の中にはない仕掛けです。仕掛ける側、地域の方々ともに戸惑いはなかったのでしょうか。

「実証実験開始前にアミタさんや行政から話を聞いたときには、『具体的に分からん、何するの?』と質問しましたね(笑)。ただ、環境問題解決や地域の活性化になるのであれば、これは正しいし、やったほうがいいだろうと。幸い、現在の自治会のメンバーは助けてくれる人も多く、まあなんとかなるだろうと始まりました」と自治会長の山下さんは振り返ります。何をするのか分からなかったのは、自治会の大谷さんも同じだったと述懐します。

「取り組みをなかなか十分に理解ができていなかった部分がありますね。特に、緑道に生ごみの資源化装置が運び込まれたときは驚きました。民家も近いので、物音や話し声、ニオイなど、周辺に迷惑がかからないよう気を使いました」と話します。

生ごみ資源化装置、通称「めたん君」。ここで生ごみはガスと液体肥料になる(写真提供/アミタ株式会社)

生ごみ資源化装置、通称「めたん君」。ここで生ごみはガスと液体肥料になる(写真提供/アミタ株式会社)

ただ、こうした「こみすて」の取り組みにいち早く反応した人がいました。萩の台住宅地で育ち、現在は働きながら子育てをしている真下藍さんです。

「2019年11月に、生駒市主催のイベントでグランドレベルの田中元子さんの講演を聞いていて、自分の好きなまちで自分の好きなことをやる“自家製公共(マイパブリック)”や、まちの目の高さの風景(グランドレベル)をいかにつくるか ということが気になっていたんです。そのあと、資源ごみステーションをつくるために、アミタさんとグランドレベルさんがこの街に視察に来られていた現場に、偶然出くわしたのです。『これは面白くなりそう。きっと思いもよらない景色が生まれるはず……!』と直感して、立ち上げのタイミングから、ここで生まれる風景を記録して共有したいと思いました」といいます。

真下さんの直感は当たり、住民の自主的なDIYでベンチができたり、今まで自治会活動とは関わりなかったような若い世代が積極的に関わるようになっていったとか。また、ロゴをつくったり、真下さんがSNS「こみすてノート」 で発信していくことで、生駒市内外にも取り組みが知られるように。このときは実証実験ということで、アミタのスタッフが常駐し、地域交流のイベントを計画し実行することも多かったとのこと。こうして地域に「こみすて」が徐々に浸透していったといいます。

「こみすて」に「子どもスタッフ」の登場! 地域に笑顔が生まれる

取り組みで大きかったのは子どもたちの存在です。

「アミタのスタッフさんに子どもたちがよくなついて集まるように」(大谷さん)といい、ついには“こみすて子どもスタッフ”として自主的に関わるように。

(写真提供/アミタ株式会社)

(写真提供/アミタ株式会社)

子どもスタッフの名刺。子どもたちの活躍がこみすての起爆剤に(写真提供/こみすてノート)

子どもスタッフの名刺。子どもたちの活躍がこみすての起爆剤に(写真提供/こみすてノート)

地域の子どもたちにペイントしてもらったこみすての壁画。ほかにも、DIYで作成したものが多数(写真提供/こみすてノート)

地域の子どもたちにペイントしてもらったこみすての壁画。ほかにも、DIYで作成したものが多数(写真提供/こみすてノート)

確かに子どもの字で書かれたお知らせやごみの分別の仕方を見ていると、これは大人が守らねばという気持ちになります。こうしてワイワイと楽しんでいることで、高齢者も積極的に参加するようになり、仲間が増えていったといいます。

おえかきボードの設置や現地掲示物を作成する子どもスタッフたち(写真提供/アミタ株式会社)

おえかきボードの設置や現地掲示物を作成する子どもスタッフたち(写真提供/アミタ株式会社)

「記憶に残っているのは、ご高齢のおばあちゃんかな。『こみすて』に来るのが日課になって、人に会って会話をすることで気持ちのうえでも、足腰の健康のうえでも張り合いになったようで。通ううちに、記憶もしっかりしていったのが印象に残っています」と山下会長は言います。

実利的な側面として、家庭から出るごみの量が減るという効果もありました。ただ、新型コロナウイルスの影響もあり、実証実験はいったん2カ月で終了となりました。それでも2020年12月に、自治会が主体となって、小さくとも再スタートをきることに。

「予算やスタッフなど、実証実験中のようにはいきませんが、とにかく身の丈で楽しく続けていこうと」(山下会長)。とはいえ、萩の台住宅地の自治会も、高齢化や自治会の担い手不足などとは無縁ではありません。それでも、取り組む理由はどこにあるのでしょうか。

「『こみすて』も自治会活動も、継続がいちばん難しい。年齢的にもどこまでできるか分からないけれど、続けていくには、楽しく取り組んでいる姿を見せるのが一番なんじゃないかな。さきざき、どうやっていくかは若い人たちにまかせて(笑)、できることを楽しそうに続けていくことがいいと思っています」。また、大谷さんも、「継続していくことで今は無関心な人も、遠くから見ている人も参加してくれると思います」と話します。

初対面同士がベンチに座って談笑。実証実験ではこのような光景が随所で見られた(写真提供/アミタ株式会社)

初対面同士がベンチに座って談笑。実証実験ではこのような光景が随所で見られた(写真提供/アミタ株式会社)

現役世代の真下さんはどのように感じているのでしょうか。

「私自身、出産直後に住んでいた所では、慣れない子育てで孤独を感じていた経験があり、近所に『こみすて』のような場所があれば毎日行っただろうなと思います。地域にどうやって溶け込んでいけばいいのか悩んでいる人にも、『こみすて』の魅力を知ってもらえたらうれしいですね。ただ、無理をして人を集めるのではなく、自分たちがここでやりたいことを思いっきり楽しむことが、人をひきよせるエネルギーになればいいなと思っています」と言います。実際、引越して間もない子育て中のお母さんが、再開後の『こみすて』に1歳の娘さんを連れてくるようになり、自治会館で実施されていた『いきいき100歳体操』に参加してくれたこともありました。

緑道を整備した時の切り株で、2020年12月にコミュニティバス停前にDIYでベンチを設置。写真は色塗りの様子(写真提供/アミタ株式会社)

緑道を整備した時の切り株で、2020年12月にコミュニティバス停前にDIYでベンチを設置。写真は色塗りの様子(写真提供/アミタ株式会社)

萩の台住宅地自治会の取り組みはまだはじまったばかりです。地域の中でできることややりたいことを、一人ひとりが少しずつ発揮していくことで、より住みやすく楽しいまちへと変わっていけるのかもしれません。

●取材協力

アミタホールディングス株式会社

アミタ株式会社(自治体、地域向けサイト)

奈良県生駒市

いこま市民パワー株式会社

株式会社グランドレベル

こみすてノート

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イコマカメラ部(中垣由梨さん)

生駒市萩の台住宅地自治会

●参考資料

「日常の『ごみ出し』を活用した地域コミュニティ向上モデル事業」 元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2021/02/178470_main_new.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル

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