商店街を百貨店&シェアハウスに!? 北九州「寿百家店」がつくる商店街の新スタンダード

商店街を百貨店&シェアハウスに!? 北九州「寿百家店」がつくる商店街の新スタンダード

全国で“シャッター商店街”が増え続ける一方、さまざまな工夫により再生し、注目を集める商店街もある。福岡県北九州市黒崎の「寿通り商店街」でも、“ニューノーマルの商店街”を目指す新たなプロジェクトが始まった。商店街を“百家店”に、を掲げる「寿百家店」プロジェクトだ。商店街の一部区画をフルリノベーションし、店舗とシェアハウスに生まれ変わらせるという。取り組みの詳細を伺った。

シャッター通りを、店舗+シェアハウスにリノベーション

黒崎は、北九州市内でも小倉に続く中心街だ。しかし、2020年7月には駅前の百貨店「井筒屋」が閉店。まちのにぎわいに陰りが出ている。

寿通り商店街は、そんな黒崎駅からほど近くにあり、戦後間もないころから続いている。長らく地元の人々の暮らしを支えてきたが、2016年時点では13店舗中8店舗が空き店舗となり、シャッター通りと化していた。

そんな寿通り商店街の“ニューノーマル”をつくろうと2020年5月から始まったのが、「寿百家店」プロジェクトだ。

商店街の一角にある3物件、合計174.83平米(52.88坪)の1階部分をテナント11区画に、2階部分を4室+LDKのアーケードシェアハウスへと変化させる、という。シェアハウスの住民と商店街の人々が相互に関わり合い、まちを活性化させることを目指す。計画はコロナ禍以前から始まっていたが、オンラインマーケットの構想もあり、注目を集めている。

寿通り商店街(写真撮影/加藤淳史)

寿通り商店街(写真撮影/加藤淳史)

完成予想図。1階が店舗、2階がシェアハウス(画像提供/株式会社寿百家店)

完成予想図。1階が店舗、2階がシェアハウス(画像提供/株式会社寿百家店)

テナント誘致には“起爆剤”がいる

プロジェクトをリードするのは、PR・企画会社「三角形」代表の福岡佐知子さんと、建築事務所「タムタムデザイン」代表の田村晟一朗さん。二人とも、寿通り商店街との付き合いは長い。

福岡佐知子さん(写真撮影/加藤淳史)

福岡佐知子さん(写真撮影/加藤淳史)

はじまりは、福岡さんのもとへ当時の商店街の組合長から「寿通り商店街を活性化したい」という依頼があったことだ。当初はイベントの企画・運営などを行っていたが、「イベントをやっても、一時的に盛り上がるだけで終わってしまう」ことに課題を感じていたという。

「本格的な活性化に取り組むためには、“中心人物”が必要です。でも、当時の商店街は高齢の方も多く、なかなか先頭に立って進められる方がいなかった。ならば自分がと思い、商店街に事務所を移転することにしたんです」(福岡さん)

その後、商店街に、自身でワインバー「TRANSIT」や総菜店「コトブキッチン」をオープン。それまで飲食店経営の経験はなかったというから驚きだ。

「飲食店があることで、さまざまな人が集まって言葉を交わしたり、お金を落としてもらったりすることができる。“まちづくり”に興味を持つ方は限られますが、飲食店を介してなら、多くの方に自然な形で“まちづくり”に参加してもらうことができると思うんです」(福岡さん)

178227_sub04 旬の素材を使った総菜が並ぶコトブキッチン。取材当日も、常連客が次々とやってきた(写真撮影/加藤淳史)

旬の素材を使った総菜が並ぶコトブキッチン。取材当日も、常連客が次々とやってきた(写真撮影/加藤淳史)

さらに、まちの人たちを巻き込み、空き店舗のシャッターを塗り替える「トム・ソーヤ大作戦」などさまざまなプロジェクトも仕掛けていった。

並行し、テナントを誘致する活動も行ってきたが、「このままでは限界がある」と感じるようになったという。

「家賃が安いからと見に来てくれた方がいても、シャッターを開けてボロボロの建物を目にすると、すっと引いていってしまう。このままの状態で待つのではなく、こちらで場を整えて待つ必要がある、何か起爆剤がいる、と考えるようになりました」(福岡さん)

シャッターの色を塗り替え、空き店舗の暗い印象を変えたトム・ソーヤ大作戦(画像提供/株式会社寿百家店)

シャッターの色を塗り替え、空き店舗の暗い印象を変えたトム・ソーヤ大作戦(画像提供/株式会社寿百家店)

商店街と住宅の共存関係をつくる

「TRANSIT」の常連客として福岡さんと知り合い、「コトブキッチン」の設計を担当したのが田村さんだ。

二人が会話を重ねる中で、「寿百家店」の構想は生まれた。

田村晟一朗さん(写真撮影/加藤淳史)

田村晟一朗さん(写真撮影/加藤淳史)

2階をシェアハウスに、というのは田村さんのアイデアだ。実は、田村さん自身が手掛けた先行事例が福岡県行橋市に存在する。「アーケードハウス」と呼ばれるその住まいは、同じく衰退していた商店街に灯りをともした。テナント入居のポテンシャルを失った空き店舗の優れた利活用方法として、リノベーション・オブ・ザ・イヤー2016で総合グランプリを受賞している。

「暗いシャッター街に、街灯ではなく住宅の灯りがあることで、安心感が生まれます。寿通り商店街でも、商店街と住宅の共存関係をつくっていきたいんです」(田村さん)

行橋市のアーケードハウス。2階部分が住まい(画像提供/タムタムデザイン)

行橋市のアーケードハウス。2階部分が住まい(画像提供/タムタムデザイン)

寿百家店、2階シェアハウス部分のスケッチ(画像提供/タムタムデザイン)

寿百家店、2階シェアハウス部分のスケッチ(画像提供/タムタムデザイン)

住んでもらいたいのは「1階の店主やまちづくりに関心がある方など、一緒にプロジェクトに関わってくれる方」、そして「学生や若い世代」という。

「大人が頑張っている姿を間近で見て、『このまちって面白いな』と思ってもらえたら理想ですよね。それは将来的なUターンにもつながると思うんです」(田村さん)

田村さん自身は、実は高知県の出身だ。

「自分は若いころにふるさとの魅力に気づけず、北九州で事務所を立ち上げました。北九州のまちがすごく気に入ったからですし、後悔もしていません。ですが、地域にとって理想は、若い方が地元の魅力に気づいた上で一度外に出て、地元に無いものを持ち帰ってくることだと思うんです」(田村さん)

寿百家店2階のシェアハウス。既存の建物を活かしながら、新たに窓を設けることで明るさを足した(写真撮影/加藤淳史)

寿百家店2階のシェアハウス。既存の建物を活かしながら、新たに窓を設けることで明るさを足した(写真撮影/加藤淳史)

シェアハウスからの風景(写真撮影/加藤淳史)

シェアハウスからの風景(写真撮影/加藤淳史)

1物件につき3店舗のテナントが入れるようコンパクトに区切り、さまざまな店舗を誘致するアイデアは福岡さんから生まれた。1店舗ずつのスペースをコンパクトにして水まわりなどを共有することで家賃を抑え、入居ハードルを下げている。

誘致する店子についても、二人には明確なイメージがあった。

「自分で生み出せる方。自身で技術を持っている方、自身で表現ができる方。誰にでもできる商売ではなく、専門性を持った店・人があつまることで、商店街全体の価値が上がる。ここでしか得られない体験をつくることが重要だと考えています」(田村さん)

1階部分のスケッチ。入居店舗のイメージも記載されている(画像提供/株式会社寿百家店)

1階部分のスケッチ。入居店舗のイメージも記載されている(画像提供/株式会社寿百家店)

一人ではできない「面白いこと」を、一緒に

現在、2021年5月までの全店オープンを目指し準備を進めている。シェアハウスの入居者は募集中だが、1階は約半年で全テナントが決定したという。

「ネイルサロン」「ガラス細工のお店」「アートギャラリー」「地元野菜を売る八百屋」「地元の飲食店に役立つ本屋」「アパレル販売店」「ラーメンと甘味の店」、そしてドライヘッドスパとハーブティの販売をする「To me…」が開業予定だ。

「To me…」店主の豊東久美子さんは、これまで店舗を持った経験がない。地元の北九州で店を開きたいと考え、物件を探していたときに、たまたま寿百家店のことを知った。入居説明会を聞き、即決したという。

「福岡さんと田村さん、お二人の話を聞いて、『北九州で、こんな面白いことができるのか!』とわくわくしました。

一人で『面白いこと』を仕掛けるには、アイデアの面でも費用の面でも限界があります。新規開業ということもあり、孤独感、不安感もありました。この場所なら、一緒に面白いことを仕掛けていけるのではないかと思ったんです」と語る。

ドライヘッドスパをもっと身近なものにしたい、という思いにもマッチする場所だった。

「仕事の合間や買い物のついで、家事育児の合間に寄れるような場所にしたいんです。この場所なら、美容室や飲食店、いろんなお店のついでに立ち寄ってもらえるのではないかと思いました」(豊東さん)

商店街ならではの、「お隣さん」との関係も魅力と語る。かつて商業施設内のテナントに勤めていたこともあるが、近隣店舗との交流はほとんど無かったという。

「既に田村さんや福岡さん、学生スタッフの方々にもたくさんサポートしていただいています。

先日も1日限定のマルシェに参加しましたが、その時も商店街の方はじめ、たくさんの方とつないでいただきました」(豊東さん)

オープン後は、アロマやハーブを使ったワークショップもやりたい、と意気込みを語る豊東さん。

「大人だけでなく、例えば夏休みの宿題に合わせたものなど、子どもたち向けのイベントもやりたいと考えています。地域に根差していけたら」(豊東さん)

豊東久美子さん(写真撮影/加藤淳史)

豊東久美子さん(写真撮影/加藤淳史)

オフラインとオンラインが同居する商店街へ

寿通り商店街の目指す姿について、田村さん、福岡さんはこう語る。

「『あそこに行ったら何かやっている』という期待感がないと、人は集まらないですよね。昭和40年代~50年代は、商店街がそういう場所だったと思うんです。それが無くなったから衰退している。ワクワク感、期待感をつくっていくことが大切だと考えています」(田村さん)

「用事がなくても行ってみよう、ちょっと遠回りして帰ろう、と思ってもらえるような場所にしていきたいですね」(福岡さん)

コロナ禍の影響で、当初の計画に狂いも出た。しかし、田村さんはこう語る。

「前提として、寿通り商店街はロケーションが良いです。換気も良いし、アーケードだから雨が降っても大丈夫。内でもあり外でもある、特別な空間です。それはコロナ禍においても武器になるはず」

さらにコロナ禍において特に中国で活発になった、ライブ動画を見ながら商品を購入できるライブコマースからもヒントを得た。5月の全店オープンに合わせ、オンラインマーケットのオープンも準備中だ。

「オンラインで買い物する場合も、リアルと同じように店主と会話したり、他の客と店主の話を聞いたりできるよう、システムを整えていく予定です。海外のお客さんにも来てもらえるように、ゆくゆくは店主の皆さんに英語を習得してもらう必要もありますね」(田村さん)

寿百家店は、商店街の11区画中3区画を使用したプロジェクトだ。今後、残りの区画にも着手していくのだろうか。

「まずは今の区画でモデルケースをつくるつもりです。それをもとに、寿通り商店街内だけでなく、全国に広めていけたら、と考えています。

『前例』がないので、テナントやシェアハウス入居者の集め方、オープン後の集客の仕方も、自分たちでイチから試さなければいけない。それはとても苦労している点ですが、周囲の方々がさまざまな形で後押ししてくれていますし、ここで事例をつくれたら、全国の同じような商店街の方々にとっても意味があると思うんです」(田村さん)

寿通り商店街にて(写真撮影/加藤淳史)

寿通り商店街にて(写真撮影/加藤淳史)

全国へと広がる商店街の“ニューノーマル”になるか

シェアハウスと店舗が共存する商店街。ただでさえ前例のないプロジェクトに、コロナ禍が重なり、難易度は増した。苦労を重ねる一方で、オンラインが広く浸透したこの時勢を、二人はチャンスとも捉えている。

寿百家店の取り組みは、全国の商店街に展開できる“ニューノーマル”となるか。5月のオープンを、楽しみに待ちたい。

●取材協力

株式会社 寿百家店 元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2021/02/178227_main.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル

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