2021年2月13日施行の改正特措法。新型コロナ協力要請に応じないと「命令」「罰金」対象に。回避できる「正当な理由」の証明は困難!?
新型コロナウイルス感染症対策として特別措置法などの改正法が成立。実効性を高めるための付帯決議ともに、まもなく施行されます。感染者の増加で医療現場がひっ迫していることに加え、緊急事態宣言の対象地域では、「協力要請」だけでは有効な対策を講じることが難しいという問題がありました。宣言の延長で厳しい経営を強いられてきた飲食店がさらに疲弊するなか、国の支援が現実的なものではないとして、時短要請に従わない店舗が現れたり、感染者が速やかに適切な医療行為を受けられない一方で、入院や宿泊療養、検査要請に従わない人がいるなど、法的な強制力がないことの不備が指摘されてきました。
今回の改正法の成立までには、こうした要請に対して従わない場合の罰則規定を巡って内容の是非が取りざたされていました。感染症のまん延を食い止め医療崩壊を阻止するためとはいえ、生活維持のためにギリギリの選択を迫られている事業者や、保護するべき家族を持つ人にとって、どこまで法的な拘束力で行動を制限されるのかが気になるところです。弁護士の片島由賀さんに聞きました。
刑事罰ではなくても違反の証明や罰則免除の事例などの細則と、立ち入り検査といった状況の把握が必要。直ちに行政罰が科せられるということにはならない可能性が
Q:今回の感染症関連の法改正のポイントは?
——–
今回、新型コロナウイルスに対応する「特別措置法」と「感染症法」、「検疫法」で法改正がなされました。
その内容でポイントとなるのは、これまでの「協力要請」「指示」から一段階強制力の強い「命令」について、立ち入り検査のうえ過料(行政罰)、事業所名の公表などの「罰則規定」が設けられたことと、新たに「まん延防止等重点措置」が設けられた点です。
「まん延防止等重点措置」とは、
①店舗の営業時間などの短縮命令が可能
②都道御府県単位(場合により市町村単位)の特定地域に限定した発令
③適用期間は最大6カ月と、比較的短期間
④適用の目安はステージ3相当、急激な拡大期にはステージ2も
これまでの緊急事態宣言が都道府県単位の広域対象(全国レベル)で、しかもステージ4相当と高い要件を満たす必要があるのに対し、特定の地域に短期間・集中的に店舗の時短要請、また要請に応じない場合は「命令」が出せるというもの。
これによって緊急事態宣言が出ていない場合でも知事などが、ある程度の行動抑制を求めることができることになります。
過料が発生するのは、
①店舗や事業所が時短命令に応じなかった場合
②感染者が入院勧告に応じない、入院先から逃亡するなどの場合
③保健所の調査を拒否、または虚偽の申告をするなどの場合
このほか海外からの入国者に対する感染症法関連でも、感染者の自宅待機要請違反などに行政罰が設けられます。
いずれも、正当な理由なく応じなかった場合や勧告したうえで従わなかった場合などに、立ち入り検査などを踏まえた上で罰則が科せられることになります。
Q: 緊急事態宣言が発出された際にも、各都道府県の感染状況や事情によって対応がまちまちだった印象です。地方での対策の拠り所となる感染症関連の法律が改正されることで、何が変わるのでしょうか?
——–
感染が広がり始めていた当初、地域によって感染状況が大きく異なっていても、従来の特措法では地域独自に時短要請を出すなどが難しかったようです。
今回のまん延防止等重点措置の「特定の地域」に、都道府県単位あるいはそのうちのさらに限定された地域が当たるのであれば、地域の実情に合った対策が打てる可能性が期待できそうです。法的な規定があれば、当初のように都道府県知事と国の間で認識の違いがあって、多くの人が戸惑うような事態は回避できるのでは、とも考えられます。
ただ要請や命令を出す際には、国との調整や感染症の専門家の意見も聞かなければならないとされており、手続き上も従来通りの段階を踏む必要があるようです。慎重な判断が求められるという点では、改正前とあまり変わらないことになりそうです。
Q:時短協力要請では、支援金が支給されないことを承知のうえで通常営業を続ける店舗もありましたが、こうした店舗が直ちに罰せられることになるのですか?
——–
緊急事態宣言と同様、まん延防止等重点措置についても直ちに出されるというものではありません。さらに協力要請から命令に至るまでには、立ち入り検査など状況の把握が必要ですので、おそらくすぐに行政罰が科せられるということにはならないでしょう。
【具体的な過料(行政罰)】
・事業者が営業時間短縮命令を拒んだ場合
緊急事態宣言下…30万円以下、まん延防止等重点措置下…20万円以下
・感染者が入院拒否をした場合…50万円以下
・感染者が疫学調査の協力を拒否した場合…30万円以下
Q:感染や濃厚接触者であることが判明した後の行動の制限について、どの程度の強制力があるのかが気になります。罰則免除の具体的な内容は今後の課題となるようですが、どのようなケースが考えられますか?
——–
改正法ではいずれも「正当な理由がないのに、これに従わない場合に過料を科す」とされています。患者や家族に必要な介護や保育などの福祉サービスが確保できないなどの事情がある場合は、この「正当な理由」に当たるため、罰則が免除されると思われます。
また現実には医療現場のひっ迫によって、感染者が入院を希望しているにも関わらず自宅療養を余儀なくされるなどの事態もあるようですから、そもそも「従わない場合」と言うには、あまりに実情とかけ離れているような印象もあります。
「どのような場合に罰則が免除となるか」というよりも、「違反にいたった事情が正当な理由があるものといえるかの証明」のほうが難しいようにも思われます。
どのような場合に罰則対象となるのか、どの程度厳しく違反者を取り締まるのかについては、むしろ今後個別のケースで行政の対応を慎重に見ていくしかないのかもしれません。
Q:感染者が故意にその事実を隠し、マスクや自宅療養などをしなかったことで結果的に感染を拡大させてしまうようなことが以前にも報道されました。改正法ではこうしたことの抑止にもなるということでしょうか?
——–
これまでに「陽性が判明したにも関わらず飲食店を訪問し店員に感染させた」あるいは「店舗に消毒作業など余分な負担を強いることになった」「休業を余儀なくさせた」などの事例が報道されています。本人に「どの程度故意の認識」があるかにもよりますが、こうした行為については業務妨害など他の犯罪行為と同様の罪に問われることがあります。
また勤務先への出勤停止などは、新型インフルエンザなどほかの感染症でも規定があります。出勤停止要請や命令に従わない場合、今回のような行政罰とは別に就業規則違反による処分のほか、企業や店舗から損害賠償請求がされる場合もあります。
いずれにしても「故意に感染を拡大させた」という事実の証明が必要ですから、罪に問うこと自体はかなり困難かとは思いますが、「わざわざトラブルを招きたくない」「不利益を被りたくない」というような心情的な抑止力にはなるかもしれません。
Q:罰則に関して、法令成立までの段階で懲役などの刑事罰を排除し、前科のつかない行政罰となりました。罰則導入で人の行動が変わるものでしょうか?
——–
今回は、検討されていた刑事罰が見送られたという経緯が報道され、物議をかもしました。時短営業で少なからぬ不利益を被ることになった店舗事業者にとっては、国の支援体制が十分ではないなか、懲役刑などの刑事罰を科されることに大きな抵抗があるのは当然でしょう。
さらに罰則を科すためには、その違反内容を明確にする必要があります。行政罰と言うと、道路交通法違反の反則金を例に挙げることが多いようですが、そもそも交通違反では違反内容が客観的に細かく規定されています。また日常的に頻繁に起こりうるものですから、よほど悪質なものでない限り「立件・起訴・裁判」といったことにはなりません。
コロナ関連の要請や命令を拒んだ場合に刑事罰を科すには、こうした公平性の担保が難しいという事情もあって、最終的に見送られたものと思われます。ただ行政罰であっても、違反の証明や罰則免除の事例などの細則が必要であることに違いはありません。
前述のように心情的な抑止にはなるのかもしれませんが、それにしても改正法の内容を多くの人が正確に理解する必要があると思います。緊急事態宣言下にある地域の直近の人出を見ても、いまなお不要不急の外出自粛がなされているかは疑わしいところです。
また一方では、罰則規定でこれまで以上に感染者や医療従事者に厳しい目が向くようなことも懸念されています。改正法と同時に可決された付帯決議には、罰則や過料について「国民の自由と権利が不当に侵害されることのないよう慎重に運用し、不服申し立てなどの権利を保障する」とし、業者への財政支援について「要請による経営への影響の度合い等を勘案し、必要な支援となるよう努める」などとしています。罰則規定だけではなく、こうした取り組みのほうも推し進めていけるのかどうかが、今後の大きな課題になるでしょう。
最新の気になる時事問題を独自の視点で徹底解説するWEBメディア「JIJICO」。各分野の専門家が、時事問題について解説したり、暮らしに役立つお役立ち情報を発信していきます。
ウェブサイト: https://mbp-japan.com/jijico/
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。